(大乱)63
ルクスに見送られた。
「毎度ありがとうございました」
「それじゃ、追加情報は屋敷に届けて」
商人ギルドを出た俺の足取りは重い。
仕入れた反乱関連情報のお陰で不安が増しただけ。
幸いなのは戦場が遠方である事くらいか。
相談したいカールは代官として木曽に赴任中。
そこで屋敷に戻った俺は執務室に彼等彼女等を呼んだ。
執事・ダンカン。
執事見習い・コリン。
執事見習い・兼従者のスチュワート。
メイド長・バーバラ。
メイド・ドリスとジューン。
料理長・ハミルトン。
庭師長・モーリス。
屋敷警備担当・ウィリアム小隊長。
何れも役目柄、街中の者に接触し、交渉・商談等を行う。
その際に前置きで、街中で起きたことや兎角の噂を仕入れている筈だ。
一生徒でしかない俺より情報量が多いと思う。
俺は彼等彼女等に商人ギルドで仕入れた情報を開示した。
まずは情報の共有。
その上で尋ねた。
「何から検討したらいいのか、経験不足の僕には分からない。
だから何でも教えて欲しい。
無駄なら無駄でも構わない。
一つ一つ潰して、杞憂を払いたい」
茶飲み話形式にした。
それぞれが好みのお茶を飲みながらの雑談・・・。
それで大事なことが一つ、判明した。
当家の情報仕入れ先は偏っていた。
主要な者達がポール細川子爵邸からの移籍なので、
当家の渉外先は細川子爵関係が多いのだ。
移籍でない者も、細川子爵派閥とも言える宮廷貴族の地縁血縁が多数。
ウィリアム小隊長と彼が率いる小隊は違う。
俺の実家がある戸倉村から来た者達ばかり。
そのウィリアムが言う。
「細川子爵様のお力添えなので安心していたのですが、
思わぬ欠点を抱えていたのですね」
年長の庭師長・モーリスがしみじみと言う。
「ワシも考えなんだ。
道具や肥料の購入先は顔馴染みの店ばかりで安心していた。
反省、反省。
これを機会に新しい店も幾つか入れるか」
メイド長・バーバラが言う。
「言い訳がましいですが一言。
当家は他家との交流が少ないと思います。
親しい細川子爵様関係ばかりです。
敢えて言わせて下さいませ。
ダンタルニャン様、冒険者パーティも宜しいですが、
招かれている夜会やお茶会へも少しはご参加下さいませ」
執事・ダンカンが乗っかった。
「それもそうですね。
ダンタルニャン様に随行する我らも顔が繋げます。
我らが他家の執事や側仕えと親しくする機会でもありますからね」
俺はお子様子爵なので他の貴族との交流は、自ら制限していた。
第一の理由は貴族の嗜みに慣れていないこと。
第二は、面倒臭い。
夜会やお茶会では、俺は子供の集まりの方へに連れて行かれる。
前世が大人の俺が子供の相手・・・、そんな。
顔馴染みのパーティ仲間やイヴ様くらいなら構わない。
けど、他の子供が相手となると・・・。
あれっ、学校で慣れてる。
あれっあれっ。
すっかり子供に馴染んでいた。
「分かった、分かった。
これからは参加する。
皆で参加した方が良い夜会やお茶会を検討してくれ。
ただし、冒険者パーティを優先で頼む」
情報の共有は藪蛇を招いた。
もっとも、いつかは通らねばならぬ道。
早目に貴族の友人を作るのも悪くはないかも知れない。
その日がやって来た。
貴族のお茶会に招かれた。
もっとも刻限は夕方からなので、その日は学校の休みもあり、
まず早朝より冒険者パーティとして活動をした。
何時ものメンバーが昨夜より当家に泊まっていた。
キャロル、マーリン、モニカ、シェリル京極。
大人はシンシア、ルース、シビル、ボニー。
常時依頼の薬草採取なのでギルドに顔出しする必要はない。
当家の馬車二輌に分乗した。
南門から出た。
小川沿いの湿地帯手前で馬車を待機させ、
パーティのみで薬草採取に向かった。
自生地を把握しているので迷うことはない。
目当ての薬草を採取した。
本日のメインデッシュは魔物の討伐。
Fランクの見習いは受注できないが、運悪く遭遇した場合は、
逃げるか討伐するしかない。
その辺りは命が第一で、何を選択するにしろ、目溢しされていた。
俺は探知魔法☆☆☆☆で探した。
女児様方がご希望のゴブリン。
見つけた。
都合よく十二匹。
彼女達は学業の為、近接戦闘を磨こうとしていた。
ゴブリンは児童並みの体躯なので、恰好の相手なのだ。
難点を上げるなら、腕力が大人を優に凌ぐあたり。
幸い大人組が後衛でバックアップしてくれるから、問題は生じない。
女児達は左手に小さな丸盾を構え、右手の短剣を持って、
我先に駆けて行く。
実に好戦的な女児達に育ってしまった。
お父さんとしては嬉しい・・・、後ろからシンシアに怒鳴られた。
「ダン、遅れてるわよ」
そうだった。
俺も近接戦闘を磨かなければ。
小さな丸盾を構え直して、短剣を振り翳し、女児達の後に続いた。
当然、身体強化は行わない。
素の力で戦う。
ゴブリン達がこちらの動きに応じた。
戦術も何もない。
剣や槍を振り回し、個々に駆けて来た。
中には盾持ちもいた。
その盾を武器の様に振り回し、遅れじと駆けて来た。
こちらは予め、大人組により、戦う手順は決められていた。
丸盾で相手の初撃を受け流す。
相手が態勢を崩しても、懐には飛び込まない。
伸びている手か足に斬り付ける。
浅くても深くても、傷付けたら様子見に後退する。
様子次第で更に手傷を負わせる。
または極める。
俺の相手は槍持ちだった。
せせら笑いながら、錆びた槍先を突き出してきた。
丸盾で相手の初撃を受けて流した。
奴が態勢を崩したところを狙い、伸びている手を狙った。
手応えは深手。
奴は槍を落した。
俺は素早く後退、様子見。
奴は悲鳴を上げ、泣き叫び、仲間に何事か訴えていた。
加勢を求めているのか。
俺は瞬時に判断、間髪入れず跳んだ。
短剣で奴の胸元を刺し貫いた。
 




