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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
303/373

(伯爵)13

 カールは私的な事情は話してくれない。

渋い表情をしただけ。

でも、それは一瞬で消えた。

表情を改めて口を開いた。

「私の領地は美濃地方の領都近くが望ましいですね」

 良かった。

現実を受け入れてくれた。

「その辺りの塩梅は寄親伯爵代理に任せます。

カールの方で適当に見繕って下さい」

 苦笑いで頷いた。

「承知しました。

これまで同様に、ダン様に付き合います。

寄親代理はお任せ下さい」


 美濃地方の領都は岐阜、人口20万余の城郭都市であった。

寄親代理としてその岐阜を切り回しながら、美濃地方全体を取り纏める。

気難しい仕事だと思うのだが、カールなら熟せるだろう。

「カールには寄親代理に専念して欲しい。

勿論、僕が新しく拝領する岐阜とその周辺の代官も兼任で。

そうなると当然、木曽代官が欠員になる。

誰か心当たりは」

 従来であれば木曽を取り上げて、岐阜への領地替えになるのだが、

今回は違った。

木曽はそのまま残された。

だから木曽にも代官を置く必要があった。

ちょっと考えてからカールが俺を見た。

「マリオはどうですか」

 カールの下で働いていた文官だ。

勿論、彼とは面識がある。

印象は、若いが目端が利く。

俺はアドルフ宇佐美に視線を転じた。

意を察したのか、彼が深く頷いた。

「若いですが仕事は出来ます」

「分った、カールの後任はマリオにしよう。

もう一人、アドルフの後任となる木曽領軍の指揮官は」


 アドルフもちょっと考えた。

「ハンスを推薦します」

 アドルフの片腕とも言える武官だ。

「良いのか、岐阜に連れて行かなくて」

「木曽の重要性から考えるとハンスしかおりません」

 大樹海に棲む魔物の監視と間引き。

それを考慮すると、熟知した武官が望ましい。

俺はカールに視線を転じた。

これまた意を察してくれた。

「賛成です」

「決まりだね」


 俺は改めてアドルフ宇佐美を見た。

「君には岐阜の領軍と岐阜地方軍の指揮権を委ねる。

同時に、寄子貴族軍や、駐屯している国軍との連絡調整もだ。

分ってるよね」

 子爵軍の場合、兵力は中隊250名なので中隊長・中尉となる。

当家の場合は特殊事情が考慮された。

表向きは、木曽の大樹海の魔物に備えて。

内実は宮廷貴族の余剰子弟の救済であった。

結果、アドルフは大隊500名を預けられ、

大隊長・大尉として木曽に赴いた。

 今回、彼は伯爵軍、旅団2500名を率いる事になる。

もっとも、それは平時の兵員数。

非常時は倍の5000揃える必要がある。

これとは別に地方軍2500名も指揮下に置かれる。

軍ではあるが主に地方全体の治安を担う。

所謂、警察。

二つだけでも大変なのに、寄子貴族軍や国軍駐屯地との折衝も。

木曽に比べると激務になる、そう言い切れる。


 重責であるが、アドルフは胸を張った。

「承知しています」

 前の伯爵がやらかしたので、美濃全体がグタグタになった。

それを直後に派遣された国軍と近衛が、一先ず落ち着かせた。

行政機能を立て直し、民心を安定させた。

カールが言葉を添えた。

「我々二人にお任せ下さい。

幸いと言うか、反乱のお陰で優秀な者達が在野に解き放たれています。

それらを搔き集め、文官武官として酷使します」

 カールがアドルフと視線を交わしてニヤリと笑った。

目処があるのだろう。

「酷使はどうかと思うけど、宜しく頼む」


 俺は話題を変えた。

「ところでアドルフ、希望する領地は」

「特には・・・、あっ、豊かな土地を」

「カール、任せていいかな」

「はい、お任せを」

「すっかり忘れていた。

二人の実家は貴族だから、

自分の領地に一族を呼んで代官にするんだろう」

 二人が同じ答え。

「呼ばないでも来るでしょうね。

一族やその家来筋のプー太郎が」

 人材には事欠かないと理解する事にした。

百人も来れば一人か二人、才ある者が居れば充分なのだ。

それが上に立ち、他を歯車として機能させれば、大抵は回る、はず。


 俺はイライザに視線をくれた。

テイムしたチョンボが隣にいないと彼女が小さく見えた。

勘付いたのか、イライザが言う。

「あいつはテニスコートよ」

 日中、屋敷内の二面のテニスコートには常に誰かが居る。

非番か休憩中の使用人が球を追い掛けている。

笑い声とボールが弾ける音が絶えない。

コートの外に出たボールを拾うのがチョンボ。

嘴や翼で器用にキャッチしたり、足で蹴り返す。

それも得意顔で。

それはそれとして、俺はイライザに尋ねた。

「男爵になるんだ。

領地があるから家来が必要になる」

 俺の言葉をイライザが遮った。

「私、そんな面倒臭いのは要らない。

駄目かしら」

 カールを含めた皆がギョットした顔になってイライザを振り返った。


 俺は説明の仕方を変えた。

「爵位を得るとお得な事がある」

 途端にイライザの瞳が光を放った。

「聞きたい、聞かせて、お得な情報」

「男爵子爵の爵位は継がせることが出来る。

つまりカールとイライザの子供二人は爵位を受け継ぐことが出来る。

一人が子爵でもう一人が男爵だ。

他の子供達はどちらかの領地で雇用すれば良いし、

子爵領の分割も申請すれば、大抵は通る」

「あっ、そうだった。

平民だったからすっかり忘れていたわ」

 イライザの表情が緩む。

そんなイライザを皆が生暖かい眼差しで見つめる。


 俺は容赦なく追撃した。

「チョンボも大喜びする」

「どうして」

「チョンボはああ見えて雌だ、何れ出産する。

その為にテイマーとして、友達として、

安心して子育て出来る環境を前以って作って置いたらどうだろう」

「友達はどうかな。

でもテイマーとしては是非とも必要ね。

そうなると木曽の近くが良いわよね」

 チョンボはイライザにテイムされてはいるが、

暇を見つけては勝手に里帰りする。

ダッチョウ種の縄張りがある木曽の大樹海にだ。

そこで気儘に種付けを迫る性格と見ても差し支えないだろう。

俺だけでなく、イライザもそう理解しているのか、何度も深く頷いた。

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