表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
21/373

(ギター)11

 俺はケイトともう一人を置き去りにして山に駆け込んだ。

探知スキルで二人の現在位置を確認した。

すると二人は揃って麓で動きを止めていた。

追跡を諦め、下山を待つつもりらしい。

 鑑定スキルを連動させ、ケイトの連れを調べた。

「名前、カール。

種別、人間。

年齢、二十九才。

性別、雄。

住所、足利国山城地方国都住人。

職業、冒険者。

ランク、C。

HP、125。

MP、45。

スキル、剣士☆☆、水の魔法☆」

 思わず足を止めた。

住所が足利国。ランクCの冒険者。

噂の期間限定雇用の冒険者に違いない。

ただ、二つのスキルに関しては聞かされていない。

剣士☆☆、水の魔法☆。

咎めることではない。

鑑定する機会がなければ本人でさえも知らないのだ。

たとえ知っていてもスキルを告知する必要はなかった。

スキルは隠し武器扱いになるので、秘匿して当たり前。

それが普通であった。

HPは良いとして、気になるのがMPだ。

中途半端な数字、45。


 村の神社の宮司はHPが85で、MPは115だった。

ランクはHPが優先されるのでD。

スキルは水の魔法☆。

職業柄、水の魔法系の治癒に特化していた。

そういう宮司も火の魔法は発動できても、

スキル獲得にまでは至っていない。

それに比べるとカールの、「MP45、水の魔法☆」は異質である。

50以下のMPでスキル持ちということは、魔法学園卒業ではなく、

個人的に学びながら魔素量を増やし、

MPを効率的に発動できる方法を身に付け、ということだろう。

いわゆる、「先天的な魔法使い」というより、

「後天的な魔法使い」と呼ぶ方が相応しいかも知れない。

あるいは、「野良の魔法使い」か。

 国都の幼年学校を卒業した、とも聞いていた。

元は国軍の大尉、退職してCランクの冒険者、今は事務員。

願ってもない経験豊富な人材が現れた。

 視線の先、遠くの木陰に隠れている派手な鳥を見つけた。

それも二羽。

思わず笑みが溢れた。


 カールはケイトを宥め、ダンタルニャンの性格を聞いていた。

「私を置き去りにするけど、意地悪じゃないからね。

私を疲れさせたくないみたいなの。

守り役だからといって、そこまでする必要はないよって。

優しいのよ」

「どうして、そうまでして山の中を走り回っているんだ」

「冒険者の基本は足腰だって言ってるわ」

「冒険者・・・。

村長から聞いていたが、本気だったんだ」

「そうよ。本気も本気。

人に仕えるより冒険者になって旅をしたい、それが口癖よ。

今も子供だけど、小さな頃から言っているわ」

 背後で草を踏み潰す小さな足音がした。

カールは直ぐに振り返り、短剣の柄に手を伸ばした。

隣でケイトも身構えた。


 木立の向こうの藪から声がした。

「俺だよ、俺」

 藪の脇からダンタルニャンが姿を現した。

左右の手に極楽鳥を下げ、ゆっくり歩み寄って来た。

美しい長羽で身を包む見目麗しい鳥だ。

長い羽がダンタルニャンの足首まで垂れ下がっていた。

 思わずケイトが声を漏らした。

「綺麗・・・。

どうしたの、それ」

 この辺りでは滅多に見掛けない渡り鳥だ。

「途中の枝に止まっていたから、狩ってきた。

羽を欲しがっていただろう」二羽をケイトに差し出す。

「私が貰って良いの」顔を綻ばせた。

「いつもいつも面倒かけてるから、そのお詫び。

遠慮せずに貰ってよ」

 カールはケイトが受け取った二羽を見て、思わず首を捻った。

矢で射た疵がない。

血も流していない。

それ以前にダンタルニャンは弓を所持していない。

 疑問が顔に出たのだろう。

ダンタルニャンが言う。

「これだよ、これ」腰の袋から何かを取り出して、放り投げた。

 カールは親指より少し大きめの小石を受け取った。

加工して磨いた形跡があった。

「礫打ちか」

 カールの言葉にダンタルニャンが頷いた。

カールは呆れながら、極楽鳥に視線を戻した。

確かに二羽の喉の羽毛に乱れがあった。

極楽鳥の価値はその美しい羽にある。

その美しい羽を損ねないように喉を狙ったのだろう。

どのくらい離れていたのかは知らないが、この細い喉を・・・。

腕に自信があっても、狙って当てられるものではない。

それも二羽・・・。


 アンソニー佐藤は息子とカールの様子をそれとなく見ていた。

思いの外、上手くいっていた。

息子は山に入っても以前よりも早く戻ってきて、

カールの指導を従順に受けていた。

それにケイトが連れ立っているのは計算外ではあったが、

咎めなかった。

そもそもが守り役なので、見て見ぬふりをした。

 十日もした頃、カールを呼び出した。

「調子はどうだね」

「ご覧になっているように、何の問題もありません」

「組み稽古もやっているようだが」

 稽古では十才以下の子供の組み稽古は禁止していた。

子供は熱中すると我を忘れ、乱暴になるからだ。

「すみません。

私の判断で、組み稽古を入れました」

「任せたから、それは良い。

それでどうなんだ、腕前は」

「ダンタルニャン様は子供とは思えません。

熱くはなりますが、根っ子のところは冷静です。

私より大人な気がします」

 アンソニーは苦笑いを浮かべた。

「そうなのか。

・・・。

そう言えば、怒ったところを見たことがないな」

「どうやら猫を被っていられるようですね」

「猫を・・・」

「本気になると相手を怪我させる、と思われ、

組み稽古は口にされないのでしょう」

「そこまでの腕前か・・・」首を捻った。

「攻める早さでは村一番ではないでしょうか。

私でも受け止めるので手一杯です。

あれに大人の力でも備われば、私でも受け止められません」

 アンソニーは思わず机に両手を置いた。

「お主が手を抜いている、と見ていたが、本気だったのか」

「ええ、才能があります。

私なら幼年学校を卒業したら冒険者ではなく、騎士学校を勧めます」

「騎士学校か、入学試験は厳しいと聞いているが」

「確かに厳しいですが、ダンタルニャン様がこのまま真っ直ぐ育てば、

何の問題もないでしょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ