(大乱)14
俺は動揺しながらも慌てずに釈明した。
「陛下の怪我の状態については、とても質問しづらく・・・、
差し控えよう、そう判断しました」
ポール殿の表情が微妙に変化した。
「自分では、それなりに答えを持っている訳だ」
「はい、それなりに・・・」
ボール殿の右顔は猜疑心、左顔は好奇心。
「聞きたいね」
俺はそれでも抵抗した。
具体的に口にしていい場合と、しない方がいい場合がある。
今回の正解はしない方だろう。
「勝手な憶測をするより、王宮からの公式発表を待とうと思います」
ポール殿は苦笑いされた。
「ふっ、まあいい。
ところで街中の噂はどうだね」
「皆の関心は元公爵お二人の動向です。
生きているのか、死んでいるのか」
「二人とも、しぶとく生きてる。
家族を連れて西へ逃れたよ」
西へか。
逃れた先の予想はつく。
王弟・バーナード今川元公爵は正室の実家を頼り、
島津伯爵家へ落ちのびた。
王兄・カーティス北畠元公爵も正室の実家を頼り、
尼子伯爵家へ落ちのびた。
島津伯爵家は薩摩地方、大隅地方、薩南諸島の寄親。
尼子伯爵家は岩見地方の寄親。
共に西方の九州と山陰の有力者。
両家の地力は侮れない。
畿内より遠く離れているので匿い、知らぬ存ぜぬを押し通すだろう。
俺はポール殿に尋ねた。
「討伐軍の噂を聞きません。
その辺りは、どうなっているのですか」
「今はそれどころではない。
優先すべき事が沢山ある」
「討伐軍よりもですか」
ポール殿は当然とばかりに頷かれた。
「このままでは、もっと沢山の血が流れる。
国土も荒れる。
それを収めるのは刀槍ではない。
政治だ。
敵味方双方との駆け引きで治めるのが、もっとも賢いやり方だ」
現状で国王陛下の死亡を公表すれば、
他の公爵家や王族の血族が黙ってはいない。
元凶が第一位王位継承権者、第二位王位継承権者、その両者なのだ。
それ以下の継承権を持つ者達が我先に手を上げる。
それらの縁戚に繋がる多くの者達もこれ幸いと狂喜乱舞、
王位を巡って暗躍する。
確実に大混乱に陥る。
かくなる事態を回避する為に、敢えて公表を控えているのだろう。
でも俺は、穿った見方もした。
王妃様は既得権益を優先した。
王妃様の一粒種の王女・イヴ様はまだ成人していないので、
王位継承権そのものがない。
成人したとしても女性であることから継承権は低い。
そこで王妃様は陛下の死を伏せ、同じ既得権益者である評定衆と組み、
時間を稼いで、まず内部固め。
権力を確実に掌握してからイヴ様を女王に祭り上げる。
そういう構想を抱いているのではないかと疑った。
正解かどうかは分からないが、共通の敵の存在は欠かせない。
敵があれば内を纏めやすいからだ。
それが元凶公爵家二家への討伐軍が発せられない理由だろう。
全く分からないのが反乱軍の出方だ。
彼等は国王陛下の死を知っていた。
何しろ手を下したのは王兄のカーティス北畠公爵自身。
下した上に棺桶に入れて保管していた。
どういう出方をするのだろう。
自ら兄を殺したと公表するのだろうか。
否、それはないな。
王妃様の側にとっては大きな痛手だが、
かと言って反乱軍に有利に働くか・・・。
働かない。
「王殺し」の汚名しかない。
継承権を持つ者や他の王族に非難されるだけ。
多くの貴族も承服し難いだろう。
王宮を占拠して政権を奪取すれば、病死として処理できたのだが、
失敗した今、口を閉ざすしかない。
王妃様の側が公表すれば、無関係を貫くしかない。
何はともあれ気の毒なのは国王陛下だ。
おそらくは、腐敗させぬ為に氷魔法で保存されているのだろう。
棺桶の中でカチンカチンに。
政治の適切な頃合いをみて自然解凍されるのだろうが・・・。
チ~ン。
思案に暮れていたら、ポール殿に呼ばれた。
「佐藤子爵、聞こえているか」
「はっ、すみません、色々考えていました」
「しようがないな。
今回の恩賞の話だ」
「恩賞ですか」
「気が向かない話か」
「はい。
特例で子爵になって一年も経っていません。
これで恩賞をいただいたら・・・、周りの目が・・・」
ポール殿が裏のない笑みを浮かべられた。
「私や王妃様もそこを心配している。
しかし君は今回の件では手柄を立てた。
一つ、イヴ様を守り切った。
二つ、独自の判断で評定衆に書状を送り、王妃様を側面から支援した。
この二つで大きく貢献した。
それは功績第一等にも相応しい。
・・・。
君の懸念も分かる。
大人達の嫉妬を買いそうだからな。
下手すると後ろから撃たれる、足を引っ張られる。
それが心配なんだろう」
「はい」
「商売人ではないが、後払いでいいか」
「なくても構いません。
子爵の先は伯爵しかありませんので」
「そうか、伯爵か」
ポール殿は暫し考えられた。
そして尋ねられた。
「君の実家、佐藤家本家は田舎に隠棲するのが望みだったね」
「はい、政治には関わりたくないそうです。
それは元家臣の村人達も同様です」
「でも商売は嫌いじゃないだろう」
俺は先が読めなかった。
どうして今、村の話。
この人、何を考えているのだろう。
「その方向で村は生きていくと思います」
「よかった。
君の功績は佐藤家本家へ送ろう」
「それは困ります。
本家が目立ちます」
「勿論、目立たぬ様にする。
貴族に取り立てる事はしない。
・・・。
佐藤家本家の村は三河大湿原に面していたね」
「はい。
三河大湿原の獣を警戒して距離はありますが、間には町も村も、
他家の領地もありません」
「よかった。
尾張地方に面する一帯を王家の狩場とし、佐藤家に管理を委託しよう。
当然、年に数回は獲物を献上してもらうがな」
このところ視点変更の要望が届くようになりました。
大いに反省し、梅干しを、いえ、☆を入れることしました。
・・・。
そうそうお客様、ものはついでです。
下段のポイントの☆を入れてみませんか。
贅沢は申しません。
☆五つが☆いのです。
えっ、ポイント還元ですか・・・、なろうに相談して下さい。
なんとかなろう。




