(大乱)35
俺達は見送りのイライザと別れた。
このまま街道を進めば国都に至る。
迷うことはない。
道々の土産物を見繕いながら、旅の終盤を楽しんだ。
あっ、魔物を捉えた。
探知と鑑定の連携でゴブリンの群れ十八匹と分かった。
こちらに急いでいた。
美味しい獲物と判断したのだろう。
箱馬車三輌と警護十騎。
先頭は騎馬五騎。
一輌目は俺とコリン、スチュアートの三名。
二輌目は俺付メイドのドリスとジューン。
三輌目には国都の皆への土産物。
そして後尾に騎馬五騎兵。
純粋な戦力は騎馬十騎。
俺は馬車を止めさせた。
「ゴブリン十八匹が接近中。
馬車を盾にして迎え撃つ」
他にも行き交う者達がいた。
旅人や土地の農民達だ。
俺は彼等を集めた。
「馬車の陰に隠れていろ。
俺達がゴブリンを討伐する」
俺はコリンとスチュワートにメイド二人の護衛を指示すると、
風魔法で馬車の屋根に飛び乗った。
肩掛けバック経由で虚空から武器を取り出した。
通常のM字型の複合弓だ。
矢筒は出さない。
直に虚空から補充する事にした。
ゴブリンの群れが雑木林から飛び出して来た。
不幸な未来には思い至らないらしい。
能天気なものだ。
歯茎を露わにして、躊躇なく攻撃して来た。
俺は矢に風魔法を纏わせた。
先頭の三匹に三連射。
続けて三連射。
何れも狙い通り喉を射貫いた。
騎馬十騎に指示した。
「相手は低い。
馬から下りて二人一組で刈り取れ。
馬車は私が責任を持って守る。
安心してそれ行け」
十騎が下馬した。
二人一組になり、槍を担いでゴブリンの群れに向かった。
対するゴブリンの群れは危機感が欠乏しているのか、
逃げる気配すら見せずに応戦した。
こうなると連携に優れた兵士の敵ではない。
次々屠られて行く。
最後の三匹が逃れようと足掻く。
それを許す兵士達ではない。
俺は新たな魔物を見つけた。
雑木林の奥にヒヒラカーン二頭がいた。
こちらの様子を窺っているが、襲って来る素振りはない。
ジッと身を潜めていた。
こいつはブレスを吐くので手強い。
誰にも知らせず、見守る事にした。
黙って去ってくれれば儲けもの。
暫くすると願い通り立ち去ってくれた。
討伐を終えた魔物を農民達が解体していた。
ついでに穴を掘り、投げ込む。
枯草や枯れ枝を被せ、着火した。
ゴブリンの遺体を喰いに魔物が寄って来るかもしれない。
あるいは捨ておくとゾンビ等になる懸念もある。
そういう訳でこういう処置をするしかない。
一人の農民が俺に寄って来た。
「討伐証明の耳や魔卵は私達が貰っても宜しいのですか」
「構わない。
穴掘りと火付けの礼だ」
「お有難うございます」
ついでなので俺は質問した。
「街道筋周辺の魔物の間引きや、盗賊追討は領兵の仕事だと思うが、
機能していないのか。
現に近くに何頭かの魔物がいる。
賢いようで襲ってはこない」
農民が不安気に辺りを見回した。
「本当ですかい」
「ああ、ヒヒラカーン三頭が引き返した。
他は安心するが良い、小物だ」
領兵は斎藤伯爵家の兵ではない。
地方に領地に持つ寄子が資金を出し合って、
立ち上げた治安維持部隊だ。
その仕事は多岐に渡る。
でも主要なのは魔物の間引きと、盗賊の追討。
農民が顔を強張らせた。
言葉を選ぶ。
「昔に比べると巡回が減っているように見受けられます」
「そうか、それでも誰か声を上げる者がいるだろう。
例えば古顔の子爵男爵様とか」
農民は声を潜めた。
「肝心の伯爵様は国都におられる事が多いのです。
なんでも舞踏会でお忙しいそうです」
「代わりの執事は」
農民の目色に怒りが現れた。
「その執事様は魔物の間引きを冒険者ギルドに依頼しております。
ところが、領兵の巡回と比べると、回数が減っておりまして・・・」
領兵を出動させずに冒険者に依頼する・・・。
臭い・・・。
もしかして冒険者ギルドそのものから、
あるいは依頼を受けた冒険者からキックバックを得ているのか。
十分に有り得る。
役目ではないので、ここで質問を打ち切った。
農民に言い聞かせた。
「今の話は他には内緒だ」
農民も分かっているのか深く頷いた。
コリンとスチュワートが俺の傍に来た。
「聞いていました。
これは拙い事態ですね」心配顔のコリン。
「ああ、かと言って訴え出るのは、うちが寄親に喧嘩を売るようなもの。
これだけは避けたい。
で、二人はどうしたい」
色々と話し合い、最後にコリンが纏めた
「木曽に実害が出てからでは遅いので、早速手を打ちましょう。
一番良いのは出所不明の噂を流して、
先代の伯爵様の耳に入るようにすることですね。
・・・。
領兵の巡回を減らした怠慢と、キックバックの噂。
これに尾ひれを付けて流しましょう」
俺はもう一つの疑問を口にした。
「ところで、伯爵が隠居させられた場合、
次の伯爵には誰が繰り上がるのかな」
スチュワートが応じた。
「前伯爵は子沢山です。
誰が繰り上がるのか、予想が付きません」




