(大乱)30
カールがセリナ一行に帯同して町へ帰って行った。
残った俺達は血抜きを地味に継続した。
パルスザウルスが大きいだけに、なかなか抜けきらないのだ。
暫くすると町からバックアップチームが戻って来た。
気が利いていた。
荷馬車十輌と共に支援要員、二十数名を連れていた。
これなら解体作業も手早く済ませられるだろう。
ここでは階級も地位も関係ない。
偉いのは解体経験者。
皆がそれの指示の下、テキパキ働いた。
「そこは筋に沿って刃を立てる」
「それは屑部位、捨てよう」
「その内臓は慎重に、慎重に。
ポーションの材料として高く売れる。
お前の給料より高いからな」
コリンとスチュワートにも容赦ない叱咤が飛ぶ。
「それじゃ刃が折れるぞ。
小手先の力じゃなく、身体全体で押し切るんだ。
そうだ、そうだ、そうやるんだ」
「顔に付いた血が付いてるぞ。
血に毒性があるかも知れん。
勿体ないがポーションで洗い流せ。
ボーション代は個人持ちな」
俺の仕事は探知。
誰にもスキルは打ち明けてないが、いつしかそうなっていた。
暗黙の了解というやつだろう。
その探知に魔物が引っ掛かった。
それも多数。
けれど、こちらの人数に恐れをなしたのか、
パルスザウルスの臭いか、何れも迂回して離れて行く。
絶対に臭いだな、絶対に。
俺も離れたい。
騒々しさが戻って来た。
イライザとチョンボのコンビだ。
「もっと静かに止まれないの」
「グエグエッ」
「なに言ってんの、ちゃんと喋りなさいよ」
「グエッティー、グエッティー」羽根を小さくバタバタした。
イライザは口と鼻を布で覆っているが、チョンボはなし。
それを抗議したらしい。
イライザは真新しい布でチョンボの鼻部分を覆ってやった。
俺はコンビに歩み寄った。
「念話はどうした、通じてないみたいだけど」
「念話でも話せるけど、口でも話してるのよ。
こいつが喧しくてさー、念話だけでは足りないのよ」
「分かった。
カールは馬車の御一行様の世話があるから先に戻らせた。
イライザは副官だから、戻ってカールの手伝いをしてくれ。
その前に冒険者ギルドでチョンボを登録を済ませること、いいね」
「了解」
イライザが飛び乗った。
言葉は交わさないが、チョンボが町へ向かって駆け出した。
どうやら御しているようだ、一安心、一安心。
でも念の為、チョンボを鑑定した。
「名前、チョンボ。
種別、魔物・ダッチョウ。
年齢、8才。
性別、雌。
住所、足利国美濃地方木曽。
職業、イライザの従魔。
ランク、C。
HP、125。
MP、45。
スキル、風魔法☆」
テイムされた事により風魔法が生えたのだろう。
そのMPで飛べるかどうか。
解体の方も問題なく終えた。
各荷馬車に積載した魔道具【冷凍機】が利いているのか、
臭いが減少しているように感じられた。
氷魔法の遣い手がいれば何の問題もないのだが、
いない現状、魔道具に頼るしかない。
町で半分を冒険者ギルドに売却した。
なかなか討伐されない魔物の部位である事と、
肉質の良さで高価で買い取ってくれた。
買い取り窓口に顔を出したギルドマスターが俺に言う。
「子爵様、これが定期的に討伐できれば、ギルドも領地も潤います」
「そんなにか・・・」
「ええ、こいつは討伐し難いのですよ。
強いということもありますが、それよりも棲み処が奥地なので、
解体するのも命懸けなんですよ」
「それは分かった、が、月一は無理だと思うな。
奥地から誘い出す方法を考えついてからだな」
俺の頭の片隅に、もしかしてチョンボなら・・・と浮かんだ。
確かな訳じゃない。
チョンボの性格からして、偶々としか考えられない。
だけど検討には値する。
チョンボの餌代を考慮すると・・・、そうなる。
自分の餌は自分で稼いで貰おう。
チョンボで正解だとしたら次は討伐するチームの人選だ。
俺が滞在していれば俺で事足りるが、いない場合は・・・。
それなりのランクの者を呼び寄せねばならぬ。
これも検討課題だな。
残った肉は屋敷の氷室に収納した。
ここでは魔道具【氷製造機】が活躍していた。
天井に設置された物が定期的に氷を製造し、全体を冷やすのだそうだ。
恐るべし異世界技術。
このまま進歩すれば宇宙へも行ける可能性が高い。
あっ、転移でも行けるのか・・・もしかして。
自分の身体で試すのは御免なさいだけど、
いつの日か、誰かの身体で試す日が来るのかもしれない。
前世では、死罪で裁かれた罪人で腑分けが行われ、医療に貢献した。
現世でも、俺が知らぬだけで、
それに近い行為が行われていないとも限らない。
いや、たぶん行われている。
それが人間だから・・・。
収納を済ませると浴室に直行した。
「臭いますわね」とメイドのドリスとジューン。
一度では納得しないのか、二度三度と身体を丸洗いされた。
手荒ではないが、精神がガリガリ削られていく。
この生活がいつまで続くのだろう。
ドリスに背中をバンと叩かれた。
「これで合格です」
身体を拭かれたが、直ぐには着させて貰えない。
「寒いよ、風邪ひくよ」
「我慢なさい、子爵様でしょう。
子爵様には子爵様に相応しい恰好というものがあるのです。
決めるまでジッと待ってなさい」
メイド二人は俺を放置して衣服選びを始めた。
「今夜はお客様がお泊りなので、それに相応しい物にしましょうよ」
「そうね、これなんかは」
「いいわね、これを合わせて見ましょうか」
「子爵様が女の子だったら、もっと着飾れるのにね」
「ほんとね」




