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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
257/373

(大乱)58

     ☆


 俺は校門を潜った。

ここ、幼年学校は別世界。

世相から隔離されている訳ではないが、寮住まいの生徒が多いので、

平穏な空気が全体を支配していた。

かと言って、全員が染まっている訳ではない。

問題意識を持つ者も、極一部にはいた。

特に、自宅から通学している生徒だ。

大人世界に耳を傾けていた。

そんな一人が俺を待ち構えていた。

パティー毛利だ。

「おはよう、ダンタルニャン殿」読み難い笑顔。

 後ろのアシュリー吉良の挨拶も聞こえた。

共に、クラスは違うが同学年だ。

当然、二人には従者も付いていた。

彼等彼女等は守る対象がクラスに入ると、併設の従者控棟に向かう。


 朝の挨拶のやりとりは珍しい事ではないが、この二人とは・・・。

俺は疑問符を頭に付けながら、顔には表さず、応じた。

「おはよう、お二人さん」

 付いていた従者達が表情を変えた。

気に食わないらしい。

だが、待って欲しい。

俺は二人のように構内にまで従者は付けていないが、身分は子爵様。

貴族の子弟である二人と違って、貴族様ご当人。

大人げないから口では言わないけど、ねっ。

 それに気付いたのか、パティーが従者達に事情を手短に説明した。

納得させると俺を振り向いた。

「ちょっと時間があるかしら」

「今から」

「そうだけど、都合は良いかしら」

「遠慮はしないんだろう」

「そうよ、大事な相談だから。

でも立ち話ではなくて、ゆっくり話せる所で」

「食堂ではどうかな。

寮生の朝食は終わっている筈だから」

 

 食堂に勇者が一人、二人、三人。

授業が間近いと言うのに、ゆっくり朝食を取っていた。

これでは授業に間に合わないだろう。

受ける相談の内容次第で俺達も、だが、

 俺達は隅のテーブルに腰を下ろした。

二人の従者達は隣。

中の一人がお茶を取りに行く。

それを見送りながらパティーが口を開いた。

「貴男、王妃様とは親しかったわよね」

「親しいというより、子守扱いだけどね」

 聞いた瞬間、パティーが声を出して笑った。

隣のアシュリーは口を押さえた。

でも隠せない。

肩が揺れ、声を漏らしていた。


 パティーが表情を取り繕った。

俺に視線を合わせた。

「事情は聞いているわ。

それでね、ちょっとご相談があるの」

「相談・・・、怖いな」

「失礼ね・・・、まあ、許してあげるわ。

それでなんだけど、私も後宮に出入りしたいの。

何とかならないかしら」

 なんてことを。

後宮は女の園だが、貴族の子女が気軽に入れる所ではない。

そこへの出入りだと・・・。

彼女は俺を過大評価していた。

俺はそこまでではないのに。

目の前のパティーは貴族のお子様でも、所詮は女児。

考えているようで、考えていない。


 従者がこちらのテーブルにお茶を運んで来た。

それぞれの手元に置き、仲間のテーブルに戻った。

俺は礼を言った。

「ありがとう」

 熱っ。

火傷しないように口にした。

俺の返答を待つパティーの圧・・・。

「理由を聞かせてくれる」

「申し訳ない、できれば聞かないで欲しいの」

「そうか、ふ~ん。

そちらの本家の力を借りれば僕よりも早いと思うけどな」

「本家は、ちょっとね」


 本家を頼れない。

まあ、女児だから無理もないか。 

何が彼女を駆り立てるのだろう。

俺は彼女の従者達に目を遣った。

ところが、誰もが目を逸らした。

 彼等彼女等は当初、俺を認識していなかった。

ところが、今は違う。

俺を知った。

そして彼等彼女等はパティーの目的を、たぶん、知っている。

俺と目的を結び付け、彼等彼女等は一つの結論に達した。

だから視線を逸らした。

 俺はアシュリーにも視線を転じた。

彼女も目を逸らした。

これは・・・、面倒事だ。


 俺は推理した。

その行き着く先は一つ。

王妃様への直訴。

女児が何を直訴するというのか。

本家を憚っての直訴。

色々と面倒臭そう。

 

「僕が王妃様に許可を得るのは無理だ。

例え親しくても、話の持って行きようがない。

説きようがないから、困らせるだけだ」

 パティーの表情が曇った。

そこで俺はある提案をした。

「僕ではなく、別の筋がある」

「聞かせて」

「ポール細川子爵だ、知ってるだろう。

彼を通したらどうかな」

 パティーとアシュリーが顔を見合わせた。

渋々ながら頷き合う。

「会ってもらえるかしら」

「取り敢えず試してみないか」

「うちの親や本家に内緒で会えるかしら」

「段取りは僕に任せてくれる」

「ええと、・・・、任せます」


 親や本家の目を恐れていた。

何がある・・・。

俺は賽を振るしかない。

「先方に相談し、日時を決める。

決まったら連絡する。

それで良いか」

 パティーが頭を下げた。

「宜しくお願いしますね」

 隣のアシュリーも頭を下げた。

それに倣ったのか、従者達も頭を下げた。

この一体感、何だ、何が有る。

俺は何に首を突っ込んだ。

泥沼、底なし沼。

たぶん、一歩だけだが、突っ込んだな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者様の「銭ぜに銭」が面白かったので、本作も読ませていただきましたが、シナリオがよく練り込まれていて予想以上に面白くて5日で一気読みしてしまいました。 戦国時代を土台とした異世界(未来?)フ…
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