(大乱)41
俺の子爵家に下宿人が来た。
実家の村から子供が二人。
ただの子供ではない。
村の神社が預かり、魔法教育をしていた二人だ。
その二人、この度、目出度く魔法が発現した。
国都の魔法学園に入学するので、俺の子爵家で預かる事になった。
本来なら魔法学園の寮に入るのだが、卒業を見越して、
あちこちから勧誘の手が伸びて来ると言うので、
子爵家に下宿避難させる事になった。
二人は村の子供なので、二人の実家としては村に戻ってきて欲しい。
村としても、人材として戻ってきて欲しい。
両者の思惑が一致した。
その結果、俺に押し付けられた。
「しっかり守るように」
断れる訳がない。
国都の子爵邸に通い慣れている村兵が箱馬車で二人を運んで来た。
その二人が馬車から飛び下りて来た。
小柄な男児がエズラ、十一才。
大柄な女児がゼンディヤー、十才。
二人は物珍しそうに辺りを見回した。
エズラ。
「名前、エズラ。
種別、人間。
年齢、十一才。
性別、雄。
住所、足利国尾張地方住人。
職業、魔法学園生徒。
ランク、E。
HP、55。
MP、60。
スキル、水魔法☆」
ゼンディヤー。
「名前、ゼンディヤー。
種別、人間。
年齢、十才。
性別、雌。
住所、足利国尾張地方住人。
職業、魔法学園生徒。
ランク、D。
HP、60。
MP、80。
スキル、火魔法☆」
二人とも神社預かりで教育を施されていたとは言え、
小さな頃からの友達だ。
神社預かりになっても、二人は暇になると遊びに来た。
山に入って鳥を獲り、川で魚を仕掛けに追い込み、焼いて食った。
あの頃の絆は切れていない、と思う。
それでも二人は俺を見つけると、まず貴族相手の挨拶を優先させた。
環境が田舎育ちにしては手慣れていた。
宮司様の教育の賜物だろう。
俺もお貴族様として応じた。
終えたエズラが笑顔で問う。
「ダンタルニャン様、これで良かったですか」
「合格だよ。
学園でもこの調子なら失敗しない」
エズラとゼンディヤーが顔を見合わせて喜ぶ。
二人に部屋を貸し与えた。
当然、一人一部屋。
俺と同じ階だ。
これに二人は恐縮したが、そこは譲れない。
「忘れちゃいけないよ。
二人は村の皆からの預かりものなんだ。
大事にしないと僕が怒られる、そこの所を分かって欲しい。
だから我慢して僕と同じ階に入ってくれないか」
渋々頷いた二人に執事見習いのコリンを紹介した。
「二人にはこのコリンを付ける。
困ったことがあれば、まずコリンに相談してくれ。
大抵の事ならコリンが解決する」
そう紹介するとコリンが苦笑い。
「私が子爵様の名前で解決します。
ダンタルニャン様は子爵位ですが、意外と力があるのですよ。
ですから、大船に乗ったつもりでいて下さい」
傍で聞いていた執事・ダンカンと従者・スチュワートが顔を背けた。
肩が小刻みに震えていた。
どこに受ける要素があったのだろう。
反対側ではメイド長・バーバラも肩を震わせていた。
小隊長・ウィリアムは俺が視線を向けると、何故か目を逸らした。
解せぬ。
二月になり俺は二年生になった。
二年用の隣の校舎に移動させられた。
初日の顔合わせで全員の無事進級を確認した。
担任も持ち上がりでテリー。
そのテリーが話してくれた。
「耳聡い者なら聞いているだろう。
今年度の新入生は反乱等々の影響もあり、貴族の子弟が減った。
代わりに、諸君には喜ばしい事に、平民の合格者が増えた。
・・・。
ただしだ、在校生の方に問題がある。
欠員が多数出た。
このクラス以外だ。
授業によっては進め方に支障が出るので、
二クラス合同の授業ということもある。
このクラスは関係ないが、承知して置いて欲しい」
反乱や政争で少なくない貴族が処分された。
反乱首謀者や加担者は爵位を剥奪され、領地も没収された。
が、実際には何も為されていない。
処分が公表されたのみで、反乱した側が従う訳がない。
王妃軍が力で平定し、実行するしかないのが現実だ。
政争で破れた者は領地が削られ、爵位が降格された。
領地への蟄居を申し渡された者もいた。
こちらは王妃軍の影響の及ぶ地方なので、実際に行われた。
これらの子弟が学校や学園から姿を消した。
自主退学ではない。
先の見通しがつかない為、一時休学届けが提出された。
何れ子弟を復学させる気が満々であった。
反乱だろうが何だろうが、何れ落とし所を探って、
そこに落ち着くと見ているのだろう。
何しろ王宮は伏魔殿。
今は王妃様の影響下にあるが、全ての者がそうであるのかと問われると、
疑問符を付けざるを得ない。
人は外面がどうあれ、内面までは分からない。
面従腹背の者の存在は歴史が証明していた。
俺のクラス委員という立場も継続された。
「クラス委員の経歴があると上の学校に推薦で入れるよ」
そう説得したのだが、誰も替わろうとしない。
他のクラスの貴族子弟との会合を回避しようという思惑が透けて見えた。
説得を諦めた。
諦めて学年の委員会に出席した。
各クラスの代表者の顔触れに大きな変更はない。
一組のパティー毛利。
二組のアシュリー吉良。
九組のボブ三好。
主要どころに変わりはない。
パティーが口火を切った。
「二学年の代表は子爵様にお願いしましょう」
俺かい。
俺は速攻で拒否した。
「僕は未熟なので、ここは前年同様、パティー様にお願いしたいです。
如何ですか、アシュリー様」
パティーのシンパ筆頭だ。
「はい、私もそれが宜しいかと」
俺は他のシンパ諸氏を目で促した。
全員を墜とせた。
「私も」「僕も」と俺とアシュリーを加えると六名になった。




