(大乱)48
彼等を知らないレオン織田伯爵にサイラス羽柴男爵が紹介した。
「伯爵様、彼等は冒険者ギルドでも上位のクランです。
王弟の反乱軍がダンタルニャン佐藤子爵邸を襲撃した際に、
屋敷の兵や傭兵と共に反撃、壊滅させた者達です」
サイラスの言葉にレオンは大いに頷いた。
誰もが知る昨年の反乱の一幕だ。
敗走する反乱軍を王妃様が自ら軍を率いて追撃された。
そして佐藤子爵邸前で挟み撃ちにされた、そう聞いていた。
「おお、あれか。
お主達がその者達か。
大層な戦振りだったそうだな」
クランの代表・ピーター渡辺はレオンの言葉に照れた。
「居合わせただけです。
それ程の事は・・・」
「今回の一件が持ち上がった時にお主達を思い出した。
もう一つの傭兵団もだ。
依頼を出したが長期依頼を受注していると断られた。
それがここだったとはな」
「はい、私共と傭兵団がこの件に関わる事になりました」
「それはなによりだ。
特に当家の財布が痛まないのが良い。
しっかり子爵殿からぼったくるようにな」
答えに窮したピーターを余所目にレオンは中継地を観察した。
新造だからか、土魔法の残滓が垣間見られた。
「今回の為に造ったと聞いているが、いやに手厚く造ってあるな」
その言葉にピーターが頷いた。
「分かる方には分かるものですね。
同行された代官様もここをご覧になって驚かれました。
子爵様は今回の件が片付いたら、
ここを開拓村の拠点にするそうです」
「ほう、無駄にせぬか。
成人しておらぬのに、しっかりしておるな。
見習いたいものよ、なあサイラス」
サイラスも中継地の外観を見回した。
「王家の支払いですから費用捻出には困りませんが、これはこれは・・・、
土魔法の使い手を如何ほど雇い入れたものやら」
ピーターが肩を竦めた。
「私共は完成してから入ったので、その人数までは分かりません」
レオンはピーターの表情を読んだ。
「お主もクランの代表だ。
魔法にも詳しい筈だ。
おおよその予想はつくのだろう」
ピーターは頭を捻った。
「あくまでも予想です。
人数までは把握し兼ねますが、土魔法のランクは最低でもC。
そして、建築に特化した土魔法の使い手。
少なくとも五名ですかね」
レオンは頷いた。
Cランク以上の土魔法の使い手。
しかも建築特化。
それが五名。
ダンタルニャン佐藤子爵の子飼いだろうか。
外観がこれだ。
内部の造りに興味が湧いてきた。
「案内してもらうか」
跳ね橋に足を接触させて気付いた。
これは・・・、術式が施されているのか。
レオンはゴーレムに術式を施す必要性から、
術式付与を独自に習得していた。
独学なので確とは言えぬが、ピーターに鎌をかけることにした。
「【魔物忌避】の術式か」
驚くピーター。
「これが分かりますか」
「ピリッと感じた、そうとしか言えない。
するとこれが外壁にも施されている訳だな」
「はい、安心してもいいが、警戒は怠るな、そう指示されました」
外壁は高さ5メートル、厚さ1メートル。
四隅には望楼。
たぶん、外壁や望楼の要所要所には術式が施されている筈。
加えて水堀。
佐藤子爵はお子様子爵と陰口を叩かれているが・・・。
ピーターの言によると、代官はここの建造には関わっていない。
関わったのは子爵本人。
これまでは、子爵家は国軍経験者の代官を雇用しているので、
功績は代官の手腕と囁かれていた。
どうやらその認識は改めねばならない。
レオンは子爵当人に会った事がある。
一見すると優しそうな子供だった。
が、その時、勘が囁いた。
異質と。
これに大人顔負けの仕事が出来る事を追加せねばならない。
中継地の中に入った。
驚かされた。
外壁を豪華と例えれば、これは貧困。
木造の建物が七棟あるだけ。
ほとんどが空地ではないか。
レオンの表情を読んだのか、ピーターが言い訳した。
「中継地なので、これで足りるそうです」
必要とする人員・物資を収容するには足りるかも知れない。
けれど、これでは・・・、うら寂しい。
「この一件が済んだら開拓村の拠点にすると言っていたな」
「はい、申しました」
「だったら建てれば良いじゃないか。
拠点として活用できる建物を」
「ああ、それですか。
土魔法の使い手達は領都に戻したそうです」
「あちらも土魔法の使い手が不足しているのか」
「はい、大掛かりな建物が多いので、常に人手不足だそうです」
思い出した。
尾張でも領都の大幅な改修を予定していたので、
建設や土工に関わる人員を募集した。
ところが必要な人員が集められない。
賃金を上げても集められない。
噂では、他に高い賃金を約束している所があると言う。
それでどこか調べさせた。
分からなかった。
もしかすると、ここも原因の一つだったのではなかろうか。
一棟に案内された。
建物に入って更に驚かされた。
外見は普通の木造だったが中は違った。
兵舎ではなく宿屋の建物を模していた。
兵の一人が思わず呟いた。
「カウンターもありますよ」
もう一人が言う。
「美人の受付と宿泊帳簿があればな」
それはない。
サイラスが溜息をついた。
「もしかすると開拓村に来る者達の宿か」
同行していたピーターが応じた。
「正しくは宿舎ですね。
この建屋は家族向けになります。
ここに泊まって開拓に従事してもらうそうです」
「無料か」
「どうやら、そのようです。
あっ、皆様は違います。
開拓民では御座いませんので有料になります。
ただ、ご安心を。
王宮に請求書を送りますので」
伯爵を相手にしてユーモアとは。
冒険者らしいと言えばいいのか。
姓があるから野良の貴族なのだろうが、相手によっては不敬になる。
それを承知なのだろう。
レオンは苦笑いした。
こういう馬鹿は好きだ。




