表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
239/373

(大乱)42

 ようやくアリスとハッピーが木曽から戻って来た。

『ねえダン、この階に魔法使いを住まわせたの』

『プー、子供の魔法使い』

 やはり真っ先にそれに気付いた。

もう少し、抜けてると思っていたのだが、認識を改めよう。

俺は経緯を説明した。

『ほうほう、実家の頼みか』

『ペー、うちの戦力にすれば』

 珍しくハッピーがまともな事を口にした。

『それはしない。

そう実家と約束したから』

『変な所でダンは頑固だものね』

『ポー、ポッポー』

 

 褒められているのか、貶されているのか・・・。

俺は話題を変えた。

『ダンジョンを完成させたにしては、戻りが早くないか』

 木曽ダンジョン。

アリスの小さな顔が歪んだ。

『場所が悪いのよ』

『パー、冒険者が来れない』

 周囲の景観は最高であった。

特に瀑布は畿内では随一ではなかろうか。

畿内の瀑布は一つとして知らないけど、そう断言できた。

でも、冒険者が来れない場所という意見にも賛同できた。

あそこまで足を運んでくれる物好きはそうそういないだろう。

普通の者は途中の魔物を討伐するだけで精一杯。

着いた頃にはヘトヘト。

ダンジョンに挑む気概は残っていない。

『そう気付いたから途中で止めた』

『ピー、アリス頭わるい』

 仲間割れを始めた。

『えー、なんだって』

『アリス頭ある』

 ハッピーは訳の分からぬな物言いをして、アリスと距離を置いた。

『ええ、頭がなんだって』

『プー、頭ある、頭ある』

 頭あるある言っても、決して褒めない。


 部屋の中で騒がれても困る。

俺は窓を開けた。

『ハッピー』

『ペー、ペッペー』

 こういう時は飲み込みが良い。

ハッピーは素早く窓から外に逃げ出した。

それをアリスが追う。

『待ちやがれ』

 その言葉遣い、どこの生まれなんだか・・・。

二人が姿を消したまま、空中で追いかけっこを始めた。

『ハッピー、許さないからね』

『ポー、ポッポー』

 俺は二月の寒空のなか、窓を開けたまま寝る破目になった。

ああ、寒い。


 西の反乱は収まる気配がない。

だが、その空気は国都の街中には波及しない。

西国にのみ留まり、国都の平民にとってはお貴族様の争い。

別世界の争い。

 復興がなった街中は以前の繁栄を取り戻した。

近隣地方との商取引で人々はその分け前に与った。

お零れが路地裏にも流れた。

が、全ての者が与った訳ではない。

乗れなかった者もいた。

それでも、大きな不利益を被った者は少ないので、

不満は口に上らない。


 そんな二月の半ばの頃、深夜、殺伐とした空気が俺を襲った。

思わず飛び起きた。

屋敷内は異常なし。

だとすると、俺はベツドから下りて、窓を少し開けた。

冷たい空気が侵入して来た。

同時に異な気配も侵入して来た。

 街中で何かが起きていた。

外敵ならまず国軍が動く。

王宮なら近衛軍が動く。

しかし、そうだとすると外壁内壁付近が騒然とするはず。

けれど、その気配は全くない。


 俺は探知と鑑定を連携して起動させた。

膨大な情報が流入して来て頭が痛い。

それでも慣れというものは怖いもの。

自然に取捨選択して行く。


 俺はまず真夜中の人の動きを調べた。

ほとんどが夢の中にいた。

起きているのは少数派。

その少数派の中の多数派を、不自然にも奉行所の者達が占めていた。

 彼等は東西南北四か所のスラムに向かっていた。

整然とした動きでスラムを包囲し、それぞれが目的の箇所に殴り込む。

いや、家宅捜査に着手した。

スラムなので家宅ではなく・・・、何だろう、放置家屋捜索。


 奉行所の半数近くが東区画のスラムに当てられていた。

それだけ大物が潜んでいるか、

多数の犯罪者がいると見込んでいるのだろう。

 現場の様子を精査した。

捕り手と犯罪者に分けた。

捕り手は当然、奉行所の者達だが、とある一角には国軍関係者や、

近衛軍関係者がいた。

双方は現場には踏み込まない。

後方で奉行所の動きを見守っていた。


 犯罪者として捕らえられた者達は関東の貴族の関係者であった。

そのうちの多数は武蔵地方の寄親・太田伯爵の家臣。

他は北条伯爵、千葉伯爵、宇都宮伯爵、小笠原伯爵。

目玉は関東代官・上杉侯爵と関東軍司令官・熊谷伯爵ではなかろうか。


 結果を知って俺は自分の情報が活かされたと理解した。

王宮に齎した情報をカトリーヌ明石少佐が引き取った。

それがこんな解決に繋がったのだろう。


 冷たい外気の流入に気付いたのか、アリスとハッピーが目を覚ました。

『何してるの』

『パー、子供は寝てる時間だよ』

 二人とも寝なくて済む種族なのだが、

俺といる時は俺に合わせて寝入る。

なんとも気遣いの二人。

『外で騒ぎが起きているんだ』

 俺は二人に経緯を説明した。

聞いた二人は目を輝かせた。

『調べて来る』

『ピー、ピッピー』

 嬉しいが、懸念があった。

『奉行所には探知とか鑑定のスキル持ちがいるから気付かれる。

侵入は無理じゃないか』

 アリスが胸の前で両手を組み、ふんぞり返った。

『忘れたの、私達もランクアップしたんだよ』

『プー、ランクB、ランクB』

 アリスが得意満面の笑みを浮かべた。

『それに気付かれても余裕で逃げられる』

『ペー、エビスゼロ、エビス一号』

 二人には錬金で造った飛行体を持たせていた。

飛ぶだけでなく、攻撃も出来る機体だ。

魔物・コールビーを模した物で、ちょっと大き目だが、性能は優れていた。

余程の事がない限り、内部にいれば被害を被る事はない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ