表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
270/373

(大乱)71

 俺はアリスとハッピーに伯爵誘拐の手順を説明した。

聞いた二人はあくどい表情をした。

『それ良いわね』

『ポー、良いかも良いかも』


 俺は虚空からダンジョン産の【奴隷の首輪】を取り出した。

それを風魔法でもって操り、伯爵に装着した。

首元が冷たい筈なのだが、目を覚ます気配がない。

俺は奴に光体を纏わせ、光学迷彩を施した。

奴を透明化して上空に転移させた。

アリスから返事が来た。

『汚い、汚い、汚物。

でも捕獲、捕獲、これで良いのよね』

『パー、汚物お陀仏』

 気持ちは分かる、

何故なら、伯爵と言えども、おっさん。

それも裸体。

全裸伯爵を見て嬉しい訳がない。


 俺も上空に転移した。

アリスとハッピーの方を見た。

二人は魔物・コールビーの、エビスゼロとエビス一号の三対六歩足で、

全裸伯爵を捕獲していた。

上半身をアリス、下半身をハッピー。

幸い光体が緩衝材の役割を果たしているので、伯爵の身体に傷はない。

その伯爵に目覚める気配は一向にない。

完全に熟睡していた。

 俺は尋問場所を探した。

鑑定を広げた。

見つけた。

街道を西に向かった先にそれがあった。

道の駅だ。

宿場町と宿場町の間に設けられた野営地だ。

駅馬車や荷馬車なら二十輌ほどが収容できる。

【魔物忌避】の術式が施された石柱が周囲を囲んでいるので、

安全性は極めて高い。


 今回の騒動が伝わっているのか、夜営している者はいない。

俺達はそこに着地した。

伯爵を広場の真ん中に下ろして、光体を解いた。

全裸で石畳に寝かされているのに、ここでも目を覚ます様子がない。

泥酔なのか、鈍感なのか。

俺はアリスとハッピーに指示した。

『周囲を警戒してくれ』

『魔物を見つけたら討伐して良いのね』

『パー、パッパラパー』


 俺は優しく水魔法を起動した。

ただの水の塊を、奴の頭上から浴びせた。

それで漸く奴が奴が目を覚ます気配、身動ぎした。

もう一発。

片目を開けた。

何やら口を開いた。

「ふにゃ・・・、なにごと・・・」

 もう片方の目も開けて呟いた。

「だれか・・・、おらぬのか」

 片手を上げて、何かを探る動き。

触れる物はない。

すると片手を下げて、両目を閉じた。

眠りの戻るかと思いきや、違った。

ビクッと身体を震わせ、身体を丸めた。

「寒い」

 それはそうだろう。

水を浴びせたのだから。

奴が目を見開いて、ガバッと上半身を起こした。

「何事だ、雨か、濡れているぞ」

 現状に気付いたようだ。

暗い中、左右を見回した。

そして怒鳴る。

「誰か居らぬか、誰か」

 漸く星空に気付いた様子。

「ここはどこだ」


 俺は声が届く位置に土魔法で椅子を造った。

肘掛タイプ。

それに腰を下ろして伯爵に声をかけた。

「君は自分の首に付いてる物が何か知っているか」

「誰だ」

 奴は星明りを頼りに辺りを見回した。

見える筈がない。

俺は光学迷彩を解いていないのだから。

奴は周囲を警戒しながら首に手を添えた。

そして声にした。

「これは」

 外そうとした。

ちょっとの隙間に強引に指先を捻じ込んだ。

力を込めた。

無理だと思うが、それで外せるのなら開放してあげようか。

「【奴隷の首輪】だよ。

力では外せないと思う。

どうしても外したいのなら、首を切り落とすのが一番手っ取り早い。

やってみたいのなら、僕が手伝ってあげようか。

切れ味の悪い鋸を持ってるんだ、ただで良いよ、どうだい」


 伯爵が黙った。

首輪から手を放し、躍起になって俺を探す。

頼りになる灯りは星明りだけ。

きょろきょろ前後左右を見回し、挙句には上も見た。

やがて諦めたのか、力のない声。

「どこにいる」

 俺は相手した。

「見える訳がないだろう。

俺はお前が殲滅した駐屯地の将兵の一人だ。

要するに亡霊だな」脅した。

 

 途端、奴の表情が強張った。

ビクリ、ビクビク。

離れ様として座ったまま後退りした。

「まさか」

「そのまさかだよ」

 図に乗ってみた。

サービスで奴の頭に水の塊を落してやった。

「ヒャー」

 行き成りの事に、奴は驚いて転げ回るしかなかった。

石畳の上を子供が遊んでいるかの様に、ジタバタ、ゴロゴロ。

面白い。


 俺はサービス精神を発揮した。

開店大サービス。

「俺だけじゃない。

同僚達も大勢いる」

 風魔法を起動した。

狙いは奴、全裸伯爵。

四方八方から鎌鼬を叩きつけた。

奴の外皮に無数の浅い傷をつけて翻弄した。

辺りに響き渡る悲鳴。

「助けてくれー、許してくれー」

 奴が俯せになった所で閉店した。

身動ぎ一つしない。

死んだ訳ではない。

鑑定によると、HPが半減していた。

水浴びと亡霊出現による心理的効果が大かも知れない。

ひ弱だな、全裸伯爵。


 俺は奴に命じた。

「起きろ。

起きて俺を見ろ」

 聞こえている筈なのに、奴は起きない。

気絶した振りして場から逃れようとしているのかも知れない。

だが、それは悪手。

所有者や使用者の命令に従わねば、

【奴隷の首輪】に施された術式が発動する。

首輪が少し絞まった。

「ウゲーー」

 伯爵が潰されたカエルの様な声を上げた。

両手を首輪に伸ばした。

外そうとした。

人の手で外せる訳がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ