(大乱)85
誤字脱字のご報告、大感謝しております。
大変だとは思いますが、今後とも宜しくお付き合い下さい。
それは高々度から、高速で急降下して来た。
そしてある程度の高さになると、急激に速度を落した。
それでも衝撃波だけはどうしようもない。
当人とは無関係に、巨椋湖を襲う。
表層を暴力的に圧す。
激音と共に、無数の水柱が上がった。
耐え切れなかった物達が、水面に大量に浮かび上がった。
腹部を月光に晒す。
周辺の草木もそう。
樹齢とは無関係に、抵抗できぬ木々は圧し折れ、
千切れた草や枝葉が夢幻の様に舞い散る。
それの姿が露わになった。
ドラゴン。
20メートルを軽く超える奴。
それでも30はないと思う。
そいつが俺を睨む。
鼻で笑う気配。
俺のみではないと感じている様で、視線を左右に走らせた。
見つけられないのか、首も動かした。
執拗に、四方八方に視線を巡らせる始末。
体躯に似ず、神経質なドラゴン。
俺はそんなドラゴンは嫌いだ。
もっと堂々としろ。
俺とドラゴンを比べれば、どう見ても大人と赤ちゃん。
本気にならなくても良いだろう。
傲慢でいて欲しい。
そして策に嵌って欲しい。
生憎、アリスもハッピーもエビス丸ごと光学迷彩で姿を隠していた。
ダンジョンマスターの光体を活用しているので、
簡単に見つかる訳がない。
案の定だった。
ドラゴンは不承不承といった感で、視線を俺に固定した。
それでも警戒だけは解かない。
俺は奴を鑑定した。
ああっ、見えない。
ランクもレベルも上なのだろう。
予想していたので落胆はない。
少しは可能性がある筈だ。
たぶん、コンマ以下で・・・。
そこに賭けよう。
奴が小手調べ。
俺を試す様に威圧した。
普通ならそれだけで人は死ねる。
が、俺は死なない。
神龍の加護持ち。
加護に意識を集中して対抗した。
奴もそれを理解したらしい。
即座に、空中で跳躍するかの様な動き。
小さな小さな俺に向かった突進して来た。
今の俺は身体強化を施し、重力スキルで飛行を行っている状態。
更なる魔法行使は、低ランク相手なら余裕だろうが、
目の前のドラゴンが相手だとキツイと思う。
けど、避けられない。
反射的に火魔法を起動した。
火の盾・ファイアシールドを五層構築し、前面に展開した。
分厚い外皮に守られたドラゴンに通用するかどうかは知らないが、
何もしないよりは、ちょっとはマシ。
そんな程度の期待、一寸の虫にも五分の魂。
最後まで、勝つまで諦めない。
ドラゴンが鼻先でシールドを突き破って来る。
一枚、二枚、三枚、四枚と。
破壊と爆発の音が重なり、空中に響き渡った。
シールドが破られる度に、攻撃者側へ向けて弾ける様に爆発するのだ。
ドラゴンに多大なダメージを与えていると思うが、奴は姿勢を崩さない。
痩せ我慢か、矜持か。
俺は最後の一枚が破壊される前に虚空から盾と短剣を取り出した。
この二つはダンジョンスライムが宝箱用に錬金した物。
外の世界だと神話級とされる逸品。
盾には風魔法が、短剣には光魔法が施されて威力を上げていた。
五枚目が破壊されると同時に盾を構えた。
当たる寸前、強固なウィンドシールドが前面に展開した。
ドラゴンの突進を押し止めた。
その鼻先を短剣で突き刺した。
だが、分厚い外皮に阻まれた。
ドラゴンの表情が変わった。
目色を変え、動きを止めた。
俺をジッと見た。
見定める仕草。
俺はその瞬間を逃さない。
転移した。
奴の頭上、右耳の傍に。
即座に耳の中に短剣を突き刺した。
奴が悲鳴を上げて、両前足で俺を振り払った。
俺に逃れる術はなかった。
両前足で遠くへ飛ばされた。
その際に盾を巨椋湖に落した。
幸い、身体強化を続行中なので怪我はない。
俺は空中で静止し、残った短剣を改めた。
ドラゴンの血肉が付着していた。
どんなに外皮が厚くても、柔らかい部位はあるという事だ。
となると、狙い目は同じく耳に、目鼻に口か。
アリスからの念話が入った。
『私達の出番よね』
ハッピーも待ち望んでいた。
『パー、パッパラパー出撃するっぺ』
俺は制止した。
『奴のHPとMPを削る。
それを待ってくれ』
ドラゴンが再び突進して来た。
前の教訓を活かしていた。
鼻先ではなく、両前足を出していた。
足の裏で圧し潰すつもりの様だ。
俺は虚空から新たな盾を取り出した。
水魔法が施されている物だ。
それを前に構えて短剣を後ろに引いた。
奴を止めて転移、片目を刺す。
余裕があれば両目とも。
とっ、奴が盾の手前で止まった。
まるで急ブレーキを踏んだダンプカーの様な挙動。
そして身体を回転させた。
それはマット運動の前転、でんぐり返しに似ていた。
尻尾が上になった。
勢いのまま、その尻尾を振り下ろして来た。
俺は盾を上に翳す暇がなかった。
身体強化した身体でも振り下ろされた尻尾の勢いは殺せない。
無造作に下へ叩き落された。
巨椋湖の水面を突き破った。
一瞬、意識を失ったが直ぐに立ち直った。
沈みながら追撃に備えた。
来る気配がない。
水の中は嫌なのだろうか。
これ幸い、光体を用いて安全地帯を構築した。
身体強化を解き、普通に全身に魔力を巡らせた。
接続が不調な箇所を探した。
内臓は無事。
骨が二本折れてるだけ。
痛い。
でも、これだけで済んで良かった。
身体強化で補修を開始した。
アリスからの念話が届いた。
『ダン、無事よね。
無事だと言って』
『ああ、無事だよ。
そっちは』
『ドラゴンが湖に飛び込もうとしたから、ハッピーと一緒に攻撃した。
でも反撃を喰らっちゃった』
『おいおい、そっちこそ無事かい』
『大丈夫よ。
強い相手にはヒットエンドランでしょう。
これで引っ掻き回してるわ』
『ピー、ヒットエンドランランラン』




