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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(大乱)15

 結局、俺はただの子供だった。

迂闊な是認はできない。

「僕では返事できません」

 ポール殿はにこりとした。

「分かった。

私の方で実家と話を詰める。

それでいいね」

「寄親の伯爵家を通さなくていいのですか」

 尾張地方の寄親は織田伯爵家。

ここを無視して話を進めると、後で色々と揉めるのは必定。

顔を立てるのが渡世の義理だろう。

「そちらも私に任せてもらおう。

そうそう、レオン織田子爵とは顔馴染みだったね」

「はい。

僕の陞爵パーティーにおいで頂きました」

「ここだけの話だが、そのレオン殿が近々、織田伯爵家を継ぐ」


 話が見えない。

レオン殿は確かに織田伯爵の子息だが、嫡男ではない。

正室の子でも側室の子でもない。

伯爵が家臣の娘に気まぐれに手をつけ、生まれた子。

運が良いのか悪いのか、正室や側室よりも先に生まれた子。

家臣の娘であったために有耶無耶には出来なかった。

なので所謂、庶長子。

 実父のフレデリー織田伯爵は後継問題が起きぬように、

家臣の家で生ませ、隠して育てさせた。

面会すらない。

だけではない、小細工をした。

レオンが成人するや別家を立てさせ、伯爵家から切り離した。

レオン織田男爵家。


 それが隣接する美濃地方で発生した魔物の群れ騒動で手柄を立てた。

木曽大樹海から発した魔物の群れの大移動を阻止し、

壊滅に導くのに一役を買った。

功績を認められて陞爵し、子爵となった。

レオン織田子爵家。

 レオンは確たる地位を得た。

国王陛下のお気に入り子爵様。

それ以前に買っていた者もいた。

隣接する美濃地方の当時の寄親・バード斎藤元伯爵が、

別家を立てたレオン男爵に末娘を嫁がせていた。

評定衆に席を得たバード斎藤侯爵の後ろ盾もあり、今や無双状態。


 僕は素直に疑問を口にした。

「はあー、有り得ないですよね」

 織田伯爵家には嫡男もいれば次男もいる。

今はその二人は事情があって尾張には不在だ。

が、後継者には違いない。

ポール殿が鼻で笑った。

「ふっ、君は忘れたのかな。

今の尾張には後継者がいない」

 理屈は分かる。

嫡男はレオン殿への嫉妬に駆られたのか、兵を上げた。

長年の懸案である伊勢地方との国境争いを解決すべく、大軍を編成し、

次男を帯同して伊勢に攻め入った。

そして罠に嵌り、捕虜となり抑留されている。

次男も同様である。


「まだ二人を引き取っていないのですか」

「子息二人の身代金に捕虜全員の身代金、それに加えて、

損害賠償金、懲罰金、手柄を上げた自領の者達への褒賞金、

合わせると1000万ドロン金塊で20000本になるそうだ。

払えると思うかい」

 どう考えも国家予算に匹敵する。

俺はこの国の国家予算は知らんけど。

「100年の分割払いで」

「はっはっは、それはない。

当てにならない」

「裏で二人だけ引き取る交渉をしているんじゃないですか」

「断られているよ。

それに二人だけ引き取るのは下策だ。

捕虜になった将兵やその家族の恨みを買う」


 俺は子供なので解決策が思い付かない。

便利だね、子供って。

困ったら大人に丸投げだ。

大人のポール殿が得意げに言う。

「今回は王家が介入する事にした。

伊勢地方の寄親は王家に近しい。

そして加えて、レオンは王家の覚えも目出度い。

仲介するに越したことはない」

 俺は黙ってポール殿の言葉を待った。

「尾張に王家の使者を送った。

今は返事待ちだ。

まあ、拒否はしないだろう。

嫡男と次男だ。

1000万ドロン金塊20000本もある」

「継いだとして、レオン殿に払えるのですか」

「払える。

鉄鋼ゴーレムがある」

「鉄鋼ゴーレムですか、それが」

「今時、あの様なゴーレムを造れる者は存在しない。

君は見ていないから知らないだろうが、あれは脅威だ」

「これまでも鉄鋼ゴーレムは造られていた筈ですが」


 ポール殿は言葉を選んで語られた。

「あれらとは物が違う。

全く違う。

動きがスムーズだ。

木偶の坊ではなく、プレートアーマーの騎士に近い動きをする。

術式と操作する者の腕もあると思うが、とにかく凄い。

あれならオークとかオーガは敵じゃない。

一撃で葬れる。

超一級品の鉄鋼兵だ。

・・・。

王家はレオンに鉄鋼ゴーレム製造を依頼した。

大量の金属を必要とするから超高価になるが、

これほど心強い兵士はいない。

順次、近衛軍に正式配備して行く。

一隊に一機だ」

 ようやく俺は理解した。

要約すれば、王家がレオンの保証人になる、そう言うことだろう。

「鉄鋼ゴーレムの凄さは分かりました。

たぶん、それで伊勢地方も納得するんでしょうね。

でもポール殿はそれで良いんですか」

「何がだい」

「レオン殿を嫌っている様な気がしたんですが」

「顔に出てたか」

「パーティーの時にそんな感じがしました」

「そうか。

私もまだ未熟だな。

嫌いというより苦手だな。

感性が違う。

美的なものが近いようで遠い。

永遠に交われない気がしてならない。

まあ、そこは大人同士、私から歩み寄るよ。

全ては王家の為だ。

この事はレオン殿には内緒だ」

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