(三河大湿原)4
パイアの解体を終えた俺達は塩漬けした肉と剥いだ皮と、
魔素の詰まった魔卵二つを野営地に運んだ。
骨とかの使えない部分は穴を掘って埋めた。
それからようやくして本来の目的地である砦跡に、
再度、向かう事になった。
前回を教訓にして人数を増やした。
親子三組にケイト、警護六人。計、十三人。
獣人二人の偵察を先行させ、それに俺達が続いた。
俺は探知スキルと鑑定スキルを連動させた。
不安材料はない。魔物も大型の獣も近くにはいない。
パイアの襲撃現場を抜け、木立を抜けると一面が竹林。
鬱蒼とした竹林の先に積み上げられた石の壁が見えた。
「砦跡の外壁だ」と父が教えてくれた。
竹林を抜ける際、左右の景色の違いに気付いた。
左は階段のような段差が続くのに対して、右は奥行きがだだっ広い。
俺の疑問を読んだかのようにモニターに文字が現れた。
「左は段々畑跡、右は水田跡です」気が利く鑑定スキル。
チョロチョロと水音も聞こえてきた。
砦は食料の大半を自給していたのだろう。
竹林を切り払えば、今でも作物を充分に育てられそうだ。
竹林を抜けた俺達の目の前に石の外壁が聳え立っていた。
高さおよそ十メートル。
所々欠け落ちてもいるが補修すれば現役、と言っても差し支えない。
「石壁に埋め込まれた魔力に陰りがあります」鑑定スキル君。
昔の人は外壁にまで魔力を埋め込み、強度を維持していたらしい。
それが今もって現役とは、なんという持続力。
門を潜り抜けると中央に奥行きの広い建物が一つあった。
煉瓦造りの二階建て。
「煉瓦に埋め込まれた魔力にも陰りがあります」またもや鑑定スキル君。
それだけの効果が持続する術式が施されているのだろう。
驚愕に値する。
俺達は建物の入り口に近付いた。
辺りがすっかり綺麗とまではいかないが、
ズッと無人だったとは思えないほど片付けられていた。
「盗賊団が住みやすいように掃除したそうだ。
その後は、盗賊団を退治した後だが、村の者達が大掃除に来ている」
何度か来ている大人四人が警戒する中、俺達は見学した。
不意に脳内モニターに文字。
「地中の魔素濃度がレベルに達しています。
深く掘り下げてダンジョンを創造しますか。
承諾、却下」ダンジョンマスター☆。
すぐに却下をクリックした。
みんながいる前でダンジョンなんて、冗談じゃない。
興味はあるが、今はそんな時期ではない。
ダンジョンに引き籠もるなら、もっと年取ってからだ、と思った。
俺達は五日目の夕方に目的地に着いた。
広い、広い、だだっ広い、三河大湿原。
右も見ても、左を見ても、前方遙か遠くまで見渡しても、
湿原、湿原・・・そして湿原。
視界を遮る物は何もない。
視界全てが湿原で占められた。
風に微かな塩成分。
近くにまで海水が寄せているのだろう。
何に驚いたのか、鳥たちが一斉に飛び立った。
風に乗って獣の臭い。
サイ・・・。
「ミカワサイです」鑑定スキル君。
体長およそ五メートル。
前世のサイより大きく長い二本の角を持っていた。
その五十頭近い群が河川に飛び込み、
向こう岸に泳ぎ渡って行こうとした。
異変が起こった。
視界片隅で争う水飛沫が上がった。
ドスの利いた叫びや呻りも上がった。
ワニ・・・。
「ミカワワニです」鑑定スキル君。
こちらも体長およそ五メートル。
二頭のワニが一頭のサイに狙いを定め、襲い掛かっていた。
どうやら水草の陰に隠れ、待ち構えていたらしい。
俺は父に尋ねた。
「ここで野営するの」
「えっ、当然だろう」
周りの大人達も至極当然のように頷いた。