(大乱)17
幼年学校が再開された。
浮かれたらっ、らったた、らったた。
学校だ、学校だ、学校だ。
前世でも学校は大好きだった。
勉強が、ではない。
友達と遊べるし、図書館がある。
気懸かりは子爵という身分。
貴族街に住んでいるから馬車での送迎になる。
でもそれは嫌。
窮屈な身分に縛られたくない。
事前に馬車での送迎を断固拒否した。
「歩いて風を感じたい」
良いこと言った俺、詩人だな。
無論、激しく抗議された。
その五月蠅いこと、五月蠅いこと。
特に女性陣が大きな声を上げた。
そこで妥協した。
護衛を必ずつける事になった。
さっそく平服の兵士三名がお供に就いた。
背の高い三名の壁を引き連れて登校した。
まあ、俺としては、絵面的にどうなんだと思うが、我慢した。
皆が心配してくれている訳だし、殊更だね。
それなりに新鮮な朝だった。
が、途中で現実に目が覚めた。
騒がしい登校風景がないのだ。
仰々しい送迎馬車の列が消えていた。
再開される前の正確な車輌数は知らないが、こうではなかった。
貴族は当然として、平民富裕層も送迎馬車を出していた。
門前が渋滞を来したと聞いて、一度、興味津々で見物した事があった。
実際、大渋滞していた。
今、目の前の風景は見知らぬもの。
送迎馬車が流れるようにスイスイと門を出入りしていた。
門前で護衛と別れて一人でクラスへ向かった。
再開初日にも関わらず、校内の空気が重い。
早足の者も見かけるが、多くは沈んだ足取り。
俯き加減の者もいた。
三公爵家への処分が大人達だけでなく、その子弟にも及んだのだろう。
三公爵家に連座した貴族や商家は処罰された。
積極的な関わりでなくても、
取り巻きとして利益を甘受していた者達も譴責処分を受けた。
そんな彼等に掛ける言葉を俺は持ち合わせてはいない。
冷たいかもしれないが俺の手は短い。
差し伸べるにしても彼等にまでは届かない。
幸いクラスだけは明るかった。
平民ばかりなので影響を受けていないのだろう。
あっ、俺、クラスでただ一人のお貴族様。
席につくとキャロル達が寄って来た。
キャロルとマーリン、モニカの三人の実家は商家。
それなりに手広い商いをしているのだが、
公爵家に出入りするような大商家ではないそうだ。
お陰様で今回は影響はないと言っていた。
その三人だが今回の一件で立場がおかしなことに。
王宮から冒険者ギルドを通じて、
冒険者パーティ「プリン・プリン」に依頼が出された。
「期限なしで王女・イヴ様の遊び相手をして欲しい」
あっ、場所が後宮なので俺は入れない。
実質女性陣への依頼だ。
シンシア達大人はパーティに加わっていないが、
王宮としては彼女等も含めての依頼だった。
そこで女性陣が集まり急遽協議した。
難航するかと思いきや、即決で後宮への興味から受注した。
シンシア達は野良とは言え男爵。
シェリル京極は京極侯爵家の長女。
その守役のボニーも実家は男爵家。
問題は平民のキャロル達。
それを王妃のベティ様が解決した。
「パーティのリーダーはダンタルニャン佐藤子爵。
当人は男子だから後宮に入れないけど、これはパーティへの依頼なの。
どこに不備があるのかしら」
俺は深夜の散歩に出かけた。
お供は助さん、格さん。
違った。
脳筋妖精とダンジョンスライム、アリスとハッピー。
深夜の服装は悪党ファッション。
編み上げの長靴、細目のズボン、シャツ、フード付きローブ。
色はグレー系で揃えた。
手には魔法使いの杖。
覆面レスラーを真似た黒の仮面。
ステータスも偽装した。
お供のアリスは赤の仮面、ハッピーは青の仮面。
訪れたのは外郭東区画のスラム。
アポなしでサンチョとクラークのアジトに突入した。
さしたる用件はないのだが、不意打ち訪問も偶にはねって。
屋敷の屋根に転移、アジトの屋根に転移、ボス部屋にこれまた転移。
探知と鑑定の連携で、安全第一のショート転移を行っているので、
第三者とかち合うとか、何かに衝突するとかはない。
驚かそうと部屋の片隅の陰に転移した。
二人は手下を入れないボス部屋で帳簿付けをしていた。
集中してペンを走らせていたので、全く気付かない。
そこで声をかけた。
「お邪魔してるよ」
瞬間、二人が硬直した。
でもそこは正真正銘のスラムの悪党。
「こっちは呼んじゃいねえぞ」クラークが怒鳴る。
「妖精売買の情報はないよ」サンチョは溜息。
二人の仕事は闇金。
外面はサンチョがボス、クラークは相談役。
手下もぼちぼち増やし、少数精鋭で稼いでいた。
二人が手練れなので舐められる事はない。
元手になった資金の供給者は俺。
時折、追加供給もしている。
返済は求めていない。
闇金にとっては理想的だろう。
そんな俺の訪問を歓迎しないとは情けない。
実質、俺がボスなんだけど。
傷付くわ~。
俺は取り敢えずの質問をした。
「商売に影響が出てないか」
クラークは帳簿に戻る。
サンチョが仕方なさそうに相手してくれた。
「お取り潰しになった貴族や商家からの回収は難しい。
奉行所や近衛の目が光っているから近付けない」
「それはそうだ。
連中の一味と勘繰られたら、それでお終いだ。
それに二人は奉行所に指名手配されてたしな」
俺は虚空から金貨入りの小袋を取り出した。
ダンジョン産の百枚入りだ。
それを帳簿付けのデスクに放り投げた。
重々しそうな音と金属音、ドドンッ、ジャンジャラジャラ。
「何か面白そうな話はないか」
サンチョはチラ見すると、視線を天井に投げた。
クラークは忌々しいそうに俺を睨む。
お供のアリスとハッピーは俺達にはお構いなし。
天井付近を浮遊しながら駆けっこをしていた。
楽しいそうな声が聞こえて来た。
サンチョが俺を見た。
「面白いかどうかは知らんが、最近、
スラムで妙な連中を見かける様になった。
形は冒険者なんだが、依頼を受けてる様子がない。
スラムを根城にしてウロウロしてるんだが、
かと言ってスラムのファミリーと揉める様子もない。
結構な数いるんだが、・・・何をしたいんだか」
「お取り潰しになった貴族の関係者とかは」
「住むところを失ったからスラム住まい・・・、違うな。
連中の近くで女子供を見かけたことがない」




