(大乱)46
七頭のヒヒラカーンに対して五体のロックゴーレムと槍兵十名。
ゴーレム一体に槍兵二名が付く。
数からして当然、二頭が余る。
その二頭が抜けて来た。
円陣を襲おうとした。
レオンがサイラスに指示した。
「お前は右だ」
それだけで事足りた。
レオンは土魔法の使い手。
直ちに起動した。
まずは土玉。
それを五発、ヒヒラカーンに放った。
玉は大きいが速度は緩い。
ヒヒラカーンはブレスで迎え撃つ。
人の魔法をブレスで相殺した。
レオンもそれは承知。
土弾は目眩まし、本命は別。
ヒヒラカーンの注意を引いて、その隙に奴の足下に深い穴をあけた。
落とし穴。
穴に下半身を落したヒヒラカーン。
思わず知らず、驚きとも悲鳴とも言える声を上げた。
「キャイーン」
何とかして抜け出そうとした。
レオンの部下達は慣れたもの。
指示はなくとも行動に移った。
五名が穴に落ちたヒヒラカーンに短槍を投擲した。
陣に近いので外す事は有り得ない。
五本の短槍が次々に突き刺さった。
うちの二本が顔面に命中した。
一本が喉を貫いた。
噴き出す鮮血、掠れる悲鳴。
サイラスも負けてはいない。
彼も土魔法の使い手。
直ちに起動した。
こちらは土弾。
小さくて硬い弾、二十発を散弾にして放った。
ヒヒラカーンが避けることを想定し、放射状にした。
しかも用意周到な事に次弾を待機させた。
狙われたヒヒラカーンは危機感を持った。
目の前の第一弾はブレスで相殺できても、次弾は対処しきれない。
ならば、後方へ退いて避けよう、とした、が。
それを読んでいたかのように弓兵五名が行動した。
追撃の矢雨。
ヒヒラカーンは着地したところを狙われ、全身に矢を受けた。
弱ったところに容赦のない次弾、上書きする様に被弾した。
悲鳴を上げて、暴れ狂う様に崩れ落ちる。
レオンとサイラスは二頭の息の根を止めるや、前方に注視した。
ゴーレム五体と槍兵十名がヒヒラカーン五頭を相手取っていた。
そちらも問題はないようだ。
こちらに優勢に展開していた。
土木工事用ゴーレムがヒヒラカーンを正面で受け止め、
槍兵が側面から削っていた。
こちらに負傷者は出たが、死者はいない。
百点満点だ。
負傷者にHPポーションを飲ませ、
レオンとサイラスはMPポーションを飲んだ。
それを見計らい、頃良しと判断したのか、
陰共していた代官の手の者が現れた。
代表するかの様に一名。
何とも形容し難い。
奴は、2メートル程の鳥種の魔物に騎乗していた。
獣人の女兵士で、愛想の良い顔でこちらに手を振り、
危害を加えぬと意思を表明していた。
手前で鳥から飛び下りると、素早く駆け寄り、レオンに敬礼した。
「伯爵様、加勢出来ずに申し訳御座いません」
「気にするな。
大した相手ではなかった」
レオンは女兵士の徽章を見た。
各領地に共通の徽章で、少尉。
その少尉が正直に口にした。
「ヒヒラカーンですよ、それが大した事ないと」
「そうだ、こちらにはゴーレムがいる、であろう。
それよりもだ、私の顔を知っているのか」
そこが問題だ。
伯爵自ら訪れるとは連絡していない。
どこから漏れた。
女少尉が至極当然に言う。
「私は国都の生まれです。
伯爵様は何かと話題になってらっしゃいました。
その折に街中でお見かけしました」
分かり易い。
嘘だ。
尾張の家臣から非公式な連絡があったのだろう。
飲み込むのが大人。
「そうか、そうだったのか。
・・・。
礼を申す。
大勢での陰共、痛み入る。
代官にもそう告げてくれ。
・・・。
ところでお主の名前は」
少尉が改めて姿勢を正した。
「代官の副官を努めているイライザと申します」
代官の副官が獣人、しかも、うら若い女人。
代官の兄は知っていた。
ポール細川子爵。
亡き国王の最側近で今は王妃の最側近。
しかも王妃の遠縁にして、宮廷貴族の頭目の一人。
徒疎かにしてよい相手ではない。
「イライザか、その鳥は」
「種としてはダッチョウです」
「やはりダッチョウか、名は知っていたが、見るのは初めてだ」
「人目を避ける魔物だそうです」
「そうか、それを使役しているということはテイムしたのだな」
「はい、縁あってテイムしてしまいました」
「不服そうに聞こえるが」
「気分屋なのです。
色々要求して私を困らせるのです」
途端、ダッチョウの一方の羽根が動いた。
イライザを弾き飛ばした。
地面を二三回転させられるイライザ。
慣れているのだろう。
回転の勢いを活かし、スッと立ち上がった。
ダッチョウを一睨みし、レオンに敬礼した。
「御見苦しいところをお見せしました」
「怪我していないか」
「何時もの事で慣れています」
レオンはダッチョウに目を転じた。
ダッチョウは我関せずとばかり、そっぽを向いていた。
思わずイライザに言った。
「我儘な奴をテイムしたのだな。
野に戻したらどうだ」
「説得したのですが、拒否されました」
「拒否か、好かれているのだな。
喜んで良いのか、嘆くべきか・・・」




