(大乱)89
俺は喜んでいる二人に声を掛けた。
『その前に自分のステータスの確認。
新しい称号が付いてる。
邪龍の討伐者なんだそうだ』
単純な二人はステータスを喜んだ。
『邪龍の討伐者か、凄いわね』
『パー、みんなに自慢する』
俺は水を差した。
『他にも邪龍はいる筈だ。
それに称号を見られたら確実に狙われる。
仲間の敵討ちだと、違うかい』
『平気平気、返り討ちよ』
『ピー、ひーひー言わしちゃる』
釘を刺した。
『次も三人で討伐できるとは限らないだろう。
もしかして、強い奴に出遭うかも知れない』
二人は顔を見合わせた。
『ステータスを偽装するわ』
『プー、偽装偽装』
俺はもう一つ注意した。
『部位や魔卵に邪龍の残滓があるのも拙い。
どこでどう目に付くか分からない。
だからクリーンを徹底する、これも良いね』
『ダンジョンに居残っている妖精達を動員するわ』
『ペー、ダンジョンスライムも総動員するっぺ』
二人は自信があるようだ。
丸投げしよう。
あっ、大事な点を忘れていた。
『ドラゴンを解体できる広い場所があるのかい。
解体した物を並べる場所も。
広さだけじゃなく高さも必要だよ』
『ダンジョンスライムに頼めば大丈夫よ。
引き籠っていても、錬金や召喚でランクは上がっているの。
ちゃちゃっと用意してくれるわ』
『ポー、任せる任せる』
次の日は、って今日じゃん。
気が付いたら日付を跨いでいた。
今日は学校が休みなので、このところ恒例の予定が組まれていた。
午前中に薬草採取し、午後は王宮訪問、イヴ様のお相手。
忙しいが、午後は指名依頼なので、見返りが大きい。
俺は二人を見送ると急いで帰還した。
そして時間一杯まで睡眠を取った。
予定が前倒しされた。
メイドのドリスとジューンがノックより先に部屋に駆け込んで来た。
「ダン様、今朝はお忙しいそうです」
「そうですよダン様、さあ起きて起きて」
掛布団を引き剥がされた。
二人の後に執事見習い兼従者のスチュワートが現れ、
既に開けられているドアをノックした。
「入ります」
俺は事情が分からない。
「何が起きてるの、コントなの」
ドリスが手短に言う。
「お仲間の皆さんがお揃いなのです」
仲間には大人の女性陣もいる。
その女性陣は朝は手間取る筈なのに、もう来ているとは・・・。
スチュワートが口を開いた。
「昨夜の騒ぎをご存知ですか」
「ここからは見られなかったけど、想像は付いてる」
「私共にも見えませんでした。
でも吼える声は聞こえました。
街中の噂では、あれはドラゴンだそうです。
そのドラゴンが何かと戦っていたそうです」
忘れていた。
ドラゴンを巨椋湖方向へ誘導し、人目を避けたつもりでいた。
でもあの怒号は、・・・消せなかった。
にしても、えっ、街中の噂、・・・なに。
「街中の噂って」
「あれはまるで雷の怒りでした。
それも何発も何発も。
聞き慣れぬ怒号に私共は屋敷から飛び出しました。
起きていた者達全員です。
顔見知りの冒険者が申すには、あれはドラゴンだと」
ドリスが言う。
「それで皆様が申されるには、最後のは悲鳴。
あれはドラゴンの悲鳴か、もしくは相手方の悲鳴。
ドラゴンが何と戦ったのかは知れないが、死骸が残されているのではと」
ジューンも目を輝かせて言う。
「死骸が喰われていても、何がしかの部位は残されている。
それを拾いに行くと皆様、そう申されています」
想像を超えた事態が発生していた。
メイド二人の手を借りて朝の支度を済ませ、
冒険者の恰好で階下の食堂に入った。
仲間達が顔を揃えていた。
女児のキャロル、マーリン、モニカ。
先輩のシェリル京極に、その守役のボニー。
キャロル達の家庭教師、シンシア、ルース、シビル。
みんな屈託のない顔で朝飯を食っていた。
最初の頃は朝食を遠慮していたのだが、この頃は遠慮がない。
厨房に注文を付ける厚顔振り。
俺に真っ先に気付いたシェリル。
「ねえダン、屋敷の家来達は出さないの」
「えっ、意味が分からないんだけど」
「寝ぼけているの」
「いやいや、本当に」
「うちの屋敷からは二十騎を出したわ」
朝なので頭の回りが緩やかだが、何となく想像が付いた。
「もしかして、・・・何かの死骸の回収かな」
「そうよ、うちだけじゃないわ。
右隣もそう、左隣もそう。
結構な数の騎馬が南門に向かっているわ。
死骸じゃなくても良いの。
せめて鱗は拾って帰りたいわね」
子爵邸を箱馬車で出た。
先頭は京極家の馬車。
シェリルとボニー、それに相乗りのシンシア、ルース、シビルの五名。
当然、今日は京極家からの警護の騎兵が増えていた。
通常は二騎なのだが、混乱を予想して六騎。
続けて子爵家の箱馬車。
俺にキャロル、マーリン、モニカ、そして従者のスチュワート。
警護の騎兵はウィリアム小隊長の提案で、こちらも同数にした。
驚いた。
南門への大通りが混雑していた。
様々な恰好の人間が南を目指していた。
明らかな冒険者から、貴族の家来、商人やスラムの者までも。
どうやら皆の考えは同じらしい。
ハイエナだ。
何時もの倍の時間を掛けて外に出た。
真っ先に目に付いたのは、街道を離れて行く人の数。
馬車の者は降車、騎馬の者は下馬して使用人らしき者に預け、
それぞれが思い思いの方向へ足を向けた。
まるでそこに目指す何かがある、そう確信した足取り。
下にのみ視線を向けて、ゆっくり進む。
国都郊外の厩舎や宿営地からも人が駆り出されていた。
彼等は都雀より有利な位置にいた筈なのに、
効率の悪い箇所を探していた。
たぶんだが、頭上の戦いに恐れおののき、
肝心の場面を見落としていたのだろう。
まあ、それは理解する。
窓から離れて我が身の安全を最優先するのは当然だ。
命あっての物種だから。
先頭の馬車が止まり、シェリルとシンシアが下りて来た。
「ねえダン、思っていた以上に混雑しているわ。
これは困ったわ、どうしよう」
俺は周辺を見回した。
確かにこの辺りは競争率が高い。
皆そう信じての行動なのだろう。
当事者であった俺はここに何かが落ちているとは思わない。
激戦区は巨椋湖の近くの湿地帯であった筈だ。
俺はその湿地帯を指差した。
「あの辺りは人が少ない。
あそこにしよう」




