表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
275/373

(大乱)76

 クラークは俺の言葉に応じない。

ジッと酒瓶を見ていたが、やおら身体を持ち上げた。

何やら小さく呟きながら、部屋の片隅の流しに歩み寄った。

棚からグラスを取り出した。

酒瓶の封を切った。

慎重な手並みでグラスに酒をちょっと注いだ。

目と鼻が・・・、魔力を集中しているようだ。

注がれる酒の色を検分するように観察し、匂いを嗅ぐ仕草。


 俺とサンチョは黙ってそれを見ていた。

クラークの性格は理解してが、今回はそれにも増して・・・、怪しい。

一体なにを・・・、偏屈だけでは飽き足りずに、偏執にラクンアップか。


「美味い、絶品だ」

 軽く一口飲んだクラークが発した言葉がこれ。

それから嬉しそうな顔でグラスをかざし、残りを味わいながら、

一口、二口、三口、ついに飲み干した。

空にしたグラスを俺に向けた。

「この酒はダンジョン産か、だよな」

 滅多に出ないから「幻の酒」と呼ばれる希少品。

冒険者ギルドで棚ざらしになっている依頼品の一つだ。

幸い俺はダンジョンマスター、何時でも入手できる。

でもそれは口にしない。

「たまたま手に入れた物だ」

「次も手に入ったら言い値で構わん、俺に売ってくれ」

 クラークの愛想笑いを初めて見た。

もしかして酒毒に犯されたのか。


 サンチョが立ち上がった。

クラークの方へ歩み寄った。

それに気付いたクラークが空になったグラスに酒を注いだ。

無邪気な顔でグラスをサンチョに差し出した。

受け取ったサンチョが酒の匂いを嗅ぎ、一口・・・。

口にした途端、表情を変えた。

驚愕。

今にも目玉が零れ落ちそう。

急ぐ様に残りを飲み干した。

「確かにダンジョン産だ」

「だろう」

 サンチョがクラークと顔を見合わせた。

それから俺を振り向いた。

「これをどこで」

 お前もか、サンチョ。

「二人とも落ち着け。

毎回は無理だが、手にいれる方法はある。

次も手に入れたら持ってこよう」


 クラークが身を乗り出した。

「どうやったら手に入れられるんだ」

 俺は正直に答えた。

「人柄かな。

だから宝箱から出る」

 ダンジョンの宝箱からは何が出るかは分からない。

下層の方が希少品が出る確率は高いが、あくまでも確率。

決まりではない。

上層でも偶には出る。

それを冒険者は、ダンジョンマスターの悪戯、気まぐれと言う。


 俺は酒は鑑定していない。

怠っていた訳ではない。

・・・高が酒、酔う為の物、そう思っていた。

それを人は、怠っていたと言うのかな。

釈明すれば、ダンジョンスライムが造るので、

それ相応の物とは認識していた。

 鑑定した。

【ダンジョン酒】、何の捻りもない名前。

万薬之長。

香ばしい。

飲んで良し。

酒毒にはならない。

ただし、服用のし過ぎには要注意。

し過ぎると嘔吐して自動調整する。

体内の毒を洗い流す。

外傷にも良し。

・・・酒か、ポーションか、区別に悩む。


 サンチョに尋ねられた。

「アンタはどこのダンジョンに潜るんだ」

 そう言えばダンジョンマスターは攻略したが、

本格的にダンジョンそのものに潜った事がない。

「それは秘密だ。

それよりもだ、本題のパム・ペインに戻ろう。

酒は手に入れたら次も持って来る。

だから今はパム・ペインだ」


 サンチョがクラークを見遣った。

応じてクラークが真顔で俺に尋ねた。

「パム・ペインをどうするんだ」

「どうするかは決めてない。

今必要なのは情報だ」

「スラムには棲み分けがある。

その辺りの事情は分るよな」

「貧民や鼻つまみ者が棲む辺りと、上客を招き入れる辺りだな」

 上客は二つ、つまりお貴族様に富裕者。

彼等の為の歓楽街がスラムにある。

飲食街、娼館街、カジノ街、大きく分けると主にこの三つ。

そこの治安はスラムの犯罪組織・ファミリーが担保しているので、

女子供でも安心して歩けた。

 万が一、迷って貧民が足を踏み入れると、たちどころに叩き出される。

犯罪目的の者は簀巻きにされ、地下水路に流される。

国都では王宮に次いで安全な場所かも知れない。


「西区のスラムの貸金業者だ。

形としてはファミリー傘下だ。

だが、誰が金主なのかが不明だ。

ファミリー直参ではなく、外部の誰かが金主ではないかと噂だ。

とにかくファミリーの者はパム・ペインを邪険にはしない。

それだけの後ろ盾があるということだ。

おそらく奉行所か、それ以上だな」

 酒毒が回ったのか、珍しくクラークから言葉が発せられた。

「次はクリトリー・ハニーだ。

何か知ってるか」

 またもやクラーク。

「こいつも西区だ。

借金取り立て業者だ。

噂では、パムの情婦ではないかと言われている。

その辺りの真偽は確認していない。

まあ、とにかく癖の強い女だそうだ。

・・・。

分んだろう。

俺達はそんな自由に外に出られん。

だから何もかも中途半端になる」

 二人は奉行所から指名手配を受けている。

だけでなく、賞金もかけられている。

もっとも、スラムの凄腕の悪党として認識されているので、

二人を狙う命知らずはいない。


 俺はもう一つ尋ねた。

「『ジイラール教団』については何か知ってるか」

 クラークが即座に喰い付いた。

「山岳地帯の先にある北域諸国で大反乱を起こした宗教団体だろう。

ジイラール様を信じよ、信じよ、とか言って。

あれは二百年前くらい前だったかな」

 思い出した。

「クラーク、お前はその北域諸国からの流れ者だったな」

「ああ、昔の話だ」

「お前もそこの信徒か」

「まさか、俺は善人だ。

冥王・ジイラールなんて信じちゃいねえよ。

それにな、あの教団は滅ぼされた。

各国に追討され、本拠は更地にされた」

「それがこの国で生き延びているようだが」

「宗教としてではなく、暗殺教団としてだな。

危ない連中ばかりみたいだ。

聖書と麻薬、殺しで生活している。

まあ、俺達とは無縁だ。

お知り合いにはなりたくねえな」

「アジトは」

「知るかよ、近付きたくねえよ、連中には」

 嘘ではないらしい。


 俺は虚空から小物を二つ取り出した。

それを二人の手元に風魔法で飛ばした。

受け取った二人は怪訝な顔。

俺は説明した。

「見た通り、銀板のタグだ」

 これもダンジョン産。

文字通り【銀板のタグ】、まだ何も刻まれていない。

ダンジョンスライムがどうして、これを造ったかは知らない。

銀板は貴族を証明する物。

俺は二人に尋ねた。

「知り合いに加工できる奴はいないか」

 サンチョがタグを見ながら口を開いた。

「いる、そいつに頼むか」

 クラークが表情を崩した。

「加工すれば貴族として自由に外を出歩ける訳か」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 何時ものように、パム・ペインを捕らえて奴隷の首輪をはめて問い詰めて、芋づる式に情報を入手したらいいと思うが、サンチョとクラークに態々頼む必要性がよく分からない。
[一言] >「それがこの国で生き延びているようだが」 >「宗教としてではなく、暗殺教団としてだな。危ない連中ばかりみたいだ。聖書と麻薬、殺しで生活している。 ジイラール教団って、石山本願寺みたいな狂信…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ