(大乱)24
思っていた以上に屋敷は広かった。
カールが笑って言う。
「子爵様ですから夫人三名、子供十名を想定しています」
どんな基準だっ。
でも相変わらずで嬉しい。
「僕の前にカールだよね」
するとカールは微妙な顔をした。
そこで俺はカールの補佐のイライザを見た。
得意満面の女の顔で見返された。
どうやらイライザが強引に押し倒したのか。
たぶん、押し倒したな。
それ以上は突っ込まないことにした。
「僕の予定は」
代官だから組んでいる筈だ。
詳しく説明された。
子爵様の初のお国入りということで、五日間拘束された。
領内全域の案内と、主要な領民や業者との面談、近隣の貴族様訪問、
そして最大のものは俺主催の披露パーティ。
もう一つ、領都の名付け。
俺が疲労している間に我が眷属は遊びを満喫していた。
『ねえダン、ここから見える月は綺麗ね。
宝石のように青く輝いているわ』
『プー、青い青い』
『それは良かった、喜んでくれて』
『それはそうと、この領地の魔物、国都とは少し毛色が違うわね』
『ペー、面白いよ』
『強いということかい』
木曽大樹海の最大の特徴はヘルハウンドだ。
何故か湧くように増える。
増え過ぎると大樹海から出て大移動を開始する。
それが半年ほど前に起きて木曽一帯を地獄に落とし、
勢いに任せて美濃地方の領都へ押し寄せた。
その大騒動を知らぬ者はいないだろう。
『強さとはちょっと違うわね。
個性的かな、そう個性よね。
手足の長さや太さ、牙、それらが違うのよね』
『ポー、飛べない鳥いる』
『飛べなくても鳥と言うのかい』
『あれは立派な羽根があったわ。
でもポーンと跳び上がるけど、それだけ。
風に乗れないみたい』
『パー、飛べない』
鶏の仲間かな。
拘束の五日間が過ぎた。
領都の名前は、『ブルンムーン』と名付けた。
さっそく大樹海だ。
兵士に守られて行くのじゃなく、冒険者パーティ風を望んだ。
皆が苦言を呈して反対したが、カールが俺の味方をしてくれた。
「私は小さな頃から子爵様を見守って来た。
今も小さいけど。
・・・。
こんな子供にしか見えないが、本気になれば私より強い。
それは実家のお父様もご存知だ。
だから冒険者になる事を了承された。
ここは一つ、私を信じてくれないか」
俺達は皆に心配そうに見送られた。
気持ちは分かるが、信用ないな。
前衛は俺とイライザ。
中衛にコリンとスチュワート。
後衛にカールと中隊長・アドルフ。
中衛以外は計算が立てられる面子だ。
これで十分じゃないか。
それでも心配と言う皆に配慮して、バックアップチームが組まれた。
当家の二個中隊から選抜した六名が護衛に就いた。
こちらが救助を望むまで手を出さないという条件で受け入れた。
木曽大樹海まで迷う者はいない。
中山道を東に進むだけ。
中山道が大樹海の中を切り開いたものか、
逆に大樹海が中山道を覆ったのか、
その真相は今もって判明していない。
たぶんだが、昔からの獣道を広げただけという説が正しい気もするが、
それは領主としては黙っておこう。
大切なのはロマンなのだ。
もっと色々な何故や、謎を提供するのが領主の仕事だと思う。
俺は手前から探知を起動した。
大樹海の外にも魔物はいた。
丈の高い草地の中とか、藪の陰から俺達を見ていた。
見ているだけで、むやみやたらに襲って来ない。
もしやと思い、鑑定してみた。
連中は鑑定も探知も持っていない。
だとすると、野生の勘だけで行動している事になる。
国都郊外の魔物は遭遇するや襲って来た。
それに比べて、ここの魔物は慎重、いや、計算高いのか。
それが連携にまで及ぶとしたら要注意だな。
ヘルハウンドが三頭。
バイアが五匹。
モモンキーが二匹。
それぞれの居場所は違うが、ジワジワ寄せて来る。
互いに反目する間柄だが、人間相手だと共闘するのか。




