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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
294/373

(伯爵)4

 まず皆の不安を取り除かなければならない。

はあ、まあ、そうだよね。

俺は子爵ではあるが、金銭感覚は村人のまま。

それに子供だし。

為に現状、予算に関する裁量権はない。

 領地については完全に代官・カールに丸投げ。

屋敷は執事・ダンカンやメイド長・バーバラ、ウィリアム小隊長、

この三人を含めた四人での合議制。

出納帳簿等には部外者であるポール細川子爵も目を通す。

今は、大人達が俺を手厚く守ってくれているのは周知の史実。

ありがとう。


 ベティ様や侍従侍女等も居合わせていたので、

誰にも分る様に口にした。

「まず基本は平等です。

均等に頭割りにします。

でもそれだと冒険ができない。

そこで総額の半額を頭割りにします。

それぞれの口座に降り込みます。

残り半額で冒険します。

その冒険とは、商売です」

 答えに、一人を除いた全員が押し黙った。

特に仲間達はそれが著しい。

別の世界に行っているのかも知れない。

イヴ様は事情を把握していないので、笑顔で僕を見ていた。

 最初に我に返ったのは部外者達、親しい相手とひそひそ話を始めた。

ベティ王妃は違った。

プリンプリンのメンバーを面白そうに見回し、カトリーヌに視線を転じた。

何やら言いたげな表情。

そこはカトリーヌ明石少佐、飲み込み、仕方なさそうに頷き、僕に尋ねた。

「商売って言いましたね。

それで何をするのですか」


 俺は答えた。

「投資です。

商売する気はあるが、資金が足りない。

そんな人にお金を投資します。

これは貸付ではなく、出資とも申します。

金利は発生しません。

その代わり利益が出たら、配当を受け取ります」

「利益が出たら配当を受け取るという形ですか。

利益が出なかったら」

「こちらが損するだけです」

「博打みたいね」

「いいえ、誰にでもという訳ではないのです。

相手を選んで出資します。

事業計画を聞いて、出資するかしないかを判断します」

「なるほど、面白いわね。

それでは経営への関与の度合は」

 俺がモデルとしたのは前世の記憶にある株式会社。

株式所有と経営の分離を中心にして、大まかに説明した。

最上位は株主会。

その直下に横並びで、選任された経営にあたる取締役、

それを目付の様に見張る監査役。

今はこれで充分だろう。


 ベティ様から質問が飛んで来た。

「商人ギルドとの関係は」

「当然、経営にあたる取締役がギルドに登録します。

僕達株主は陰の存在なので、登録はしません」

「なる程ね。

面白いけど、国は、税金は」

 流石はベティ様、そこを突いて来るか。

「これは初めてのケースになる訳ですか」

「そうよ、見逃さないわよ。

戦費が膨れ上がっているの、協力して貰いたいわね」

「分りました、そういう事なら。

取締役と監査役は僕達株主が指名します。

監査役の下に会計役を置いて、ここに出向させるのはどうでしょうか」

 ベティ様は頷き、ポール細川子爵に話を振った。

「そういう訳だから、数字に明るい者を任命して」

 ポール殿は快く了承した。

「心当たりがあります。

ついでに佐藤子爵、尋ねたい事があります」


 ポール殿の視線は柔らかい。

質問を楽しんでいるようだ。

「どうぞ」

「すでに出資先を決めていますよね。

そんな感じを受けましたが」

 先読みする人は怖い、怖い。

「ええ、大人組のシンシア達三人がポーションを作っています。

それを冒険者ギルドに卸して商売にしています。

初級の物を二種類。

HP回復ポーションとMP回復ポーションです。

評判は良いですよ。

国軍で鍛えられただけはあります。

ただ、三人は生活費稼ぎの為に忙しいのです。

手を広げる金銭的余裕がありません。

そこでこの出資話です。

初級でも良いので外傷・骨折を治すヒール用ポーションや、

体内の異常を治すキュア用ポーションも作って欲しいのです。

専念すれば、何れ中級や上級も作れるようになると思います」

「つまりポーション工房ですか」


 皆がシンシア達に視線を転じた。

三人は動揺して互いに顔を見合わせた。

それでも立ち直りは早い。

シンシアが俺は見た。

「ありがとう、私達の事を考えてくれたのね」

「とんでもない、これは儲け話です。

シンシア達なら僕達を儲けさせてくれると信じています」

 シンシアは俺以外の仲間を見回した。

「貴女達はそれで良いの」


 即答したのはシェリル

「構わないわよ。

今までダンの判断に間違いはなかった。

偶に小さな穴はあったけど、大きな被害は出していない。

だから今回も間違いないはず。

・・・。

儲けさせてくれるんでしょう、ダン」

「当然だよ。

これを僕のもう一つの財布にするつもりだよ」

「財布・・・」

「そうだよ。

我が子爵家は、領地からの税収の大部分は領地の開発整備に使う、

それが代官の方針なんだ。

だから子爵家自体の財布は小さい。

国都の屋敷を維持するので精一杯。

僕の財布ともなると、雀の涙しか入らない。

そこで今回の出資話という訳だよ」


 シェリルは顎に手を当て、考えた。

そして答えを出した。

「私ももう一つの財布が欲しいわね。

ボニーはどうかしら」

 守役のボニーは素直に頷いた。

「同意します。

嫁入り先で助かります」


 キャロル達女児が騒いだ。

「財布か」

「欲しいわね」

「儲かるのなら有りよね」

 俺は強引に結論付けた。

「シンシア、ルース、シビルの三人が工房起ち上げの当事者になります。

ついては三人には事業計画書を株主会に提出して貰う必要があります。

事業の目的、代表者、社名、拠点とする予定地、当初の従業員数、

そして初期に要望したい出資金額。

あっ、大事な点が一つ。

シンシア達三人も株主会に入ってもらうけど、

今回は当事者なので発言権はなしです」

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