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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
240/373

(大乱)43

 朝になってみて気付いた。

奉行所が総力を上げた深夜の取り締まりだったが、

それに気付いた者は屋敷には皆無、一人としていない。

夜警の者ですら、そうだった。

従者やメイドの口から出ることは、ついぞなかった。

 登校のついでに探った。

街中に漂うのは何時ものような平和な空気感。

クラスに入っても、それらしい噂する者はいない。

教師も食堂も同じ。

誰の口からも上らなかった。

騒ぎにならぬように取り締まった奉行所は役者が一枚上手だった。


 俺はアリスとハッピーに期待した。

世情で噂にならぬなら二人に頼るしかない。

ランクBと自慢していたから、それなりの結果は持ち帰るだろう、たぶん。


 三日後だった。

『調べ終わったわよ』

『パー、簡単だった』

 二人が戻って来た。

自慢気に話してくれた。

『探知スキル持ちや鑑定スキル持ちもいたけど、見つからなかったわよ』

『ピー、見つからなかった』


 外郭の東西南北四つのスラムで取り締まりが行われた。

それにより大勢が逮捕された。

東のスラムでは太田伯爵の家臣、従者も含めて四十六名。

西のスラムでは北条伯爵の家臣、従者も含めて二十八名。

南のスラムでは千葉伯爵の家臣と小笠原伯爵の家臣、

従者も含めて三十五名。

そして最大だったのは北のスラム。

上杉侯爵と熊谷伯爵の家臣、従者も含めて五十七名が逮捕された。


 速やかに尋問が開始された。

ところが、彼等が持つ首のタグはよくできた偽物。

それを【真偽の魔物水晶】が見抜いた。

初手から躓いた。

これでは人名特定から始めなければならない。

そこで鑑定スキル持ちが尋問に加わった。

氏名や所属は分かったが、それでも尋問は遅々として進まない。

 逮捕されたのは主家に殉ずる意思を持つ者達ばかり。

従者にしてもそう。

彼等はタグの変名を押し通し、後は口を閉ざした。

皆が皆、示し合わせたかのように貝になった。

そこで上に、魔道具使用が申請された。


 【奴隷の首輪】が認められた。

逮捕された者全員が一時的に奴隷に落され、尋問が再開された。

この【奴隷の首輪】だけは誤魔化せない。

嘘をつくと首を絞める設定にしてあるので、傍目にもハッキリ分かる。

 頭の良い奴は言葉の使い分けで誤魔化そうとするが、

別の者が述べた話と整合性が取れない。

そこを取調官に突かれ、答えに窮した。

尋問の専門家にとって【奴隷の首輪】は旱天慈雨。


 彼等の目的は不明。

彼等の主人が関東を掌握する前にスラムへの潜入を命ぜられていた。

関東を掌握した今となっても、新たな命令は届いていない。

連絡系統は維持されているものの、待機命令が継続されたまま。

 奉行所は、彼等は武装蜂起要員であると断じた。

王妃軍が関東へ討伐軍を派遣すると決した場合、

決起して国都を争乱に陥れる。

それを証明するかのように武具を大量に保管していたので、

あながち間違いではないだろう。

内郭の王宮を攻略せずとも、

組織だった放火に成功すれば外郭の街中を全焼させられる。


 近衛のカトリーヌ明石少佐が私服で現れた。

「子爵様、こんな形での面会で申し訳ありません」

 軍の尉官経験者は男爵待遇で、退官後に正式に任じられる。

佐官以上ともなると子爵待遇で、これもまた退官後に正式に任じられる。

なので、カトリーヌが俺に低姿勢である必要はないのだが、

彼女は何時もこうなのだ。

固い、固い、固いよカトリーヌ。

 俺は屋敷の執務室に彼女を招いた。

「こちらが良かったのですよね」

 本当はテラスか、庭の四阿でも良かった。

彼女の私服姿はそちら向きなのだ。

でも非公式の訪問だと言う。

外見は私服だが、中身は公式ということなのだろう。

つまり内緒話。


 俺の後ろには執事・ダンカン。

カトリーヌの背後には、これも私服の副官。

この二人は役目柄の同席なので、数には入っていない。

数には入っていないが、耳にした事は後で記して残す。

私記の形で保管する。


 メイドのジューンが飲み物とお茶菓子を運んで来た。

共に紅茶とどら焼き。

甘いものの組み合わせ。

頭を使った後なので俺には丁度いい。

たぶん、カトリーヌにも。

一口食べたカトリーヌが言う。

「美味しいどら焼きですね」

「家のシェフが街のバティシエからレシピを買い上げました。

そのお陰で家の者は何時でも食べられます」

「家の者って、メイド達でしょう、羨ましいわ」

「貴女の実家も貴族でしょう。

貴族は皆そうしてるんじゃないですか」

「少なくても貴族は使用人の為のデザートは作らせないわね」

 俺は後ろを振り返った。

ダンカンがカトリーヌの言葉に首を縦にした。

俺はカトリーヌの背後の副官に視線を向けた。

彼女も首を縦にした。

俺は非常識らしい。

「でも僕も食べられますから。

美味しい物は皆で食べなくちゃ、ねっ」

 カトリーヌが含み笑い。

「ふっふっふ、これからは毎日来ましょうか」

「歓迎しますけど、そんなに暇じゃないでしょう」

「そうよね、残念よね」


 カトリーヌが用向きに入った。

「子爵様が名前を出す事はお嫌いなようなので、

今回の件は奉行所の手柄とします」

「それで結構ですよ」

「えっと、失礼、今回の件の説明はしてませんが・・・」

 カトリーヌが不審な顔をした。

失敗、失敗、早とちりした。

でも、あれだよね。

「深夜の捕物でしょう」

「気付かれましたか。

街の噂にもなっていないので、ご存じないものとばかり」

「あれだけ荒い気配がすれば、普通、気付きますよ」

 カトリーヌが俺の背後のダンカンに視線を向けた。

俺も振り返った。

ダンカンは首を横にした。

カトリーヌが嬉しそうに言う。

「何時も思うのですが、子爵様は普通とは違いますよね」

「それ褒めてますか」

「褒めてますよ。

羨ましいとも思っています」

「そうですか、いいでしょう。

聞かせてください、顛末を」

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