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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
247/373

(大乱)49

 レオンが案内されたのは三階。

階段を上がるだけで頑丈な造りだと実感した。

足下がしっかりしていた。

まるで石階段。

家族向けだとの指示がなされているのだろう。

サイラスが口にした。

「開拓民には贅沢な造りですな」

 ピーターが応じた。

「周りは魔物や獣で一杯なんです。

居住する宿舎では、大いに寛いでもらわないと身心が持ちません」

「優しい心遣いだな、子爵様は」

「漏れ聞くところによれば、伯爵様も平民には優しいとか」

「ほう、そういう噂があるのか」

「冒険者仲間から、そう聞いています」


 レオンは窓を開けた。

予期していたが、景色は無愛想な外壁と鬱蒼とした大樹海のみ。

右から小鳥数羽が現れ、そっけなく左に去って行く。

それを見送りながらピーターに尋ねた。

「お主達はこの契約が切れたら、どうするんだ。

切れたら当家で雇おうと思っているのだが」

「有難うございます。

過分なご評価、皆が聞けば喜びます。

けれど、誠に申し訳ないのですが、当分は切れないと思います」

「ほう、その訳は」

「・・・冒険者としての勘です」

 お子様子爵から何か聞かされているのだろう。

しかし、それを口にしない。

サイラスが表情を変えた。

余計な事を口にしそうになったので、レオンは手で制した。

「もしかすると、もう一つの傭兵団もそうなのか」

「はい、アーノルド、あっ、これは団長なのですが、彼とも話し合いました。

その彼も、当分は子爵家でお世話になる、そう申しておりました」


 レオンは沈考した。

結論は一つしかない。

「国の乱れは当分、収まらない。

そう佐藤子爵は考えているから、お主達を手放さない。

だろう、違うか」

 ピーターは苦笑い。

「そうなのですが、困りました、どう申せば・・・」

「ほう、それだけではないのか」

「あの方は信用が出来ます。

先行きが分からぬ現状、仲間達を守りながら稼ぐには、

信用できる方としか契約したくないのです。

その一人が佐藤子爵様です」

「上手く立ち回れば荒稼ぎできるのではないか。

こういう機会は二度と来ないと思うがな」

 ピーターが頭を掻いた。

「ここだけの話、あの方は金離れも良いのです。

ケチ臭いことは一切仰りません。

流石は『白銀のジョナサン様』のご家系です」

 弓馬の神『白銀のジョナサン様』。

今の王家ではなく、前王家を支えた武人だ。

子孫は武門の意地とばかり、前王家の滅びに付き従った。

それでも、ごく少数が生き残った。

血統を守って、鄙な地に逃れ、隠れ住んだ。

それが尾張戸倉村の佐藤家。


 案内を終えてピーターが部屋から去ると、サイラスが言う。

「『白銀のジョナサン様』のご子孫様が金離れが良いとは」

「弓馬に加えて金払いだ、最強ではないか、あやかりたいものだ」

「伯爵様、当家にそこまでの余裕は御座いません、お忘れなく」

「分かっている、父の時代の借金返済が最優先なんだろう」

「理解されておられるのなら大変に結構」

「王家からの支援はあったが、それでもカツカツなんだろう。

此度の戦争特需で儲けてみせるさ、任せておけ」


 レオンは冷静にサイラスに問う。

「王家を取り巻く現状をどう見る」

「平民共は王妃様の危難と見ているでしょう」

「お前は違うのか」

「西の反乱は深刻に見えますが、王妃様にとっては、

それ程ではないと思います。

いえ、逆に利用なさっておられるかと。

評定衆と相諮り、互いの政敵になりそうな貴族や官僚を戦地に送り、

削っている、そう察しています。

東の反乱にしてもそうです。

王妃様や評定衆の方々には、まだまだ余力がありそうですので、

いかようにも手が打てます」

 サイラスはレオンに近い見方をしていた。

「しかし、お子様子爵は違うようだ。

冒険者クランや傭兵団を手放さぬのは、資金の余裕だけではなかろう。

何かがある筈だ」

「王妃様と評定衆・・・、互いの政敵を排除したら両者の均衡が崩れます。

そこを見ていられるのでは」

「西と東を収めた後でもう一波乱、それこそ大波乱ではないか。

王女様を戴く王妃様と三好家、毛利家。

そうなると王女様しかない王妃様側は些か弱いな」

「三好家や毛利家を嫌う評定衆の取り込み次第でしょう」

「当家はどう動く」

「まずは目の前の関東ですな。

ここで軍事用ゴーレムをより進化させませんと」


 風呂に案内された。

一階の離れに設けられていた。

渡り廊下の先の脱衣所からして綺麗な造り。

レオンとサイラス、二人で一番風呂だった。

 肝心の大浴場は魔水晶がふんだんに使われていた。

浴槽の材質からして貴族の屋敷の風呂よりも豪華。

そして源泉かけ流しかと思われる程の湯量と湯煙。

からくりは施された術式にあると言う。

あきれ返りながら湯を楽しんだ。

「これも土魔法ですな。

何とも贅沢な、当家でも造りますか」

「これが造れる奴がいたか」

「造らせましょう、是非とも」

「ああ、お前が欲しいだけだろう」

「魔法で身体をクリーンにするのも良いですが、

あれはどちらかと言うと戦場向き。

対してこちらは、何とも良いものですな。

これで天井を開けられる様にすれば、何とも言えぬ趣きが・・・」


 レオンとサイラスが上がると、待機していた家臣達が入れ替わりに、

大浴場に駆け込んで行く。


 風呂から上がると食堂に案内された。

これは一階の奥に設けられていた。

代官の副官・イライザが立って出迎えた。

「伯爵様、お風呂は如何でした」

「あれは貴族用を超えているな。

誰を接待するんだ」

「開拓は体力勝負になりますから、せめて風呂では癒そうかと」

「死ぬほどに働かせる、そうとしか聞こえんな」

 イライザは無表情で聞き流した。

小娘にしては貴族慣れしていた。

「先に説明にしますか、それともお食事に」

「食事は家臣が揃ってからだ」

「それでは先に説明いたします。

隣のテーブルをご覧下さい。

討伐なされたヒヒラカーンの魔卵です。

計七個。

鑑定スキル持ちによると、うちの三個が卵液タイプ、二個が砂状タイプ、

残り二個が塊タイプです。

分かるように表面に張り紙しています。

・・・。

もう一つ隣のテーブルには、取り急ぎ、取り寄せた魔卵です。

卵液タイプが五個、砂状タイブが三個、塊タイプが六個。

これも張り紙しています。

三河には既に二十六個を送り届けています」

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