(大乱)90
湿地帯の手前で降車した。
馭者や警護の者達はここまで。
ここから先は冒険者としての活動になる。
パーティとして行動せねばならない。
俺は号令を掛けた。
「行くよ、隊列組んで」
今日は俺が先頭に立った。
探知と鑑定を重ね掛けした。
幸いここらは棚ぼた狙いの者達は少ない。
見掛けても湿地帯に踏み込まず、目視で辺りを探し回っていた。
それで見つかるとは思わないのだが、水辺を好むクランクリンや、
フロッグレイドの上陸を警戒を考えると、それも正しいのかも知れない。
俺は昨夜、邪龍がのたうち回った現場を探し当てた。
酷く荒れていた。
粘土をこねくり回した感じで、うねうねと地肌が露わになった箇所が多い。
濡れずに歩くのは困難だ。
下手すれば足を取られて沈む可能性、無きにしも非ず。
足下に目を配って探すしかない。
アリスとハッピーが後始末した筈だが、細かい物が残っていた。
破壊した鱗の破片だ。
破片と言っても大小様々。
その価値は知らないが、それらを水の中や、泥地の中に見つけた。
けど、それを告げる訳には行かない。
ステータスを偽装しているので、今更だ。
それに、破片も手柄も欲しくない。
「はい、全員集合」
俺は皆を呼び集めた。
探す方法を伝えた。
「ここには鑑定や探知を使える者がいない。
そこでだ、皆で探知の真似事をして探してみようと思う。
スキルに育ってなくても、みんな魔力は持っている筈だから、
探知の真似事は可能だと思う」
シンシアが同意してくれた。
「面白そうね」
ルースも応じた。
「いけるかもね」
二人の後押しは心強い。
俺の考えは間違ってなさそう。
「方法は単純だ。
水の中や、泥地の中に微量の魔力を通してくれ。
もし、本物のドラゴンなら魔力の残滓が、何らかの反応して来ると思う」
ルースが悲しそうに言う。
「私は火魔法だから駄目かな」
「火魔法を起動しても、発動しないで、
魔力そのものを下に落とし込んだらどうかな。
例えば、石を投げ込んでできた波紋をイメージするとかして」
「なるほど、そういう考え方か。
良いわね、やってみるわ」
「皆に任せて、僕はクランクリンやフロッグレイドを警戒してる。
あっ、忘れてた。
何か見つけても騒がないこと。
他の連中に知られると、この一帯が荒らされる。
だから、直ぐに各人が所持してるマジックバッグに収納すること」
二人一組になり、適当に散開した。
シンシアはキャロルと、ルースはモニカと。シビルはマーリンと、
家庭教師と教え子の関係で組になった。
アーリンは守役のボニーとだ。
俺はボッチ・・・。
ぼちぼちと歩いて、警戒し易い位置に付いた。
背中を向けて、身体強化した。
更に耳に注力した。
シンシアの声が聞こえた。
自ら探知に挑みながら、キャロルを指導していた。
「そうそう、その魔力を波紋にして、横方向に広げるの」
ルースの声も拾えた。
モニカに助言していた。
「横に広げるのはそれで良いわ。
次はそれをそのまま、下へも浸透させるの」
シビルはマーリンを教え導いていた。
「いいわいいわ、それよ。
それを下にジワジワと落とし込むの。
何かに触れたら手で触れるイメージよ」
教え方が上手い。
三人とも国軍で学んだ経験を活かしていた。
俺はシェリルとボニーの組に耳を傾けた。
二人は似た者同士、筋肉組。
魔法のスキルはなく、武技を得手としていた。
だから、心配した。
ところがボニーが意外な言葉。
「お嬢様、身体強化を応用します。
全身に巡らす魔力を足下に集中し、そこから波紋を生み出すのです」
「ボニー、貴女できたの」
「当然です。
面白いですよ。
最初は触れた物を認識し、覚えます。
・・・。
私は今、土を感じています。
粘土質ですね。
次は、これは水ですね」
「負けてられないわね。
波紋を作って、それで触れた物を認識するのね」
「はい、まず当たり前の物を当たり前に認識します。
探すのはそれからですね」
彼女達が交わす言葉や魔力の動きからすると、完全に理解したようだ。
失敗する姿が見えない。
直ぐにも探し物に行き当たる。
何しろ、鱗の破片は浅い所に落ちていた。
それも見つけてくれと言わんばかりに。
もしかすると、探知の真似事はスキルに昇華するのだろうか。
・・・。
有り得るか、それも全員が。
これを切っ掛けに、自信を付けた彼女達が、
更なるスキルに挑む未来が見えて来た。
俺は迂闊だったのだろうか。
迂闊だった、そう認めよう。
でも、まあ良いか。
パーティの戦力アップは間違いない。
シェリルの声が聞こえた。
「あっ、弾かれた感じ」
「お嬢様もですか。
実は私もです。
当たりかも知れません」
「騒がずに拾うのね」
「そうです。
お嬢様のマジックバックに入れて下さい」
鑑定で様子を観察した。
物は鱗の破片だった。
邪龍の魔力の残滓が二人の捜索に反発したのだろう。
シビルの声が声が聞こえた。
「マーリン、その水草の下に注意して」
「はい、えっ、弾かれました」
「私が水草をどけるわ」
「赤い塊ですね。
腐った水ですか」
鑑定した。
水草の下に邪龍の血が塊になって残っていた。
「水ではないわね。
魔力に反発するから拾いましょう。
マジックバックのポーション瓶に入れ替えましょう。
そうねえ、マーリン貴女、シンシアをそっと呼んで来て。
水魔法の出番よ、手を借りましょう」
何事も無く終わると思っていた。
ところが、探知の端にクランクリンが姿を現した。
六匹。
草陰からこちらを窺っていた。
人出が多いので、警戒の為に出張って来たのかも知れない。
俺は人前で派手な事はしたくない。
シャイなので、そっと終わらせたい。
闇魔法を起動した。
探知で六匹をロックオン。
闇の飲み込むダークホール。
オーバースペックだが、偶には使わないとね。
発動。
一瞬で六匹が声も上げず、探知から姿を消した。




