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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(大乱)74

 俺は二人を呼んでから気付いた。

伯爵に装着した【奴隷の首輪】を忘れていた。

あれは滅多に出回らないダンジョン産。

なので残して置くのは拙い。

直ちに術式を解除し、風魔法で回収した。

アリスとハッピーが来た。

『伯爵はどうするの』

『ペー、ペ~だ』

『ここなら【魔物忌避】の術式で守られてるから大丈夫。

たぶん、通り掛かった誰かが助けてくれる』

 伯爵のHPの減り具合は忘れよう。


 俺達は領都・ブルンムーンに取って返した。

スタンピードを誘導する連中を探さねばならない。

集まった魔物達を氷雨と冷風で解散させたので、暴走は起こり様がない。

けれど、企んだ者達はそれを知らない。

今もどこかで虎視眈々と機会を窺っているはず。


 広い範囲を探知スキルで探し回った。

思いの外、早く見つけた。

彼等は伯爵軍の後方で夜営していた。

誘い出された魔物達が伯爵軍を襲うと想定し、

そこに付け込むつもりでいたのだろう。

 数は十二名。

思っていたよりも多い。

二人三人では済まないみたいだ。

鑑定で連中を調べた。

職業ではペイン商会が二名、ハニー商会も二名、

残り八名は『ジイラール教団』。

何れも、まごうこと無き伯爵の債権者。

所属は違うが、一蓮托生の関係のようだ。

 

 十二名をスキルで分けた。

火魔法使いが四名、テイマーが四名、護衛が四名。

この陣容で誘導するのだろう。

出来る、出来ないは、経験者ではない俺には判断が付き兼ねた。

 直ぐ傍に箱馬車三輛があった。

馬車の荷物をも鑑定して判明した。

多数の【魔物誘引剤】を積載していた。

国やギルドが禁止している高性能品だ。

呆れを通り越して、言葉がない。

どこで手に入れたのやら。

 要するに飴が【魔物誘引剤】で、鞭が火魔法なのだろう。

テイマーと誘引剤で文字通り誘い出し、火魔法で退路を遮断する。

方法としては利に適っていた。

ただし、本当に都合良く運ぶかどうかは分からない。

何しろ【魔物誘引剤】の効果の程が分からないのだ。

下手すれば彼等も巻き込まれ、戻らぬ人になる可能性なきにしも非ず。


 俺は伯爵から聞き出した事を、アリスとハッピーに手短に話した。

そして協力を求めた。

『僕はそろそろ戻るよ。

通学している子供だからね。

そこで二人に頼みがあるんだ。

この連中を尾行して、本拠がどこにあるのか調べてくれないかな』

アリスが俺の目の前で、クルリと蜻蛉を切った。

『私が本拠を潰しても良いかな』

 ハッピーもアリスへの対抗心を露わにした。

丸い身体で蜻蛉を切る仕草。

『ポー、潰す』

 スライムのハッピーはどこが頭で、どこが足なのか、さっぱり分からない。

だから、それで蜻蛉を切ったと言えるのか・・・。

疑問は疑問のままにした。

『潰すのは連中の全貌が分ってからだよ。

誰が首謀者なのか、そこを知らないとね』


 人には許容範囲という物がある。

その範囲は人によって違う。

入れ物に例えれば、おちょこサイズの者もいれば、釜サイズの者、

風呂サイズの者、琵琶湖サイズと人によって様々。

俺は広い方だと思っていたが、今回の件は範囲を大きく外れていた。

俺が狙われるなら未だしも、領民を駒扱いにするとは。

アリスが俺の心を読んだらしい。

『ウワー、怒ってる、怒ってる。

そうか、本気で潰すのね』

『パー、手伝う、手伝う』


 転移しようとした俺をアリスが呼び止めた。

『お願いがあるの』

『僕に出来ることなら』

『尾行に調査、二つともなると、人手が足りないわ。

そこで提案なのよ。

山城ダンジョンで私の里の妖精達を鍛えているでしょう。

彼女達の手を借りても良いかしら』

 確かに妖精の里の子達をダンジョンで鍛えていた。

希望する子達のみに限っているが、それでも数は多いと聞いていた。

ただ、相手は魔物やトラップ。

各階に配備された魔物やトラップをクリアし、

現在は最下層の地下二十階を目指していた。

そこでは対人戦は全く想定していない。

 困ったことに、一番怖いのは人間なのだ。

欲の皮の突っ張った人間は狙ったものを得る為なら何でもする。

恥も外聞もない。

目の前のアリスも甘言と酒で捕獲された口。

『対人戦の機会にするのかな』

『そうよ、今回の件は都合が良いものね』

『分かった。

アリスにはハッピーがいる様に、必ず誰かと組ませること。

一人が前衛、もう一人が後衛。

心配なら中衛を入れて欲しい。

その際、反撃してもいいけど、逃げるのが最優先。

妖精に戦死者は出したくない』


 聞いたアリスがニコニコ。

『ありがとう。

それでね、全員をダンの眷属にしたらどうかしらね』

 それは考えていなかった。

『否、しない。

アリスとハッピーだけで十分だよ』

 アリスとハッピーからの好感度が上がったようだ。

二人の周りの空気が生暖かい気がした。

『それじゃあ、私の仲間のままで良いのね』

『それでお願い』


 俺はハッピーに確認した。

『仲間のダンジョンスライム達はどうする』

『ピー、ダンジョンでお腹一杯~』

 ダンジョンスライムはダンジョンマスターの配下として、

ダンジョンの管理一切を行う存在。

ダンジョンの設計着工、施工竣工、そして改装まで行う。

魔物を召喚し、各階に配備し、死亡した魔物や人間を廃棄する。

ダンジョンの宝箱の中身を錬金で造り出す。

他にもあり、多忙を極めている。


 俺は転移転移で国都の屋敷に戻った。

幸い、夜遊びは誰にも気付かれてもいない。

部屋で自分自身に光魔法を起動した。

入浴と洗濯のライトクリーン。

心身の疲労を取り除くライトリフレッシュ。

お肌にダメージは残したくない。

おやすみ。

 翌朝は何もなかった。

普通にモーニングして、学校へ行った。

街中も教室もいつも通り。

木曽の、否、美濃の騒ぎは到達していない。

国軍駐屯地の壊滅が大きいのだろう。

でも、早々に知れ渡るだろう。

美濃の寄親や寄子貴族からの知らせはないだろうが、

領都・岐阜に置かれた各ギルドから伝わる筈だ。

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