(大乱)53
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
誤字脱字の報告、都度都度ありがとうございます。
大感謝です。
それの外見は魔物・コールビーであった。
ただ、ちょっと大きい。
全長は70センチ。
胴回りの太い部分は50センチ。
二対四枚羽根。
羽根の片翼は1メートル。
三対六本足。
足の長さは60センチ。
胴体は頭部、胸部、腹部に分かれてはいるが、
形状としてはラクビーボールに似ていた。
それに羽根と足が付いていた。
この二体は錬金魔法で造られた物。
ダンタルニャン佐藤子爵が眷属妖精・アリスと、
同じく眷属ダンジョンスライム・ハッピーに強請られて、
チューンナップを繰り返し、強化に強化を重ねた機体であった。
施してある術式もアップデートにアップデートが重ねられていた。
結果がこのエビスゼロとエビス一号。
共に高剛性と高速度を兼ね備えていた。
右のコールビー・エビスゼロのコクピットにはアリスが搭乗していた。
『遊んでみようか』念話。
左のコールビー・エビス一号のハッピーが応じた。
『パー、一発で決めたら面白くないもんね』
ミカワオロチの頭上で旋回飛行を開始した。
次第に速度を上げて行く。
それが無用な風を生む。
周辺の木々を大きく揺らし、枝葉を吹き飛ばす。
質の悪いことに弄ぶかのように時折、
捻りを入れてミカワオロチの鼻先を掠めた。
その度にミカワオロチが噛み付こうとするが、何れも失敗に終わった。
ミカワオロチがスルスルと胴体を丸めた。
蜷局・・・。
蜷局の中に籠るのかと思いきや、違った。
低い姿勢で蜷局を巻き、鎌首と尻尾を立て、二機に対抗しようとした。
彼我の特徴を考慮すると、
このような慎重な対策にならざるを得なかったのだろう。
防御を固めて反撃の機を窺う。
正解かも知れないが、何度も反撃の機があるとは思えない。
何しろ相手は飛行体。
一度か二度、ないしは三度が精々だろう。
アリスとハッピーはダンタルニャンの依頼で木曽に来ていた。
王妃側の作戦を助ける為だ。
勿論、公然とではない。
陰共、それも自然な形での援護。
騒ぎになる前に鎮める。
今回の場合だと、ミカワオロチを事前に追い払うのが正解。
妖精とスライムには難しい依頼であった。
『面白くないわね』アリスが愚痴る。
『ピー、つまんない』ハッピーが応じた。
『決めちゃおうか』
『プー、僕に任せてよ』
両エビスに搭載されている動力源は二つ。
討伐したキングワイバーンとクイーンワイバーンの魔卵を元に、
錬金で精製し、仕上げた魔水晶。
一つはキングワイバーン魔水晶。
もう一つはクイーンワイバーン魔水晶。
相性の良いキングとクイーンを搭載しているので、滑らかに動く。
しかも風魔法への適性があり、魔力も絶大。
最高の逸品。
ハッピーはエビス一号を急降下させた。
更に速度を上げた。
片翼に魔力を纏わせた。
それでもってミカワオロチの鎌首に斬り付けた。
手応えあり。
外皮を切り裂いた。
迸る鮮血。
大きく旋回し、口を開けて二つの銃口より風魔法を叩き込む。
初級のウィンドカッター。
狙った箇所は傷口。
そこへ二発のウインドカッターが喰い込む。
初級ではあるが、元々の下地である魔力が違う。
キングとクイーンの物。
鎌首を綺麗に斬り落とした。
宙を舞い落ちる鎌首。
そこへ急降下するのは待機していたエビスゼロ。
『任せて』アリス。
落ちる先で待ち構えた。
コクピットの窓を開けて鎌首に手を伸ばした。
触れて亜空間収納庫に取り込む。
残されたのは蜷局、胴体と尻尾。
鎌首より上を失っても、頑なまでに形状を維持していた。
そこへエビス一号が急降下。
これまたコクピットの窓を開け、手を伸ばして触れ、
亜空間収納庫に取り込んだ。
『ベー、これで良いよね』
『任務完了、離脱するわよ』
二人は機体を急上昇させた。
雲の合間に姿を隠した。
『上手くいったわね』
『ポー、ニャンが褒めてくれるね』
『でも、これで終わりじゃないのよ』
『パー、どうして』
『この仕事、二月はかかるみたい』
『ピー、まだやるの』
『そうみたいね』
『ベー、次は強い奴をお願い』
下で一部始終を目撃していた者達は言葉を失っていた。
そんな中で最初に口を開いたのはレオン織田伯爵。
「直ちに警戒態勢を取れ、警戒態勢を取れ」
家臣達のみでなく陰共の者達をも指揮下に置き、
次の魔物の襲撃に備えた。
皆の動きを見ながら、サイラス羽柴男爵に命じた。
「ゴーレムを呼び集め、補修を行え」
ゴーレムは動きはするが生き物ではない。
土魔法で造り出した物。
壊れた箇所を補修すれば入院の必要はない。
幸いロックゴーレム。
サイラスと管理者五名で対処可能。
レオンの傍にイライザがチョンボを伴って現れた。
木曽代官の副官と、彼女がテイムしているダッチョウ。
そのイライザが申し訳なさそうに頭を下げた。
「こちらの不手際でした」
「気にするな。
ミカワオロチがここまで出張るとは誰も考えない」
「そうは申されますが・・・」
チョンボは空気を読まない。
片翼でイライザの頭を撫でた。
「それよりも問題はあのコールビーだ。
なんだあの強さ。
そして飛行速度。
しかも収納庫持ちときた。
初めて見たぞ」
「私もです」
「あれはこの大樹海に生息するのか」
「これまで報告は一件もありません。
このチョンボも初めて見たそうです」
レオンは鼻筋をなぞり、考えた。
「つまり群れではなく、・・・特殊個体、それが二つ。
・・・。
遭遇例がない。
・・・。
今回は敵に回らなかったが、次回は・・・」
「如何します。
中止しますか」
「そうは参らん。
約定は約定だ。
次回よりは軍事用ゴーレムのみを移動させる。
行軍速度も上げる」
「土木工事用ゴーレムは」
「供のサイラスを現地に駐在させ、造らせる。
あれであれば必要な数を熟せるはずだ」