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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
255/373

(大乱)56

     ☆


 関東、武蔵地方の江戸。

ここに関東代官所が置かれていた。

同じ武蔵地方の領都は河越にあるが、江戸のみは管轄から外され、

関東代官に治められていた。

その代官所がこのところ大いに賑わっていた。

理由は総じて一つに行き着く。

中央への反乱。

 国都が政の中心地である。

同時に文化を担う中心地でもある。

それらは国都から畿内を通じ、各地に拡散して行く。

ただ時間差が生じる。

それが格差となり、差別を生む。

その為、末端である遠方の地は別称で呼ばれる様になった。

鄙、と。


 鄙と呼ばれた地方は国都への反感から自然、勤倹尚武を尊ぶ。

西の反乱も、関東の反乱も、その底流には反感があるのだが、

そこは口にはしない。

嫉妬でしかないから、勤倹尚武と意訳する。

栄華に酔い堕落した国都畿内、対して勤倹尚武の鄙の地。


 反乱に加わる人々が日増しに多くなって行く。

手続きは地元でも出来るのだが何故か、

人々は関東代官所の窓口に向かう傾向にあった。

たぶん、代官職を世襲する上杉侯爵家に流れる血のせいだろう。

 世襲代官家は断続的に王子を婿養子として受け入れるので、

貴族としての格付けは公爵家並みであった。

鄙の人々は口では中央への不平不満を吐きながら王家の血を尊ぶ。

相反するのだが、誰もそこへ至らない。


 トム上杉侯爵は執務室の窓から外を見下ろしていた。

軍の窓口に列なす入隊志願者の群れ。

反乱への反響が予想外過ぎた。

首謀者その人ではあるが、ある種、呆れた。

執事が歩み寄って来た。

「旦那様、皆様方がお揃いです」


 代官所の中で一番広いフロアを代官指揮所にしていた。

ここに全ての情報が集まり、分析した後に、各地の指揮官に報ずる。

トム上杉が最も力を入れているのが、これ。

情報の収集・精査・分析、後に現場に丸投げ。

たぶん、指揮官達が上手く活かしてくれるだろう。

武の玄人を信じるしかない。

 文武官が大勢、忙しそうに立ち働いていた。

お茶を入れ替えるメイド達もそう。

足早にワゴンを押して行く。

皆、仕事中なので顔を出した代官には軽く会釈する程度。


 トム上杉は奥まった一角に足を向けた。

パネルで仕切られ、話し声が漏れないように術式が施されていた。

反乱の首謀者全員が顔を揃えていた。

実弟で武蔵地方の寄親・ウィル太田伯爵。

相模地方の寄親・イドリス北条伯爵。

下総地方の寄親・アンセル千葉伯爵。

上野地方の寄親・ジェイソン宇都宮伯爵。

信濃地方の寄親・テリー小笠原伯爵。

関東軍司令官・アンドリュー熊谷伯爵。

 六人はお茶を置いて立ち上がった。

トム上杉は腰を下ろし、ジェイソン宇都宮に声をかけた。

「聞かせて頂こうか」

 

 ジェイソン宇都宮以外の五人が腰を下ろした。

控えていたメイドがトム上杉にお茶を差し出した。

珈琲。

鼻を擽る薫りを楽しんだ。

「新しい種か」

「はい、遠路、商人が持参しました。

試しましたところ、お館様の好みに近いと思い、購入いたしました」

 トムは軽く一口。

かつて味わった事を思い出した。

あれは・・・。

「どこの商人だ」

「西方だそうです。

大隅とか申しておりました」

 思い出した。

国都の島津伯爵家の屋敷で試飲した。

遥か西国、砂漠を越えた先から輸入した・・・とか。

手に入れ難い逸品だ。

「その商人はどこに泊っているのか分かるか」


 メイドに代わって執事が答えた。

「はい、承知しております。

如何いたします」

「たぶんだが、島津伯爵家の間者だな」

 皆が一斉にざわめいた。

予期せぬ名が出て来た。

亡き国王の実弟を擁して反乱を起こしている島津伯爵家。

驚いて当然だろう。

執事が尋ねた。

「捕らえますか」

「捨て置け、何の懸念もない。

こちらの状況を知りたいだけだろう。

それよりだ、ジェイソン殿、済まんが話してくれるか」


 国都のスラムにて逮捕されたのは伯爵家五家、侯爵家一家。

その中にジェイソン宇都宮伯爵家はなかった。

最悪を想定し、当初から外しておいたのだ。

それが役に立った。

疑われてはいるだろうが、反乱の一味としては名指しされなかった。

お陰で宇都宮家を通じて国都の状況が手に取るように分かった。


 ジェイソン伯爵が口を開いた。

「総大将にはヒュー細川侯爵が任じられました。

王妃の見送りを受けて、既に国都を発っております」

 トムは皆を見回した。

「誰か、ヒュー細川を知っておるか」

 皆が首を横にした。

ジェイソンが続けた。

「士官学校を卒業したばかりで、今は宮廷で見習いをしております」


 アンドリュー熊谷伯爵が呆れたように言う。

「ひよっこが総大将か。

我等を馬鹿にしているのか」

 テリー小笠原伯爵が同意した。

「如何にも、如何にも。

軽く捻ってやりますかな」

 イドリス北条伯爵が誰にともなく尋ねた。

「支流のポール細川子爵が侯爵家の後見役的な存在だが、

なんとも摩訶不思議な人事だ。

本家のお坊ちゃまを某達に殺させたいのか、その辺りが分からん」


 ジェイソン宇都宮が応ずるように続けた。

「国軍と近衛軍から参謀が出向しております。

たぶん、細川侯爵はお神輿で、

両軍の合意で遠征軍が動くのではないか、そう都民は噂しております」   

 トム上杉は納得した。

「うろ覚えだが、王妃も細川侯爵家とは縁続きであった筈だ。

そうなるとお神輿説が正しいのだろうな。

次に気になるのは兵力だ。

その点はどうなってる」

「国都を出た時点で侯爵家軍二千、国軍千、近衛軍千、計四千。

これに通過する地方から貴族軍が加わる予定です」

「伯爵の予想は」

「ポール細川子爵や王妃の本気度次第ですが、

五万は間違いなく超えるでしょう。

それでも十万はないかと」


 トムはアンドリュー熊谷伯爵に尋ねた。

「東北代官所や北海道代官所の様子は」

「今のところ懸念すべき動きはありません。

当初は静観するのではないかと思います」

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