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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
295/373

(伯爵)5

 事業計画書と聞いて頭を抱えるシンシア達三人。

まあ、そうだろう。

そこまでは国軍も教えていないだろう。

そこで俺は懇切丁寧にその書式を説明した。

聞き終えた三人の感想が凄い。

「まるで軍事演習の工程表ね」

「行軍や陣地構築も参考になるわね」

「そう言われると、糧秣管理や賦役の扱いもね」

 国軍を舐めていた。

類似する書式が存在していた。

考えてみると確かにそうだ。

軍と商い、お題目は違っても、最終的には数字で語るもの。

でないと仕事にならない。


 終了したところ、ベティ様に呼ばれた。

「佐藤子爵、こちらへいらっしゃい」

 公式の名称で呼ばれた。

何か・・・。

ベティ様はイヴ様を膝に抱いて、俺を見て笑みを浮かべておられた。

嫌な予感、でも無視できない。

演技スキル全開で対応した。

「はい、ただ今」

 歩を進めた。

ベティ様はソファーなので、位置が低い。

俺はそれに合わせて両膝を着いた。

イヴ様がソファーから飛び降りられた。

そして俺の首目掛けてダイブ。

俺をムチ打ちにする気か。

 俺は慌てながらも素早く身体強化した。

それでもって両手でイヴ様を受け止めた。

低い姿勢を保ったまま、イヴ様をクルリと回転させて肩車した。

ベティ様が驚かれた。

「器用ね」

 頭上ではイヴ様が喜ばれていた。

「ニャ~ン、いい子」


 俺はベティ様に尋ねた。

「ご用でしょうか」

「株主会とか事業計画書とか、子供の考える事ではないわね。

どこから仕入れた知識なの」

 演技スキル全開なので怖がる必要はない。

「子供ですが、将来を考えて勉強しています。

幼年学校だけでは不足すると思い、街歩きでも学んでいます。

どんな店が繁盛しているのか、潰れそうな店の特徴は、

今の売れ筋は何か、あの商品が廃れたのは何故か、売れっ子の職人は、

これが好まれる理由は、このギルドが存在する意味は、

まあこんな感じで、野次馬気分で街の知識を仕入れています。

・・・。

人の真似だけでは必ず限界が来ます。

ですから、それら仕入れた知識を元に、考察し、新たに組み立てます。

次の時代は如何にあるべきか。

それが今回の株主会であり、事業計画書でもあります」

 ベティ様が満足されたのかどうかは分からない。

ただ、期待とは違っているようだ。

ベティ様は諦めた様に目で俺を見、

それから視線をポール殿に転じられた。

「私に商売は分からないわ。

貴方はどうかしら」

「まあ、・・・何となく。

それより本題に移られては如何ですか」


 ベティ様はポール殿の言葉で本題に入られた。

「子爵、貴方は美濃の現状を分ってますよね。

そして、その問題点も。

それを聞かせてくれませんか」

「大きなのは寄親伯爵の不在ですね。

次は伯爵に従った貴族の多さ、でしょうか。

お陰で統治者不在の領地が美濃の各地に出来ています。

派遣された国軍の文武官が代官代わりを務めてますが、

慣れない仕事で民に不平不満が溜まっている、そう聞いています」

 木曽の代官・カールからの報告書ではそうなっていた。


 美濃の先代寄親伯爵・バート斎藤は陞爵で侯爵に上がり、

現在は国都で評定衆の席にある。

代替わりで伯爵家を継いだのがアレックス斎藤。

これが寄子貴族を騙して挙兵した。

国軍駐屯地を壊滅せしめ、我が木曽領を襲った。

 その危難はアリスとハッピーから聞かされた。

俺は即座に行動した。

伯爵軍を陰から退却に追い込む事にした。

まず、命令系統の最上位である伯爵を拉致した。

これが功を奏した。

夜明けとともに伯爵軍は機能不全に陥った。


 ベティ様が述べられた。

「美濃は代々斎藤家が治めてたの。

でも今回の件で、それが無に帰した。

斎藤家から寄親を出す事は出来ない。

永遠にね。

それは斎藤侯爵も分ってくれた。

仕方ないわね。

大勢の寄子貴族を道連れにしたのだから情状酌量の余地はないわ。

評定衆を前にしての言葉だから覆る事はない。

公式文書にも記した。

そういう事情を頭の片隅に置いて聞いて欲しいの。

・・・。

後任の寄親伯爵を余所から持ってくる事はないわ。

まず美濃の内部で調整するの。

それに相応しい人物をね。

・・・。

困った事に相応しい人物が一人に限られているの。

今美濃に残った貴族はその一人を除いて、男爵や下の者達ばかり」

 ベティ様は言葉を切って、俺をジッと見詰められた。

居合わせた者達も俺に視線をくれた。


 心臓が跳ね上がった。

予想していない事態に俺の心臓は跳ね続けた。

このままでは破裂する。

その前に手を打たなければ。

ポール殿に救いを求めた。

「済まない子爵。

他に居ないのだよ」

 釈然としない。

「陰でお子様子爵と笑われているのに、今度はお子様伯爵ですか。

寄親として相応しくない、そう思いませんか」

「否、君しかいない。

他の男爵等は兵も親族も心許ない。

正直言うと、貴族としての資質すらも疑う。

挙兵した伯爵も彼等には声を掛けなかった程だ。

ところが君は違う。

その気になれば、実家から人を呼び寄せられる。

呼び寄せなくても、全く初対面の者を使い熟す事が出来る」

「使い熟してるのは代官のカールです」


 ポール殿が芝居っ気たっぷりに肩を竦めた。

そして皆を見回してから言う。

「それも含めてだ。

・・・。

分かり易く言おう。

佐藤子爵家は伯爵軍を撃退し、伯爵をも捕えた。

美濃の外へ広がるのをも防いだ。

その功績は大だ。

木曽の家来衆の貢献に褒美が与えられるべきだ。

そうは思わないかね佐藤子爵」

「思います。

執事に、彼等の功績を点数化し、

釣り合う褒賞を見繕う様に指示してあります」

 その褒賞に苦労していた。

金銭にするか、魔道具にするか、買える爵位にするか。

「カールが弟だから言う訳ではないが、

あれは指揮官として陞爵に値する仕事をした。

ところが佐藤子爵殿が子爵位にあったままでは上げられない」

 あっ、忘れていた訳ではないが、カールを後回しにしていた。

これまでの付き合いから甘えが出た。

反省反省。

親しき仲にも陞爵あり。

「理解しました。

カール子爵に伯爵家の代官として美濃全体を委ねます。

ついては、その下に就く文武官の紹介をお願いします。

身分は問いません。

優秀であれば結構です」


 ベティ様が言われた。

「今回の陞爵で王宮が正しく機能している事を内外に示します。

その点を踏まえて宜しくね」

 肩車していたイヴ様に俺は頭を撫で回された。

「ニャ~ン、いい子いい子」

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