(大乱)82
明らかにアリスの失敗だが、責めるのは無駄。
何しろアリスは脳筋妖精。
注意しても、その場で直ぐに忘れる。
『アリス、余り騒ぎは起こさないでくれよ』
『わかってるわよ、フン』
『ポー、開き直った、直った』
アリスがハッピーを一睨み。
『ダンジョンに送り帰すわよ』
『パー、怖い怖い、怖いよアリスン』
俺はアリスの注意をこちらに向けた。
『それでアリス、教団の連中はどうしてる』
『教会を補修しているわ』
『引っ越す予定はなしか、そうなんだよね』
『当然でしょう。
騒ぎが起きただけで、奉行所の手入れじゃないんだから』
俺は現状を事細かく説明した。
伯爵が発見された一件に、それに対する王宮の動きを絡めた。
アリスの暴走癖を抑える意味合いもあった訳だが。
ところが、聞き終えたアリスが開口一番。
『は~、ダンのやり方は生温いもんね。
あそこで始末すれば良かったのよ。
どうするの、アイツ、ペラペラ喋るわよ』
伯爵に止めを刺さなかった事を責められた。
でもハッピーが俺の味方をしてくれた。
『ピー、アリス、ダンを咎めちゃ駄目だっぺ。
僕達のマスターなんだからね』
『ハッピー、アンタはいつも一言多いのよ。
アタシが口を縫ってあげようか』
『プー、プップー』
俺は方針を変更した。
『治療チームは、王宮が派遣するくらいだから凄腕だ。
伯爵を回復させるだろう。
そして尋問チームもだが、こちらも凄腕に違いない。
伯爵から一切合切を聞き出すだろう。
だから商人達に手は出さない』
『ダン、そんな弱腰でいいの』
『話は最後まで聞いてくれ。
伯爵のみならず、商人達までが拉致されて尋問を受けた。
そうなると、誰がやったんだ、何の為に、そう疑問を持たれる。
つまり、嫌疑を掛けられる人間の中に僕も含められる。
こんな子供を疑う奴はいないと思うけど、念の為に、それは避けよう。
疑われるのを回避する、それを最優先にしよう』
『何か釈然としないわ』
『ペー、ペッペー』
『代わりに別の方法で奴等に報復する。
奴等が貯め込んだ財産を奪う、全部、掻っ攫う』
アリスとハッピーが顔を見合わせた。
『掻っ攫う、・・・カッコイイ』
『ポー、・・・掻っ攫うっぺ』
『お金は身体の中を巡る血と似た様な作用をするんだ。
だから、お金は社会を活性化させる血とも言える。
そのお金を余分に貯めるなんてのは、商人の道に反する行いなんだよ。
欲望のままに貯めるだけだと、濁るだけで何の役にも立たない。
却って病気になってしまう。
つまり、うっ血。
それを正す為に掻っ攫う。
そして社会に何らかの形で還流させる』
『なるほど、私達は医術で貢献する訳ね』
俺はアリスに尋ねた。
『アリス、協力してくれてる妖精の人数は』
『九人よ。
三人一組で見張らせてるわ。
でも心配しないで。
何かが起きたら直ぐに逃げる様に、言い聞かせてるわ』
なんてこったい。
お前がそう言うんかい。
真っ先に自分に言い聞かせろよ。
だよね。
『全員が収納スキル持ちかい』
『当然でしょう』
ハッピーが宙返りした。
『パー、僕も僕も』
『任せても良いかい』
『ピー、任せて任せて』
アリスがハッピーの頭をペシッと叩いた。
『ええ、当然よ。
これは私達の仕事よ。
発見したら、即、搔っ攫うわ』
『即だと、警戒が厳重になる恐れがある。
だから、まず貯め込んでいる場所を全て調べ上げる。
その上で、一挙に掻っ攫う。
それが義賊の仕事だ』
知らんけど。
するとアリスが反応した。
『義賊、・・・貴族の上なのかしら、それとも下』
『プー、義賊義賊っぺー』
二人を送り出してから、憂いに襲われた。
俺は正しい指示をしたのだろうか。
アリスは正しく理解してくれたのだろうか。
はあ~。
自分が先頭に立てば良かったのかも知れない。
否、それは駄目だろう。
五日後の幼年学校は騒ぎになっていた。
昨夜、街で連続して盗難事件が発生したというのだ。
こんな形になるとは思わなかったけど、街の情報の出回り方が凄い。
生徒達が寄り集まって情報を擦り合わせた。
「昨夜、スラムで騒ぎが連続して起きたが、何だったんだ」
「盗難よ、盗難」
「そうなん」
「スラムだけじゃなく、近辺でもでしょう」
「幾つかの商会が被害に遭ったそうだ」
「奉行所から捕り手方が大勢、出動して来たぞ」
国都外郭西区画に住む生徒達が情報源だ。
これに耳聡い他区の商人の子弟達が応じた。
「幾つかの商会が盗人集団に襲われたそうよね」
「狙われたのは貸金業者ばかりでしょう」
「あくどい商売をしてるから、恨まれていたんだろうな」
「怪我人は出てないそうだよね」
犯人の心当たりはある。
あり過ぎる。
ここまで大事になったとは・・・。
深夜、夜勤の警備担当者が巡回して、それに気付いた。
施錠した筈の裏口が解錠されていた。
侵入者に気付いた担当者は真っ先に金庫室に向かった。
解錠されて、中は空っぽになっていた。
担当者は直ちに商会主の元に部下を走らせた。
同時に奉行所にも知らせた。
深夜の奉行所の動きに、
近辺の商会の警備を請け負っている者達が敏感に反応した。
多くは商人ギルドから請け負った者達だ。
彼等は自分達が受け持つ商会の状況を再確認した。
そして幾つかの商会が同様な侵入を許している事に気付いた。
手口は裏口からだった。
裏口を解錠し、一直線に金庫室に向かった。
金庫室も解錠した。
現金と貴金属を残らず盗んだ。
だけではない。
一部の者しか知らぬ隠し金庫も解錠した。
これで侵入者が内部事情に詳しい事が分かった。
奉行所の者が侵入者の手口に感心したという。
「傷が一つもない。
まるで合鍵で開けたようだ」
俺は頭を抱えた。
被害を受けた中にペイン商会とハニー商会の名は確かにある。
問題は他の四つの商会だ。
こちらは知らない。
これはどういう状況なんだ。
侵入手口からしてアリス達の仕業なのは確かなんだが。
木を隠すなら森の中。
犯罪の真意を隠すなら、より多くの犯行。
そこまでアリスが考えるだろうか。
んっ、アリスの仲間か。
犯罪に適した妖精がいるのか。




