(大乱)51
レオン織田伯爵の指揮のもと、矢が射られ、槍が投じられ、
攻撃魔法が放たれた。
目標が大きいので外す事はない。
その悉くが、持ち上げられた鎌首を中心とした箇所に命中した。
予想していたが、意外と硬い。
そして弾力もある。
矢も槍も弾き返された。
火魔法ですらも軽く炙る程度。
それでも僅かの間ではあったが、時間稼ぎにはなった。
土魔法の土盾・アースシールドで強引に築いた土壁を目前にして、
ミカワオロチの前進が止まった。
その間隙を縫う様にして、土壁を迂回して出撃したロックゴーレムが、
ミカワオロチに挑んだ。
右からの三体が鎌首に。
左からの二体が尻尾に。
ドタドタと走り寄り、しっかり取り付いた。
ロックゴーレムは土木工事用なので簡素な造り。
武器は装備していない。
あるのは力のみ。
それぞれが両腕で組みつく。
ベアハグ、鯖折り。
ベアで鯖とは、これ如何に、などと言っている場合ではない。
ミカワオロチの体長は長いが、胴回りはそれ程ではない。
が、ロックゴーレムの腕では捕まえきれない。
捕捉し難い。
それでも管理者の指示に従うのがロックゴーレム。
外皮を強引に掴む恰好で、前進するのを強引に押し止めた。
それも土壁の目と鼻の先。
付与されてる術式が威力を発揮した。
両足をしっかり地に付け、両膝を曲げ、腰を落し、胸で相手を受け止め、
両手で相手の外皮を掴んで離さない。
まるでスッポンの如し。
鎌首を三体で制し、尻尾を二体で制した恰好。
そこまでが限界。
動きを制したが、仕留めるには至らない。
レオンは土魔法で土壁の内側に階段を取り付けた。
実に簡易な造り、狭くて急な傾斜。
レオンが一段目に足をかけた。
サイラス羽柴男爵が慌てて止めた。
「お館様、危険です」
「見ずして指揮できるか」
「それでは某が」
レオンは無視して駆け上った。
サイラスが後に従う。
二人は全身を晒さない。
隠れるようにして外の様子を窺った。
戦いは膠着していた。
鎌首と尻尾を掴んで離さないロックゴーレム。
何とか逃れようと計るミカワオロチ。
双方ともに決め手に欠けていた。
まるで鍔迫り合いの様相。
それを見てレオンがサイラスに尋ねた。
「何とか無傷で捕えられぬか」
「それは無理でしょう」
「滅多に出て来ぬ奴だぞ」
「気持ちは分かりますが、まず無傷で捕える手段が御座いません。
それに、捕えたとしても、運ぶ手段が御座いません」
「ゴーレムが足りぬか」
「せめて十体は必要でしょう」
ミカワオロチの動ぎが変わった。
遮二無二逃れようとしていたのを止めた。
見る見る鎌首から力が抜けて行く。
鎌首をロックゴーレム三体に預け、しなだれかかった。
そして全ての力を尻尾に注入した。
思い切り尻尾を持ち上げた。
それもロックゴレム二体ごと持ち上げた。
それでもって地面に打ち付けた。
ドン、ドン。
二度三度。
頑丈なロックゴーレムは壊れない。
地面が凹むだけ。
ミカワオロチの挑戦四度目。
持ち上げて尻尾を曲げた。
今度は地面ではない。
土壁に叩き付けた。
土魔法で造られた物同士の激突。
ドドーン。
ロックゴーレムの作り手はサイラス。
土壁の作り手はレオン。
二人のランク、スキル、そのレベル差が現れた。
ロックゴーレムが壊れて落ちた。
一体は右手の手首を失った。
もう片方は左腕を失った。
それでも死んだ訳ではない。
直ぐに立ち上がった。
再び敵に挑もうとした。
ミカワオロチは二体を許さない。
自由になった尻尾でもって雑木林に弾き飛ばした。
それからが早かった。
鎌首を制していた三体に逆襲した。
一体一体を絡めとり、引き剥がし、土壁に叩き付け。
ドーン、ドーン、ドーン。
三体は欠損しても戦いを継続しようとした。
態勢を整えて駆け出した。
しかし連携を失った今、ミカワオロチには敵わない。
それぞれ右に左に弾き飛ばされた。
完全に自由になったミカワオロチは余裕からか、
再び鎌首を持ち上げた。
長い赤い舌をチョロチョロ。
両の目で土壁の内側を見下ろした。
レオンとサイラスは逃れる機会を失った。
互いに何も言わず、アイテムバッグから得意の武器を取り出した。
レオンは弓。
サイラスは槍。
「お館様、短い間でしたがお世話になりました」
「まだ早い、最後まで諦めるな。
まだ俺達は何も為してない。
ここは死すべき場所ではない」
「はっは、流石はお館様。
しからば某、最後まで抗いてみせましょう」
「そうだ、抗いてみせよ。
狙うなら奴の目だ。
俺が右目、お前は左目、しっかり狙えよ」
「ははっ、承知」
レオンは狙いを付けている最中、別の物に気付いた。
ミカワオロチの後方に突然、ある物が出現した。
飛行体。
それが戦闘に加わった。
朝別れたばかりの魔物であった。
ダッチョウ種。
名はチョンボ。
テイムしているイライザ嬢の顔が背中に見え隠れ。
木曽代官の副官だ。
手加減なしの特攻。
斜め上から降下して来た。
チョンボは鋭い爪。
イライザ嬢は長柄の斧。




