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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
307/373

(伯爵)17

 ポール殿の声が風魔法でフロアの隅々にまで届いた。

「すでに謀反は鎮圧されました。

外に出ても大丈夫です。

ただ、注意を一つ。

清掃していますので濡れた床で滑らぬ様にして下さい」

 観覧席の一角から堂々たる声で、質問が発せられた。

「謀反人は誰だ」

「近衛軍が二個小隊。

これらに部外者が加わっていた」

「部外者とは誰だ」

「とある侯爵家の者が二十数名」

 執拗に質問が続いた。

「どこの侯爵家だ」

「鑑定した者によると、小早川侯爵家」

 この遣り取り、出来レースだ。

小早川家の名を当初から明らかにして逃げ道を封じた。

こうなると門閥本家・毛利家も庇いきれないだろう。


 んっ、強力な魔波。

これは、・・・。

近くで術式が起動した。

自分で言うのも何だが、美しい術式。

防御に徹した術式。

もう考える必要はない。

俺は立ち上がりながら、カールに告げた。

「イヴ様が襲われている」

 大勢の人の目があるが、命には換えられない。

身体強化を最大にして駆けた。

探知魔法も起動した。

赤絨毯の先のドア内外を探索した。

内側にも外側にも番をしている近衛兵が二名ずつ。

声を掛ける無駄は省略。

土魔法起動、持ちうる最大で、ドアに穴を開けた。

俺が通り抜けられる穴を。

 俺は壊すだけではない。

通り抜けた直後に、復元。

穴を元に戻した。


 背後から声が聞こえた。

誰かの俺への呼び掛け。

急ぐのでそれは無視。

 ドア内外の近衛兵だけでなく、

フロア全体の近衛兵の視線が俺に集中するが、説明する暇はない。

表玄関から外に出た。

確かに外は至る所、清掃中。

近衛兵と従士が、建物の外周を水撒きとモップで血を洗い流していた。

そこへ俺の登場で彼等の手が止まった。

彼等の目が物語っていた。

「何だこの子供、礼装しているが・・・」


 俺は風魔法を起動し、身に纏った。

目指すはイヴ様の居る後宮。

最短距離を選び、駆けた。

予想通りだ。

通行する者がいない。

謀反騒ぎで近衛が規制しているのだろう。

擦れ違うのは巡回の近衛のみ。

彼等は俺に職質しようと、が、無視して擦り抜けた。

幸いなのは俺が礼装の子供であること。

武器を取ってまで阻止しようと試みる者はいない。

呆れて見送るのみ。


 後宮が視界に入った。

再び探知、重ね掛けで鑑定。

今や共に最大値の探知と鑑定。

これで見逃すとか有り得ない。

 まずイヴ様。

魔波は登録済み。

即、五階に見つけた。

俺がプレゼントした物達がイヴ様を守っていた。

手作りの人形だ。

所謂、フィギア。

それは獣人・イライザ、イライザがテイムしたチョンボ。

 フィギアは錬金と土魔法で造り上げ、術式を施した。

本来はフィギア保全を目的とした物になるが、敢えて術式を膨らませ、

イヴ様防御も組み込んだ。

あらゆる攻撃を無効にする術式。

魔法、物理、毒、麻痺、呪い等々。

考え付く限りの攻撃を想定した。

今回はそれが功を奏した。

イヴ様付の侍女や警護の女性騎士を結界で囲い、

襲撃者のそれ以上の前進を阻んでいた。


 後宮一階から五階まで悲惨な有様だ。

至る所で警護の女性騎士や侍女が倒れ伏していた。

今もって抵抗しているのは五階でイヴ様を守っている者達のみ。

他は謀反人達、その数は百を超え、ほぼ三個小隊。

会場を襲った連中と併せると一個中隊規模になる。

 会場の王妃様を狙ったのは囮で、こちらが本命だったのだろう。

敵ながら上手く誘導したものだ。

王妃様を亡き者にしても、王女様が存命なら、誰かに担がれる。

ところが王女様が亡き者になれば、

王妃様や評定衆は亡き国王直系という拠り所を失う。


 感心している場合ではない。

表に姿はないが、五階までの各所に謀反の兵が配されていた。

何としてもイヴ様を亡き者にするという強い意志が感じ取れた。

これは王妃様や評定衆が王朝全体に支持されていない証。

何とも虚しいものだ。

 それはさて置き、これからどうやって謀反した者達を排除しようか。

イヴ様の結界はワイバーンクラスなら耐えられる。

安全は担保されている。

でも、囲まれている事から来る心理的ダメージは計り知れない。

心が壊れる前に急ごう。


 俺は悪目立ちを覚悟した。

重力スキルと風魔法を重ね掛けし、五階まで飛翔した。

この内側にイヴ様の居室がある。

外壁に穴を開けて飛び込んだ。

勿論、直後に復元した。

だから室内に居た者達には俺が転移した様に見えたのかも知れない。

敵も味方も唖然としていた。

声がない。

静寂が一時、室内を支配した。

 俺は結界に干渉し、素早く中に入った。

侍女の一人に抱かれているイヴ様に跪いた。

「遊びに参りました」

 目を瞬くイヴ様。

ジッと俺を見た。

「ニャンなの」

「そうですよ、ニャンです」

「ここはあぶないわよ」

 俺が心配された。

どうやら杞憂だったらしい。

普段から身辺に侍っている侍女達のお陰だろう。


 俺は皆に説明した。

「ここは防御の術式が起動しているので破られることはありません。

自動修復機能もあるので安心して下さい。

それに、もうじき味方が駆け付けます」

 俺は虚空からポーションを取り出した。

外傷や骨折を直すヒールポーション。

毒や麻痺等を治すキュアポーション。

HPを回復させるHPポーション。

MPを回復させるMPポーション。

それらを床に並べた。

「好きに使って下さい。

本日だけの無料サービスです」

 イヴ様が床をトコトコ歩かれ、俺の前に来られた。

「どうやってあそぶの」

「その前に喉はお乾きになっておられませんか」

「ちょっとだけ」

 俺は大きな樽を取り出した。

イヴ様が小首を傾げられた。

「これ、な~に」

「ジュース、バナナンジュースです」


 樽の太縄を風魔法で切った。

縄と菰を取り除き、蓋を風魔法でこじ開けた。

そして小さなテーブルを取り出し、

その上に柄杓と人数分のガラスコップを置いた。

俺は顔馴染みの侍女に頼んだ。

「これを皆さんで飲んで下さい。

慌てなくても大丈夫です。

僕が連中を見張ってますから」

 俺は初期型の複合弓を取り出した。

改良し、施した術式で矢を自動装填する逸品だ。

それを構えて謀反人達と対峙した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公カッコイイな! [気になる点] ますます王妃様に目をかけられちゃうね
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