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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
230/373

(大乱)33

 俺は寝過ごした。

メイドのドリスとジューンに叩き起こされた。

「何時まで寝てるのですか。

早く起きて下さい、子爵様」ドリスが掛布団を剥いだ。

「眠いよ、眠いよ、もう少しだけ」

「駄目です。

早く起きて朝食を食べて下さい。

でないと片付けが終わらないでしょう」ジューンが俺を引き起こす。

 二人がテキパキと俺を無視して着替えさせた。

お子様子爵様の出来上がり。

「さあさあ、お食事に行ってらっしゃいませ」

 部屋から送り出された。


 廊下でスチュワートが待っていた。

そう言えば彼が俺の従者だった。

「子爵様、おはようございます」

「おはよう。

昨日の疲れはどう、抜けた」

「一晩で抜けました」

 若いって素晴らしい。

俺はもっと若いけど、寝不足だ。

眷属二人に散々扱き使われた。

あれしろ、これしろ、注文が多過ぎた。

その二人は暫くはダンジョンに籠ると言う。


 当主家族用の食堂は寂しい。

何しろ家族がいない。

俺一人、ポツンと思っていたら違った。

先客がいた。

カールとイライザだ。

俺を気遣ってくれたらしい。

二人が席を立って俺を迎えてくれた。

「おはよう。

二人を待たせたみたいだね」

 イライザが嬉しそうに言う。

「気にしないで。

家族ができるまで付き合ってあげます、子爵様」

 カールが俺を繁々と見た。

「昨日は疲れましたか」

「疲れたようには思わなかったけど、結局、寝過ごしたちゃった。

たぶん、育ち盛りだからかな」


 スチュワートが上座の椅子を引いてくれた。

俺はそれに腰を下ろした。

すると待ち構えていたのか、メイド達が次々に料理を運んで来た。

三人のモーニングにしては量が多い。

領都屋敷の料理長が張り切っているのが分かった。

メイドに笑みを返した。

「凄く美味しそうだね」

 カールがナイフとフォークを構えて言う。

「味は保障します。

ハミルトンの推薦ですからね」

 国都屋敷の料理長・ハミルトンの推薦なら間違いはない。


 食事が終わると執務室へ連行された。

カールとイライザが俺を逃さぬように左右を固めていた。

これでは逃げるのは不可能。

「逃げるつもりはないんだけどね、カール」

「信じてはいますよ」

 カールが代官なので安心して任せられる。

このまま委ね続ければ、俺は楽ができる。

その思惑を見抜いているのか、カールは俺に書類を一つ一つ見せて、

丁寧に説明した。

これが何であるのか、如何なる意味合いの物であるのか、

裁可するとどう動くのか、却下するとどうなるのか、

差し戻しした場合はどうか、等々事細かく教えてくれた。


 ある程度のところで俺は解放された。

カールが優しく言う。

「これ以上詰め込むと、子爵様の頭が爆発しそうですから、

今日はここまでにしましょう」

 俺は執務室の本棚を調べた。

目的の地図を見つけた。

二つあった。

一つは近年、冒険者が手書きした大樹海の地図。

もう一つは冒険者ギルド発行の、古い木曽の地図。

 俺は二つを長テーブルに広げて比べてみた。

一つ目が冒険者目線であるのに対し、二つ目は為政者目線の物。

たぶん、二つ目は木曽の貴族だった者の依頼によって、

ギルドが全力で仕上げた地図だろう。

魔物の縄張りから植生までが丁寧に書き込まれていた。


 件の瀑布も記されていた。

木曽の大滝。

安直な名付けに呆れた。

そこへ至る道もあるにはある。

だが整備されてはいない。

ただ単に、川沿いを進むだけ。

 二つの地図によると、

その周辺は滝も含めてヘルハウンドの縄張りになっていた。

爆発的に数を増やして魔物の大移動の原因となる種だ。

厄介な奴等の縄張りに滝があり、

これまた厄介なアリスが滝にダンジョンを得た。

なんてこったい。

これは天の配剤か。

アリスとハッピーが奴等を間引くことを祈ろう。


 そんな俺の葛藤に気付いたのか、カールが傍に寄って来た。

「何か気になるものでも見つけましたか」

 俺は地図を指し示した。

「この滝、木曽の大滝、これが観光資源になれば、そう思ってたんだよ。

でも駄目だね、ヘルハウンドの縄張りではね、実に残念」

「ああ、あそこでしたか。

たしかに残念です。

あんな見事な滝は二つとないでしょう。

それが売り物にならないから、痛いですね」

「冒険者のランクからすると、どのランクなら入れると思う」

「最低でもCのバーティですね」

「そうだ、途中の何カ所かに魔道具【魔物忌避】の柱を設置して、

休憩所にしたらどうだろう」

 カールの表情が暗くなった。

「そうしたいのですが、あれは無駄です。

特に汎用品では効果が薄く、大樹海には向きません」

「汎用品・・・」

「市中に出回っているのは錬金術師の手になる物ではなく、

職人の手による物です。

施される術式も職人用の物です。

ランクの低い魔物が出没する地域なら効果が望めますが、

大樹海の様な所には向きません。

匠と呼ばれる職人ならまだしも、ただの職人の物では、無駄です」

「そうなると・・・」

 カールが人差し指を立てた。

「もう一つ問題が。

効果のある【魔物忌避】を街道に設置されますと、

大軍の通行が可能になります。

そうなった際、大樹海の魔物がどう動くのか見当がつきません」


 そうなのだ。

大軍通行の問題が噴出する。

それが魔物にどう影響するのか。

試してみて、大きな被害が出ました、では済まされない。

人的被害、物的被害への補償が科される。

そうなると当家は終わる。

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