(大乱)45
国都で王宮より公表・告知がなされた。
「奉行所がスラムの浄化作戦を行った。
その際、不埒な輩を摘発、一網打尽にした。
取り調べた結果、中に驚くべき者達が存在した。
関東の独立を企てる者達であった。
それは浪々の者達ではない。
歴とした主家、仕える先を持つ者達である。
逮捕した者達の所属先を述べる。
東のスラムに太田伯爵の家臣従者、総勢四十六名。
西のスラムに北条伯爵の家臣従者、総勢二十八名。
南のスラムに千葉伯爵と小笠原伯爵の家臣従者、総勢三十五名。
そして北のスラムに上杉侯爵と熊谷伯爵の家臣従者、総勢五十七名。
以上、侯爵家一家、伯爵家五家。
彼等が関東独立の意図を持って一党を結成していた。
逮捕された者達は当主達により、国都に送り込まれていた。
目的は国都の焼き討ちであった。
卑劣にも一党は、家臣従者をスラムに送り込み、
国都を焼き討ちする機を窺わせていた。
が、これは逮捕された者達の供述である。
よって、それぞれの当主に弁明の機会を与える。
期間は三か月。
本日より三か月である。
それまでに納得のいく説明がなされない場合、
逮捕した者達の供述を真実であると認定し、
一党に名を連ねた者達の討伐を行う」
西の反乱を鎮めてもいないのに、この異常事態。
国都の大半を占める平民は不安に苛まれた。
同時に怒りにも駆られた。
自分達が一番目の犠牲者になる予定であったからだ。
しかし平民には為す術がなかった。
無力感・・・。
王宮からの次の発表を待つしかなかった。
関東との出入口にあたる美濃地方にも嫌な空気が流れた。
特に大樹海を持つ木曽はピリピリしていた。
中山道を大軍が通過できないのは過去が証明していたが、
それで安堵するのは一部の者達のみ。
これが本格的な戦争になれば分からない。
なにしろ戦争を行うのは人間。
幾らでも愚かになれるのは、これも過去が証明していた。
木曽一帯はダンタルニャン佐藤子爵が領有していた。
本来であれば子爵格数家で分け合う広さなのだが、
成り行きから佐藤子爵家一家に与えられた。
魔物の監視がし易いように領都は大樹海近くに置かれた。
高い外壁で囲われた市街はまだ空地は多いが、
それなりの住民が居住していた。
その子爵家の領内に、とある一団が尾張地方から入って来た。
見るからにゴーレムと分かる五体を従えていた。
彼等は人目を避けるように獣道を選び、静々と進んでいた。
一団はゴーレム五体と冒険者風の三十名で構成されていた。
先頭の五名が斥候役。
殿が五名。
間にゴーレムと二十名。
荷物はない。
何れもがマジックバッグ持ちで、必要な物はそれに収納していた。
ゴーレムの近くにいた青年が口を開いた。
「サイラス、魔物や獣に遭遇しないとつまらんな」
後ろの男が応じた。
「土地のお代官様のお気遣いです。
魔物忌避の薬草や獣忌避の薬草が所々で焚かれています。
それに各所に冒険者達が立ち、警戒に当たっています。
これでは魔物や獣は一歩も近付けません」
「そうか、完璧過ぎて嫌になるな」
「レオン様、そう仰るのは如何なものかと」
尾張地方の寄親・レオン織田伯爵と家来・サイラス羽柴男爵。
この二人も冒険者の恰好をしていた。
本来であれば身分的に同行すべきではないし、
予定もされていなかった。
ところがレオンは聞く耳を持たない。
当然のように部下達を率いた。
斥候役五名が足を止めた。
一名がハンドサイン。
「前方、魔物、接近中」
離れた箇所から口笛が鳴った。
陰で警護していた代官の手の者からの知らせだ。
「危険、危険」
それを目にし、耳にしたレオンの顔が綻んだ。
「どんな手を凝らしても、抜けて来る魔物はいるな」
サイラスが顔を顰めた。
「レオン様、喜んでいる場合ではありません。
ここで静かにお待ち下さい」
「それこそつまらんとは思わんか」
「家来の仕事を取り上げないで下さい」
斥候役の一名が駆け戻って来た。
探知スキル持ちだ。
「ヒヒラカーンの群れがこちらに向かって来ています」
猿の種から枝分かれした魔物だ。
上位種で知能があり、ブレスを吐く。
レオンが問う。
「我等に気付いたのか」
「足運びから、その可能性があります」
「頭数は」
「七頭です」
「斥候役全員をこちらに戻せ、殿もだ」
三十名が円陣を組んだ。
それぞれがマジックバッグから大型の盾を取り出し、外周を固めた。
迫り来るヒヒラカーンの群れだけでなく、他の魔物にも備えた。
ゴーレム五体はその円陣の外に置かれた。
ロックゴーレム、完全な人型で高さは3メートル。
サイラスがレオンの指導を受けて造り出した物だ。
頑丈さと動かし易さが売りの土木工事用ゴーレムだ。
前方の鬱蒼とした藪陰からヒヒラカーンの群れが姿を現した。
一番大きい個体でも高さは2メートル余。
七頭がこちらを見て威嚇のブレスを吐いた。
火炎・ブレスフレイム。
軽いブレスで力を示した。
レオンが探知スキル持ちに問う。
「他に魔物は」
「おりません」
「代官の手の者達は」
「左右に集まり始めています。
我等を支援するつもりの様です」
レオンはゴーレムを使役する管理者五名に命じた。
「我らだけで片付ける。
一気に蹴散らせ」
円陣から連続する弓弦の音。
十名が矢を連射、それぞれが三連射。
これに合わせてゴーレム五体が駆けた。
だけではない。
槍持ち十名がゴーレムの助勢として続いた。
一体に二名が付き従う。
想定外なのだろう。
ヒヒラカーンの群れが慌てた。
高いと言っても所詮は魔物の知能。
応ずる様に迎え出る個体もいれば、ブレスで応戦する個体も。
流石に逃げる個体はなし。
ヒヒラカーンとゴーレム、筋肉の塊と岩の塊が全力で正面衝突。
嫌な音がした。
「グガワッシャーン」
互角、どちらも一歩も退かない。
組み合う。
一方、ブレスを受けたゴーレムは躱さない。
愚直に直進。
火炎の中に飛び込み、その一頭を強引に殴り倒した。




