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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(大乱)44

「子爵様のお言葉を受けて私共は奉行所に捜査を命じました。

それが深夜の大捕物に繋がりましたの」

 そう述べてカトリーヌが一から説明した。

それはアリスとハッピーの報告を補完するものであった。

俺は素知らぬ顔でフムフムと頷きながら聞いた。

素人演技は大変だ。

何しろ相手は王妃警護一筋の軍人。

人の顔色を読むのは職業柄、慣れている相手。

俺は不自然にならぬように細心の注意を払った。


「奉行所は適切な取り調べを行い、それを詳細な報告書にして、

上に報告いたしました」

 奉行所の上とは、もしかして大臣や長官・・・。

カトリーヌはそこの説明は省いた。

「問題が問題ですので、最終的には評定に上げられました」

 結果、評定衆はこれまで明らかにされなかった関東の独立を、

周知する事に決した。

ただし、真相を少々歪めて公表する運びになった。

関東の独立先行という話ではなく、関東側の独立を望む勢力が、

卑劣にも国都の焼き討ちを企てた。

それを事前に察知した奉行所が一味を一網打尽。

取り調べで関東の独立を画策する勢力の存在が明らかになった、

そういう筋書にされた。


 カトリーヌが一息吐いた。

副官が素早くお茶を入れ替えた。

それをカトリーヌは一口で飲み干した。

俺を見て微笑む。

「子爵様は関東の一件はご存知でしたよね」

「はい」

「松平伯爵家のセリナ嬢に関わりましたので」

「でしたよね。

政は面倒臭いでしょう。

色々と段取りや根回しをしないと動かせないのです。

関東の一件も公表する時期が問題でしたが、これで決しました。

・・・。

奉行所が一味の逮捕を公表し、

評定衆が関わった貴族全員に出頭を命じます。

弁明したければ三か月後までに出頭するようにと」

 アリスとハッピーはそこまで調べていない。

奉行所だけで満足して戻って来た。

だからと言って叱責できない。

そう指示しなかった俺が悪い。


「もしかして雪解けを考慮して・・・」

「そうよ。

でないと出頭できないでしょう」

「北陸道はそうですが、中山道を使えば出頭・・・。

勘違いしました。

出頭する時期ではないのですね」

「あら、分かったのかしら」

 カトリーヌの微笑みの色が変わった。

大人の企みの色。

「誘導されました。

出頭どうのこうのより、出兵できる時期を目安にしての判断ですね。

すっかり勘違いしてしまいました」

「正解、そうですよ」


 関東側は雪解け後に王妃軍が討伐軍を送り出すと計算し、

事前に一味を潜入させたのだろう。

そして、たぶんだが、出兵後の国都を混乱に陥れようとしたのだろう。

それが俺のせいで瓦解した。

だとしても疑問がある。

「彼等も国都に屋敷を抱えているでしょう。

そちらはどうするのですか」

「出頭する気がない、そう評定衆が判断するまでは手をつけないわ。

それまでは無罪扱いよ。

期限切れまで辛抱して待つわ」

「でも期限切れと同時に出兵する。

それも積極的に。

よくそんな戦力がありますね。

西の反乱で手一杯なんじゃないですか」

「戦力は足りないけど、そこはそれ、大人の仕事よ」

 カトリーヌが俺を試す目色。

全て説明するつもりはないようだ。

だとしたら、こちらから水を向けなければならない。

全て説明したくなるように。


 俺は暫し考えた。

ダンカンが俺のお茶を入れ替えてくれた。

考え続けながら、ゆっくり飲む。

対面のカトリーヌがそんな俺に余裕の微笑みをくれた。

今気付いたが、彼女の訪問は奉行所絡みの説明だけでなく、

それとは別の目的もありそうだ。

思い付きで口を滑らした。

「北陸道から出兵すると勘違いさせる」

 微妙にカトリーヌの片頬が緩んだ。

「そう、それで・・・」

「中山道経由・・・」

 カトリーヌが身を乗り出した。

「木曽の御領主ですから、ご存知でしょう。

大軍で木曽の大樹海を無事に通過した例はないですわ。

過去例からすると、大軍の軍気に誘われた魔物の群れにより、

何れも餌に終わっています。

そういう過去例から、集団は百名を超えるな、そう言われていますわ」

 そうなんだが絶対に中山道だ。

何か手立てがある筈だ。

大軍を送り込む方法が。


 そうだ。

忘れていた。

戦力イコール兵数とは限らない。

人ではない戦力・・・、それは・・・。

近場にそれを可能とする人物がいた。

尾張の寄親・レオン織田伯爵。

彼は土魔法の使い手でゴーレム造りを得意とする。

「東に回す兵力がない、となればゴーレムですか」

 途端、カトリーヌが拍手した。

その背後に控えている副官が首を竦めた。

「よく出来ました」カトリーヌが嬉しそうに言う。

「正解ですか」

「ええ、そうよ。

足りなければ頭で補い、工夫する。

それが大人の仕事」

「ゴーレムで大樹海を抜けて関東に奇襲をかけるつもりですね」

「その前に試す必要があるわね。

それを許可して欲しいの、木曽の領主様」


 カトリーヌの目的の一つはゴーレムでの大樹海通過。

成功するかどうかを試し見るつもりなのだろう。

「そのゴーレムは何体いるのですか」

「最初は土木工事用のゴーレムを五体と兵士三十人です。

それを数回続けます。

失敗がなければ、それで決行です。

軍事用ゴーレムを投入します」

「真っ直ぐに信濃に抜けるのは拙くないかな」

 信濃地方の寄親である小笠原伯爵は敵の一味だ。

「途中で往還道から三河に向かいます」

「三河の松平伯爵の許可は・・・」

「当然ですが、得ていません。

話を知る人が少なければ少ないほど、成功の確率が上がりますからね」

 せっかく土木工事用ゴーレムを投入したのだから、

その地の山間部に王妃軍の足場となる駐屯地を築くと言って笑う。

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