(大乱)27
奴が口を開けないのならM字型の複合弓の出番はない。
この弓矢では厚い皮には通じない。
【ツインの複合弓】と取り替える暇もない。
俺は意を決した。
弓を肩掛けバッグ経由で虚空に収納し、そして一か八か。
身体強化のまま、強引にダッチョウに飛び乗った。
慌てて振り落そうとするダッチョウ。
そんなことは許さない俺。
必死の攻防。
長く太い首にしがみ付いた俺の勝ち。
「グワッチョー」
乗ったはいいが、タクシーじゃない。
行き先を告げても、行くとは限らないし、安全も保障されていない。
かと言って、今さら降りられない。
そこでものは試し。
ダッチョウは乗り物、ダッチョウは乗り物、ダッチョウは乗り物、
背中はコクピット、背中はコクピット、背中はコクピット、
首は操縦桿、首は操縦桿、首は操縦桿、そう念じて、念じた。
ダッチョウの温かさが感じられ取れた。
どうやら、通じたのか・・・。
首を右へ倒して念じた、右に曲がれ、右に曲がれ。
ダッチョウも右へ曲がった。
首を少し前に倒して念じた、速度を上げろ、速度を上げろ。
ダッチョウの速度が上がった。
嫌がる気配もちょっとはするが、まあ、いいか。
強引に操縦した。
俺はカールに片手を振って余裕を見せた。
ダッチョウを街道へ戻し、大樹海に逃げ込む。
パルスザウルスが執拗に追って来た。
まだ怒りが収まらない様子。
本当に何をしたんだ、ダッチョウ~っ。
速度はダッチョウが上。
パルスザウルスとの距離を広げて行く。
少し走らせると前方に人間の塊を見つけた。
馬車と警護の騎馬数騎。
先頭の騎兵が慌てて、一行の足を止めた。
その気持ちは分かる。
これでは彼等を巻き込んでしまう。
俺はダッチョウの首を後ろに思い切り引いた。
止まれ、止まれ。
止まった。
俺は飛び降りてパルスザウルスを振り返った。
間に合う距離。
俺はここでも人目を気にした。
肩掛けバッグ経由で虚空から【ツインの複合弓】を取り出した。
世界樹で造られた魔法杖を土台にした逸品だ。
魔法杖には魔水晶が付いていたが、この際と、魔卵も付け加えた。
付与した術式は魔水晶には速さの光魔法。
魔卵には力技の重力魔法。
周辺の魔素を取り込み、魔力に変換する機能も併せた。
弦は蜘蛛の糸と蓑虫の糸を練り合わせた物。
矢は鉄矢。
轟音を響かせて奴が迫って来た。
力技で俺達を弾き飛ばす気が満々ムンムン。
怖い、怖い、怖いよ~、鼻息がかかりそう。
鉄矢は三本。
狙いは奴の両目。
外皮が厚くても、そこは柔らかいだろう。
異世界の生物学的には、どうかは知らんけど、
一般常識としては柔らかい筈だ。
集中。
ロックオン、ホーミング。
射た、
右目に一射。
左目に一射。
三本目は番えたまま、待機。
有り得ぬ速さで飛び、有り得ぬ力で突き刺さった。
一射目が右目に。
二射目が左目に、深々と突き刺さった。
奴が悲鳴らしき叫声を上げ、前のめりに倒れ転がった。
俺は【ツインの複合弓】と余った矢を収納し、
替えて虚空の肥しにになっていた逸品を取り出した。
ダマスカス鋼にオリハルコンとミスリルを併せた合金の槍。
ダンジョンスライムが宝箱用に作り置いた奴だ。
身体強化を最大にした。
それでもって駆けた。
パルスザウルスは七転八倒。
街道脇の樹木をも押し倒し、激しく藻掻き苦しみ、悲鳴を上げていた。
原因はダッチョウなんだろうけど、ごめんよ。
直ぐに苦しみから解放してあげるよ。
鑑定で奴の急所を探した。
見つけた。
まず顎の下の窪み。
続けて背骨の一角。
手応え十分。
双方が壊れるのが分かった。
奴が断末魔・・・と言うのだろうか。
嫌な悲鳴を上げて全身を身震いさせた。
鮮血が飛び、尿が飛び散り、糞が・・・。
最後の抵抗とばかりに四肢と尾を激しく動かす。
そして、止む。
スイッチが切れたかのよう。
身動き一つしない。
鑑定でも死亡と確認した。
が、近付きたくない。
糞尿の臭いが、きつい。
涙が出そう。
俺は槍を収納し、長い布を取り出した。
鼻と口を覆った。
目は・・・、無理。
それでも少しは楽になった。
と、ダッチョウの奴、
平気でパルスザウルスの側に、トットットと早足で寄って行く。
糞尿の影響を受けぬ体質なのだろうか。
側に寄ると、まず嘴で尾を突っついた。
抵抗しないと見るや、次に足を、腹を、胸を、そして最後に顔。
顔に片足を乗せ、羽根を大きく広げ、甲高く鳴いた。
「グッチョー、グッチョー」
呆れた奴だ。
逃げ回っていた時とは態度が違う。
臆病の塊だったような奴が、ここまで態度を一変させるなんて。
すまん、パルスザウルスよ。
俺は記憶をまさぐった。
パルスザウルスの怒号。
たしか、あれは・・・、難しい重低音。
臭いし、目に滲みるが、パルスザウルスの為に口元の布を取り外した。
怒号を思いっきり真似てみた。
「ブッフォーーーン」喉が痛い。
途端、ダッチョウがこけた。




