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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
305/373

(伯爵)15

 会場に出入りする者が多い。

その全てが礼装。

当事者とその関係者のみではなく、警備の近衛兵もであった。

儀式感、空気感が半端ない。

俺達もその波に飲み込まれた。

 入り口の受付は典礼庁の文官複数名。

忙しなさそうに帳簿等を確認し、書き込みを行っていた。

俺達は案内の女官の手続きでスムーズに通過できた。

よくよく見ると、全ての当事者に女官が付いている訳ではなかった。

大半は当事者か関係者が手続きを行っていた。

俺達は何故か特別に扱われていた。


 フロア入り口には近衛兵が壁を背にして、ずらりと並んでいた。

その威圧感、半端なし。

女官に気付いたのか、そのうちの二名がサッと前に進み出て来た。

そして俺達を先導してくれた。

 ドアが大きく開けられた。

すると通路には赤い絨毯が敷かれていた。

近衛兵の一人が俺に囁いた。

「伯爵様になられる方は最前列です。

御家臣の方々もです」


 フロアは二つに分けられていた。

前方が叙爵陞爵される当事者達が座る席。

後方は叙爵陞爵される側の関係者か、観覧する者達が座る席。

 前方も後方も大方が埋まろうとしていた。

その中を俺達は所謂、バージンロードを案内された。

エスコートは女官と近衛兵。

特別感が半端ない。

不躾な視線の中、俺達は最前列に案内された。


「それでは我々はここまでです」

 女官と近衛兵が優雅に挨拶し、踵を返した。

俺はその三名の背中に言葉を投げた。

「ありがとう」


 席は折り畳みではなく、床に固定されていた。

その並びに俺達は腰を下ろした。

俺はカールとイライザに挟まれる格好になった。

イライザが俺に囁いた。

「まるで私とカールの子供みたい」

 イライザは俺の四つ上。

カールに至っては二十も上。

「もしかしてイライザの目は節穴」

「どうしてそうなるのよ」

「なんとなく」

「理由をおっしゃい、理由を」

 カールから呆れた様な声。

「ここに来ても二人は大の仲良し子好しだな。

お兄さんは安心したよ」


 最奥の階段を上がるとステージがあり、

見るからに重厚そうな椅子が据えられていた。

今は国王がいないので、そこには一つのみ。

王妃様の席が用意されていた。

そこを照らす照明が点けられた。

典礼庁の長官がステージ脇から姿を現した。

控えていた風魔法使いが彼の言葉を拡散した。

「もうじき王妃様が入られます」

 まず近衛の女性騎士十名が現れ、ステージ上の配置に付いた。

そしてポール細川子爵の先導で王妃様が入られた。

公式の場であるので、金のティアラをされていた。

正面に立たれ、フロア全体をゆっくり見回され、軽く頷き、席に付かれた。

右に立つのがポール殿。

左はカトリーヌ明石少佐。

この立ち位置で二人の重用ぶりが分った。


 男爵への叙爵から始められた。

典礼庁のスタッフが名前を読み上げ、

別のスタッフが当事者をステージ上にエスコートした。

長官が淡々と滞りなく当事者に証書を手渡すと、

王妃様が言葉を掛けられた。

「これから励んで下さいね」

 言葉に、漏れなく全員が一瞬、硬直、そして背筋を伸ばして、

「励みます」深々と頭を下げた。

 儀式美が遺憾なく発揮された。


 俺は暇だったので鑑定を始めた。

勿論、公明正大にではない。

下位の者には捉えられないだろうが用心して土魔法を重ね掛け。

こっそり、姑息に、階段を上がる当事者の足裏を捉えた。

それで判明した。

政の一環であった。

 そもそもが叙爵陞爵は政の一環ではあるが、

今回のはそれが特に著しい。

西の二つの反乱の討伐に関わっている人物が異様に多かった。

どこそこの戦場で活躍した。

あるいは戦場でなくても、後方にて一定以上の貢献をした。


 反乱初期は王妃様や評定衆に敵対する派閥、目障りな派閥、

欲しい職責にある者が、名指しで戦線に投入された。

そして磨り潰された。

その間、この様な叙爵陞爵の機会は設けられなかった。

ただ、空席を王妃様と評定衆で分け合ったのみ。

 あの頃に比べると、その度合が減ったからの今回の叙爵陞爵。

つまり初期の目的を達したので、味方を投入をし始めた。

そして彼等の手柄を公正に評価した。

そう理解した。


 なんて勝手な叙爵陞爵なんだろう。

でも俺は王妃様の派閥と色分けされていた。

声高に主張した訳ではないが、周囲はそう見ていた。

敢えて否定はしないが、むかつく。

でも口にも態度にもしない。

俺は家臣を抱えているのだ。

彼等を庇護する責がある。

せめて正式な寄親伯爵となり、一定の権力を有するまでは貝になろう。


 うんっ、おかしい。

空気が変わった。

どうやらそれに気付いたのは俺一人。

他はステージに注目していた。

 そのステージの脇から新たな女性騎士が現れた。

馴染みの顔。

カトリーヌ明石少佐の副官がゆるりとした足取りで上司に歩み寄った。

意識した動き。

あれだ、注目を集めない様にしているのだ。

それが功を奏していた。

誰も不審に思わない。


 カトリーヌが副官に気付かぬ訳がない。

それでも、ちらりともしない。

副官がカトリーヌの背後に付き、何事か耳元に囁く。

カトリーヌは無表情を貫くが、俺は見逃さない。

彼女の表情筋が末端が緩んだのを。

眼輪筋、頬筋が。

たぶん、良い報告だ。


 副官が踵を返すと、カトリーヌが王妃様の耳元に口を寄せた。

彼女もまた、ゆるりとした動き。

こちらまで聞こえぬが、短く伝え、素早く姿勢を戻した。

すると王妃様がポール殿の手に触れられた。

それに応じてポール殿が姿勢を屈め、王妃様に耳を寄せた。

まるで伝言ゲーム。

王妃様が自然な形でポール殿に何事か囁かれた。

これも短い。

ポール殿は軽く頷くと姿勢を戻した。

 副官を含めた四人は場の空気を壊さぬ様に心掛けていた。

賢いのか悪賢いのか判別しにくいが、確かに意識した行為。

何事かが裏で進行しているのだろうが、

それが何なのかは俺には分からない。


 うむ、・・・怪しい。

俺は土魔法を重ね掛けした鑑定を広げた。

特にフロアの外を注視した。

えっ、戦闘。

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