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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
234/373

(大乱)37

 王宮から招待状が届けられた。

勿論、俺宛て。

王女・イヴ様からの私的な招待なので、扱いは非公式になる。

その招待状を持参したのはシェリル京極。

「確かに渡したわよ」

「日時が指定されてないけど」

「貴方が空いた時間で良いそうよ。

イヴ様はニャン様に優しいから」

 イヴ様は俺をニャンと呼ぶ。

ダンタルニャンだから、愛称はダンだと思うのだが・・・。

「未だに猫扱いか」

「嫌なの」

「まあ、シェリルに言っても仕方ないか。

・・・。

日時の指定がないのに、門衛が、はいそうですかと通してくれるかな」

「南門には通達してあるそうよ。

王妃様からだから問題ないと思うわ。

でも心配なら先触れを出すと良いわね」

 伴侶を失ったから元王妃様のベティ様。

それでも権力だけは絶大だ。

亡き国王の側近衆や評定衆の支持があるので、

今もって王妃様と呼ばれていた。


 俺は三日後、屋敷から内郭南門に先触れを出し、王宮を訪れた。

当然ながら非公式なので、馬車で門内には入れない。

従者・スチュワートを連れ、徒歩で門を潜った。

すると門衛の検査ではなく、案内人が待っていた。

 女性将校のカトリーヌ明石大尉・・・。

何時の間にか肩章が少佐になっていた。

その彼女が俺の方へ悠然と歩み寄って来た。

「お待ちしてたわ」

「有難うございます。

それより、昇進したんですね。

おめでとう御座います」

「ありがとう。

さあ、行くわよ」

 案内しようとする方向はイヴ様の住まう後宮ではなかった。

「どちらへ」

「イヴ様の前に王妃様に会って頂くわ」

「でもどうして」

「色々とね・・・」


 王妃様とあれば逆らえない。

素直に従った。

連れて行かれたのは王宮本館方向。

 道々、周囲を見回して、我が目を疑った。

ワイバーン襲来と反乱のせいで、王宮区画の多くの建物が壊された。

特に中心部の建物群が一番被害を受けた。

なのに、それが、修復や建て替えが思いのほか早く進んでいた。

真新しい正面玄関や側壁がそれを物語っていた。

この短期間で・・・、これが足利家の底力なのか。

 カトリーヌ少佐が俺に笑いかけた。

「ふっふっふ、驚いて貰えて嬉しいわ」

「そりゃあそうでしょう。

あれは地獄絵図でしたからね」

「確かに地獄絵図だったわね。

でも今はこれよ。

あれを見てご覧なさい」

 指し示された解体現場で大きな図体の奴が立ち働いていた。

高さは三メートルほど。

どう見てもコーレムだ。

「もしかしてレオン織田伯爵のゴーレム・・・」


 ゴーレムが十体近く見えた。

現場の中心に小男がいた。

あれは織田伯爵家の執事のサイラス羽柴。

俺の視線にカトリーヌが気付いた。

「サイラス殿をご存知か」

「一度見ました」

「それで覚えていると・・・、何か含むところでも・・・」

「いいえ、多少気にかかるだけです」

「それは分かります。

愛嬌はあるのですが、目は笑っていない・・・、ですよね。

油断ならぬ奴です。

まあ今回はいいでしょう。

・・・。

あの男が伯爵家のゴーレム使いや風や土魔法使いを指揮して、

瓦礫撤去から資材の搬入搬出をしているのです。

今や、この現場に欠かせない男です」


 普通に鑑定すると露見する恐れがあるので、

俺は足の裏から地に魔力を走らせた。

それに誰かが気付いた様子はない。

安心してサイラスのいる現場を漏れなく鑑定した。

 ゴーレム使いは、正しくは土魔法使いでもあった。

それが十八名。

十名がゴーレムを動かして作業していた。

残り八名と風魔法使い十二名が他の作業に従事していた。

この現場の魔法使いに興味はない。

ランクは低く、スキルにも目新しい物はない。

 俺はゴーレムに興味があった。

こんな面白そうな物はない。

幸い俺のスキルには土魔法だけでなく、錬金魔法もある。

これより強力な物が造れる筈だ。

学習の為に鑑定した。

 土のゴーレムが六体、岩のゴーレムが四体。

無造作な造りではない。

人体を理解した造りになっていて、関節部に特に力が入れられていた。

腰を据えて観察したいが、隣にカトリーヌがいた。

急いでコピーした。


 カトリーヌが修復なった王宮本館そのものに案内した。

「ここは近衛軍の魔法使い達が奮闘しました。

お陰で解体せずに済みました」

「魔力切れを起こして大変だったんじゃないですか」

「そうですが、歴史ある本館を解体する訳には行きません。

近衛軍が意地になって修復しました」

「かなりのポーションを消費しましたね」

「お金には替えられませんからね」

 カトリーヌの目が何故か笑っていた。

俺は突っ込んだ。

「本音は」

「解体するとなると、書類等の引っ越しが大変なんですよ。

そして、一時引っ越したは良いが、完成したらまた元の戻す。

それを誰がやるの。

大事な書類もあるから文官には任せられないでしょう。

そうなると近衛軍、そうでしょう」

 王宮本館の書類等になると、歴史があるだけに相当な分量になる。

日常業務の書類から、果ては歴史的な機密書類まで。

これを機に整理整頓を行おうとする意見も出る筈だ。

それを見越して近衛軍は修復に拘ったのだろう。


 カトリーヌの顔パスで中に入った。

一階奥へ案内された。

食堂とは、少し違う。

喫茶店か・・・。

それにしては大きい、広い。

中央に噴水があり、その上が吹き抜けになっていた。

「ここは・・・」

「ただの憩いの広場よ」

「噴水が必要なの」

「たぶん・・・。

ここで待っててね」

 噴水が盛大に水を吹き上げていた。

あっ、温水だ。

誰の発案なんだろう。

たぶん、それだけの権力者。

趣味が突き抜けていた。

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