(大乱)42
ようやくアリスとハッピーが木曽から戻って来た。
『ねえダン、この階に魔法使いを住まわせたの』
『プー、子供の魔法使い』
やはり真っ先にそれに気付いた。
もう少し、抜けてると思っていたのだが、認識を改めよう。
俺は経緯を説明した。
『ほうほう、実家の頼みか』
『ペー、うちの戦力にすれば』
珍しくハッピーがまともな事を口にした。
『それはしない。
そう実家と約束したから』
『変な所でダンは頑固だものね』
『ポー、ポッポー』
褒められているのか、貶されているのか・・・。
俺は話題を変えた。
『ダンジョンを完成させたにしては、戻りが早くないか』
木曽ダンジョン。
アリスの小さな顔が歪んだ。
『場所が悪いのよ』
『パー、冒険者が来れない』
周囲の景観は最高であった。
特に瀑布は畿内では随一ではなかろうか。
畿内の瀑布は一つとして知らないけど、そう断言できた。
でも、冒険者が来れない場所という意見にも賛同できた。
あそこまで足を運んでくれる物好きはそうそういないだろう。
普通の者は途中の魔物を討伐するだけで精一杯。
着いた頃にはヘトヘト。
ダンジョンに挑む気概は残っていない。
『そう気付いたから途中で止めた』
『ピー、アリス頭わるい』
仲間割れを始めた。
『えー、なんだって』
『アリス頭ある』
ハッピーは訳の分からぬな物言いをして、アリスと距離を置いた。
『ええ、頭がなんだって』
『プー、頭ある、頭ある』
頭あるある言っても、決して褒めない。
部屋の中で騒がれても困る。
俺は窓を開けた。
『ハッピー』
『ペー、ペッペー』
こういう時は飲み込みが良い。
ハッピーは素早く窓から外に逃げ出した。
それをアリスが追う。
『待ちやがれ』
その言葉遣い、どこの生まれなんだか・・・。
二人が姿を消したまま、空中で追いかけっこを始めた。
『ハッピー、許さないからね』
『ポー、ポッポー』
俺は二月の寒空のなか、窓を開けたまま寝る破目になった。
ああ、寒い。
西の反乱は収まる気配がない。
だが、その空気は国都の街中には波及しない。
西国にのみ留まり、国都の平民にとってはお貴族様の争い。
別世界の争い。
復興がなった街中は以前の繁栄を取り戻した。
近隣地方との商取引で人々はその分け前に与った。
お零れが路地裏にも流れた。
が、全ての者が与った訳ではない。
乗れなかった者もいた。
それでも、大きな不利益を被った者は少ないので、
不満は口に上らない。
そんな二月の半ばの頃、深夜、殺伐とした空気が俺を襲った。
思わず飛び起きた。
屋敷内は異常なし。
だとすると、俺はベツドから下りて、窓を少し開けた。
冷たい空気が侵入して来た。
同時に異な気配も侵入して来た。
街中で何かが起きていた。
外敵ならまず国軍が動く。
王宮なら近衛軍が動く。
しかし、そうだとすると外壁内壁付近が騒然とするはず。
けれど、その気配は全くない。
俺は探知と鑑定を連携して起動させた。
膨大な情報が流入して来て頭が痛い。
それでも慣れというものは怖いもの。
自然に取捨選択して行く。
俺はまず真夜中の人の動きを調べた。
ほとんどが夢の中にいた。
起きているのは少数派。
その少数派の中の多数派を、不自然にも奉行所の者達が占めていた。
彼等は東西南北四か所のスラムに向かっていた。
整然とした動きでスラムを包囲し、それぞれが目的の箇所に殴り込む。
いや、家宅捜査に着手した。
スラムなので家宅ではなく・・・、何だろう、放置家屋捜索。
奉行所の半数近くが東区画のスラムに当てられていた。
それだけ大物が潜んでいるか、
多数の犯罪者がいると見込んでいるのだろう。
現場の様子を精査した。
捕り手と犯罪者に分けた。
捕り手は当然、奉行所の者達だが、とある一角には国軍関係者や、
近衛軍関係者がいた。
双方は現場には踏み込まない。
後方で奉行所の動きを見守っていた。
犯罪者として捕らえられた者達は関東の貴族の関係者であった。
そのうちの多数は武蔵地方の寄親・太田伯爵の家臣。
他は北条伯爵、千葉伯爵、宇都宮伯爵、小笠原伯爵。
目玉は関東代官・上杉侯爵と関東軍司令官・熊谷伯爵ではなかろうか。
結果を知って俺は自分の情報が活かされたと理解した。
王宮に齎した情報をカトリーヌ明石少佐が引き取った。
それがこんな解決に繋がったのだろう。
冷たい外気の流入に気付いたのか、アリスとハッピーが目を覚ました。
『何してるの』
『パー、子供は寝てる時間だよ』
二人とも寝なくて済む種族なのだが、
俺といる時は俺に合わせて寝入る。
なんとも気遣いの二人。
『外で騒ぎが起きているんだ』
俺は二人に経緯を説明した。
聞いた二人は目を輝かせた。
『調べて来る』
『ピー、ピッピー』
嬉しいが、懸念があった。
『奉行所には探知とか鑑定のスキル持ちがいるから気付かれる。
侵入は無理じゃないか』
アリスが胸の前で両手を組み、ふんぞり返った。
『忘れたの、私達もランクアップしたんだよ』
『プー、ランクB、ランクB』
アリスが得意満面の笑みを浮かべた。
『それに気付かれても余裕で逃げられる』
『ペー、エビスゼロ、エビス一号』
二人には錬金で造った飛行体を持たせていた。
飛ぶだけでなく、攻撃も出来る機体だ。
魔物・コールビーを模した物で、ちょっと大き目だが、性能は優れていた。
余程の事がない限り、内部にいれば被害を被る事はない。




