(大乱)36
俺達は美濃の国境を越え、近江地方に入った。
ここからは寄親寄子の縛りがない。
自由に動けた。
まずは空気を読ませた。
大きな話題は西の反乱と東の反乱。
それが如何なる噂になっているのか、コリンとスチュワートに調べさせた。
馬車を下りるのが面倒臭いので二人に丸投げしたのだが、
明らかな丸投げにも関わらず二人は嬉々として従った。
貴族の家人風の衣服から冒険者風衣服に着替え、
街道沿いの村々に立ち寄り、手土産と共に噂を収集して来た。
俺はその様子に頭が下がった。
こんな子爵でゴメンナサイ。
お陰で色々と分かった。
西部戦線は敗戦濃厚。
王国軍が反乱軍に押し返され、脱走者が大量に出ていると言う。
関東の一件は噂にもなっていない。
誰かが蓋をしているのか、軽く見ているのか、そこは分からないが、
何かが水面下で進行しているのは確か。
街道を行き交う者達が増えて来た。
旅人や行商人の顔色は明るい。
西や東の世情はどうあれ、畿内の人々には何の支障もないらしい。
まあ、確かにそうだ。
西の反乱がこの辺りまで広がるとは思えない。
それに物価が著しく高止まりするまでは誰もが無関心に務めるだろう。
なにせ反乱は貴族の争い。
平民にとっては別世界の争い。
関与する立場にないのだ。
国都を出入りする者達にも異常は見られない。
いつもの光景が繰り広げられていた。
「列を乱すな」
「お前こそ、酔ってるのか」
「おい、そこの奴、割り込むな」
「臭いな、お前はゴブリンか」
「はっはっは、ゴブリン発見しました。
門衛殿、討伐しましょうか」
「オーガは黙ってろ」
「荷物が邪魔だ」
「文句は荷物に言ってくれ」
「お前の荷物は喋れるのか」
じゃれ合いながら、行列が進む。
それを横目に俺達一行は門前に辿り着いた。
入門審査。
そこは貴族の特権、
先触れで到着を届け、別枠で審査を受ける。
手順さえ間違えなければ、何事もスムーズに、スマートに行く。
そういうものなんだが、何時の間にか俺は門衛達の間で知られていた。
「お顔をお見せ下さい」
門衛の指示で馬車の窓から顔を出した。
俺を見て頷く門衛。
顔パス。
たぶん、顔パスは冒険者パーティ『プリン・プリン』のお陰だ。
うちのパーティは大人組の四人と俺、シェリルが貴族。
平民は女児三人組、実に特異な編成。
貴族の数もだが、特に俺一人が男児。
色々な意味で目立つ、目立つ。
門を出入りする度に目立つ。
これが顔パスに繋がったと思う。
屋敷に戻った俺は書類の山に驚かされた。
執事のダンカンによると彼によって裁可済みなんだそうだ。
「目を通しておいて下さい。
通している、通していないでは違いますから」
そんな訳で早速目を通した。
大半は屋敷の予算執行の概要だ。
大きな屋敷だとは認識していたが、こんなに金を喰らうとは。
顔色に出ていたのだろう。
ダンカンに諭された。
「経費がかかりますが、そこは貴族の責務の一つとして諦めて下さい。
・・・。
お金を屋敷の蔵に積み上げるのは、ただの守銭奴。
考えなしに支出するのは、ただの馬鹿。
大切なのはお金を活かすことです。
・・・。
当家は屋敷の修繕や改装で市中にお金を回す、そう考えて下さい」
木曽のカールから御礼の手紙が来た。
イライザに渡した指輪の礼状だ。
【自動サイズ調整】【自動修復】【魔力自動供給】【所有者登録】。
この四っの術式を施した指輪を使用した感想が綴られていた。
「名前、カール。
種別、人間。
年齢、三十才。
性別、雄。
住所、足利国美濃地方住人。
職業、冒険者、木曽代官。
伴侶、イライザ。
ランク、C。
HP、125。
MP、45。
スキル、剣士☆☆、水の魔法☆」
カールによるとMPが半分になった辺りから【魔力自動供給】が始動。
瞬く間にMPを回復させた。
それも一度や二度ではない。
一日中起動していたそうだ。
「水魔法の威力自体も上がった」と絶賛された。
にしてもステータスは正直。
イライザを伴侶認識していた。
チョンボについても書かれていた。
字が書けないチョンボの代理のカール。
それによると、チョンボもMP切れを起こす事なく、
低空なら飛び続けたそうだ。
そして最後にイライザ。
後回しになった理由が分かった。
指導者が良かったのか、当人に才能があったのか、
驚いた事に二つもマスターしていた。
「名前、イライザ。
種別、獣人。
年齢、十五才。
性別、雌。
住所、足利国美濃地方木曽住人。
職業、佐藤子爵家の家臣。
伴侶、カール。
ランク、D。
HP、95。
MP、75。
スキル、テイマー☆、身体強化☆、土の魔法☆。
テイム、チョンボ」
それにしてもイライザ、恐るべし。
カールを念願通り手に入れた。
予定外のチョンボも手に入れた。
そして身体強化と土の魔法。
これ以上、何を手にするのだろう。




