(大乱)86
骨折の補修は鉄製品の補修も似た様なもの。
手早く済ませた。
念の為にダンジョン産のHP、MP回復ポーションの二つを飲んだ。
うっ、不味い。
次も不味い。
それでも直ぐに戦闘に復帰せねばならない。
その際に支障が出たのでは困る。
術後の確認をした。
先程と同様に全身に魔力を巡らせた。
接続不具合箇所がないか探した。
なし、経過良好。
巨椋湖の主であるフロッグレイドが多数、
ドラゴンを恐れて湖底に避難していた。
そのうちの三頭が俺の近くにもいた。
捕食に熱心な彼等であるが、彼等は俺には気付かない。
俺が光体で結界を構築してその中にいるからだ。
俺の今は言わば、光学迷彩を施された状態。
魔力が外部に漏れない様に細心の注意を払っているので、
見破られる事はない。
俺は湖底の水の動きを読んだ。
ゆったりした流れがあった。
どこかの川から流れ込む水がその源なのだろう。
その流れに俺は便乗した。
勿論、光体ごとお引越し。
余計な騒ぎにならぬ様に、俺は流されつ、ゆっくり浮上を開始した。
気付いて追って来るフロッグレイドはいない。
恐怖が先走り、それどころでは無いのだろう。
湖面から空中戦を見た。
信じられぬ光景が展開されていた。
アリスとハッピーがエビス二機でドラゴンを翻弄していた。
互いに高低差と対極を意識した位置取りで、攻撃を加え、
鼻面を引っ掻き回す徹底ぶり。
鱗一枚も破壊できないが、それでも確実に罅は入れていた。
それはドラゴンにとっては恐れる敵ではないが、
纏わり付く蚊の羽音の煩さの様な物なのだろう。
懸命に振り払おうとして奮闘していた。
俺はゆったりとした湖面からアリスとハッピーに念話した。
『お待たせ』
『ちゃんと治療したの』
『プー、治ってないと怒るぷー』
『万全だよ、そろそろ替わろうか』
『今は駄目。
面白いところなの、替わる訳ないでしょう』
『ペー、ぺっぺっぺ』
拒否されてしまった。
だったらアドバイス。
ドラゴンの喉から肛門までは鱗はない。
そこは傍目には柔らかそうに見える外皮。
それは当人も承知の様で前足と後ろ足、尻尾でカバーしている。
カバー出来ないのは背中。
全面が無数の、硬質の鱗で覆われている。
だったら敢えて狙うのはカバーできない鱗部位。
その一枚に集中させたらどうだろう。
『罅の入った鱗を集中して狙えばどうかな。
破壊出来るかも知れない』
『難しい注文、でもそうね』
『ポー、やるっぽ』
二人はアドバイスに従った。
狙いを悟られぬ様に振舞い、二回に一回は別の箇所を攻撃した。
小煩いまでに顔面や肛門周辺への攻撃で注意を逸らした。
そして罅の入った鱗を射た。
アリスの妖精魔法を見た目こそ小さいが、
破壊力は人の攻撃魔法を凌いでいた。
ハッピーのダンジョンスライム魔法は、
錬金や召喚に比重が置かれているが、
攻撃魔法が非力という訳ではない。
威力は人のそれを超えていた。
そんな二人の努力が実った。
ついに一枚を破壊した。
それは二つに割れて剥がれ落ちた。
湖面に吸い込まれる様に消えた。
たったの一枚だが、ドラゴンにとっては痛みを伴ったらしい。
空気を揺るがせる激しい咆哮。
前足、後ろ足、尻尾を大の字に近い形で、硬直させた。
『ハッピー、追撃よ』
『パー、了っぱー』
罅が入ったのは一枚だけではなかった。
その残りを二人で破壊すると言う。
それを座視できるほど俺は出来物ではない。
ドラゴン討伐が目の前にあるのだ。
意識すると同時に身体が反応した。
光体を解除し、重力スキルで湖面から飛び立った。
武器だけは考慮した。
虚空からダンジョン産の盾と槍を取り出した。
土魔法が施された盾。
同じく土魔法が施された槍。
何れも神話級。
ドラゴンの得意技はブレスヘルブリザード、ブレスヘルフレムの二つ。
その二つの対極にある、そう信じた。
アリスとハッピーが二枚目三枚目と、鱗を破壊した。
その度にドラゴンは咆哮し、硬直。
隙だらけ。
俺は勇躍、盾を虚空に収納し、槍を両手で構えた。
身体強化。
飛行速度の勢いのまま、ドラゴンの喉元を目指した。
楽勝、そう思った。
とっ、アリスを追っていたドラゴンが、その顔を俺の方へ向けた。
表情を一変させた。
罠に掛けたと言わんばかり。
そして口を大きく開けた。
息を大きく吸い込んだ。
ブレスの前段階。
この距離で範囲攻撃を逃れる術はない。
『ダン、逃げて』
『ピー、逃げる』
『無理だ』
ここに来て方向転換は不可能。
その場で急停止、ホバリング。
槍を収納し、さきの盾を取り出した。
土魔法が施された物だ。
それを両手で構えた。
次いで光体で全身を覆う。
来た。
ブレスヘルフレイム。
広範囲の物全てを焼き払う地獄の業火。
辺り一帯がまるで真昼の様に照らされた。
炎の色は白。
直に浴びたら、灰も残らないか・・・。
しかも、話には聞いていたが、こうまで広範囲だとは。
湖面から水蒸気が上がるのが見えた。
盾が即応した。
アースシールドを展開した。
流石は神話級。
光体ごと俺を包む。
その光体のお陰で俺は蒸し焼きにならずに済んだ。
ちょっと暑いだけ。
俺はアリスとハッピーに連絡した。
『俺は大丈夫。
ここまで来たんだ。
敵の喉元まであと少し。
最後までやるから、何とか気を引いてくれ』
『心配したわよ』
『プー、了っぷー』




