(大乱)87
アリスとハッピーが全力でドラゴンを攻撃した。
狙いは過たない。
破壊した鱗の隣の鱗を執拗に射た。
外皮から鱗を削いで行く。
手間は掛かるが、他に選択肢はない。
ドラゴンは耐えた。
誰が真の強敵か、見定めたからだ。
人間を葬ってから小煩い羽虫二匹を潰す、そう決めた。
だから鱗の十枚や二十枚、くれてやろう。
全て終えてから生え揃うのを待てば良いだけのこと。
俺はドラゴンのブレスがどのくらい続くのか計り兼ねた。
何しろ初体験。
痛いのは嫌、勘弁して。
優しくして。
俺は再び鑑定した。
さっきは読めなかったが、今回は一部が露わになった。
名無し。
邪龍。
HP残量、894。
MP残量、752。
やはり邪龍だった。
道理で目の敵にされる訳だ。
でも、そこは良い。
問題はHPとEPの残量だ。
もしかして、一部だけだが、鑑定が機能したのは四桁を切ったからか。
たぶん・・・、そうなんだろう、そう理解する事にした。
それをアリスとハッピーに伝えると二人は喜んだ。
『分かった、弱っている証拠よね』
『ペー、ペッペッ』
『それでも慎重に頼むよ』
盾の術式の限界が近い。
このままだとブレスに押し負ける。
盾を交換するしかない。
幸いダンジョン産の武具はふんだんにある。
盾とドラゴンを鑑定しながら、機を窺った。
ドラゴンのブレスが限界を迎えた。
一旦、口を閉じた。
チャンス、俺は即座に方針転換。
奴の左耳に転移した。
左耳の上。
足場としては申し分ない。
既に右耳には短剣で損傷を与えた、今度は左耳。
虚空から短剣を取り出した。
ダンジョン産で、風魔法の術式が施された物、神話級。
ドラゴンは学習済み。
慌てて左前足を動かした。
俺を圧し潰そうとした。
ドラゴンの素早い対応に俺は攻撃を中止せざるを得なかった。
飛行で離脱し、距離を置いた。
振り返るとドラゴンの視線が俺を捉えていた。
しかも、悪い事に口を開けようとしていた。
時間を置かずにブレスが来るのか。
それともフェイクか。
人間相手にフェイクはないか。
ドラゴンが口を大きく開けた。
フレスの為に空気と魔素を大量に取り込む必要がある、そう聞いた。
俺は逃げない。
防御行動に移った。
虚空からダンジョン産の盾を取り出した。
視界の片隅にエビスを捉えた。
ハッピーがエビスをドラゴンの口の真ん前に急停止させた。
後尾のカーゴドアを全開にした。
そこからドラゴンの口に何やら放り込んだ。
もしかして酒樽・・・らしき形状、それを四つ。
訳は分からないが、目的は達したらしい。
ドラゴンに払い除けられる前に、カーゴドアを開け放ったまま即離脱。
大きく距離を開けた。
アリスが尋ねた。
『ハッピー、何したのよ』
『ポッポー、教団から押収した麻薬と酒の樽だっぺー』
『あれか、麻薬に祝福の酒、それに毒酒、もう一つは麻痺酒だったわね。
原酒ばかりだったと思うけど、麻薬にそれらを混ぜたのか。
人だと何回も殺せるわね』
『パー、人は一回しか死なない、知らないのカッペー』
『アンタ、ゴミにして捨てるわよ』
『ピー、褒めて褒めて』
投棄したのは麻薬と酒三種。
薬を服用する際には水が必要なのだが、酒で代用か。
まあ、ドラゴンだから許されるか。
えっ・・・、それ以前に麻薬は水で服用するものなの。
経験がないから分からない。
教えて神様。
にしても、麻薬に祝福の酒、毒酒、麻痺酒を添加。
麻薬のハイブリッド版出来上がり。
人なら確実に別の世界に逝ける。
これがドラゴンならどうなる。
ドラゴンは樽四つを難無く飲み込んだ。
ちょっと怪訝な顔色に見えるのは・・・、気のせいではないだろう。
異物を飲み込んだ認識があるようだ。
麻薬も酒も陶器の樽だった様に思う。
それがドラゴンの胃の中で・・・。
人の胃液では溶かせなくてもドラゴンの胃液なら・・・。
それ以前にドラゴンにも胃液があるのか・・・。
たぶん、生き物なら共通してあるだろう。
例え異世界でも。
あっ、ドラゴンの顔色が変化した。
虫酸が走った様な表情になった、
急降下した。
湿地にズブズブと、膝まで埋まっても気にしない。
元々、四つ足だが、四つん這いになり、頭を下げた。
耳障りな・・・、轟音に近い嘔吐音。
身を震わせて勢いよく嘔吐を始めた。
吐いて、吐いて、吐いて・・・、止まない。
ドラゴンの体躯に比してハイブリッド版の効きが良いのは、
戦闘中のせいで血液の循環が早いからだろう。
流石は脳筋の妖精、機を逃さない。
エビスで急降下した。
動かぬ標的なら楽勝とばかり、
破壊して削いで広げた鱗跡に全力を注いだ。
エビス搭載の魔水晶が動力源なので、アリスに負担は一切かからない。
二基搭載しているので機体にも負担はかからない。
全力の妖精魔法で攻撃した。
ハッピーも負けないぞとばかり、戦線に復帰した。
こちらも同様だ。
ダンジョンスライム魔法で攻撃。
鱗跡の外皮を執拗に狙った。
一歩も二歩も出遅れた俺、失地回復せねば立場がない。
虚空から槍を取り出した。
それを両手で構えてドラゴン目掛けて急降下した。
狙い所は・・・。
鑑定で弱っている箇所を探した。
・・・、見つけた。
えっ・・・、肛門。
いや・・・、嘔吐しているのは口からだけではなかった。
尻尾で見えなかったが・・・、その尻尾の下は地獄だった。
その下痢の海に突入するのは・・・。
躊躇う以前に否々々。
逃げたい。
アリスの攻撃箇所の、鱗跡の外皮から焼ける臭い。
ハッピーの攻撃箇所からも焼ける臭い。
ドラゴンは嘔吐しながら、両前足を上げて身を捩り、大きく咆哮した。
どう聞いてもこれは悲鳴だ。




