(ギター)11
俺はケイトともう一人を置き去りにして山に駆け込んだ。
探知スキルで二人の現在位置を確認した。
すると二人は揃って麓で動きを止めていた。
追跡を諦め、下山を待つつもりらしい。
鑑定スキルを連動させ、ケイトの連れを調べた。
「名前、カール。
種別、人間。
年齢、二十九才。
性別、雄。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、冒険者。
ランク、C。
HP、125。
MP、45。
スキル、剣士☆☆、水の魔法☆」
思わず足を止めた。
住所が足利国。ランクCの冒険者。
噂の期間限定雇用の冒険者に違いない。
ただ、二つのスキルに関しては聞かされていない。
剣士☆☆、水の魔法☆。
咎めることではない。
鑑定する機会がなければ本人でさえも知らないのだ。
たとえ知っていてもスキルを告知する必要はなかった。
スキルは隠し武器扱いになるので、秘匿して当たり前。
それが普通であった。
HPは良いとして、気になるのがMPだ。
中途半端な数字、45。
村の神社の宮司はHPが85で、MPは115だった。
ランクはHPが優先されるのでD。
スキルは水の魔法☆。
職業柄、水の魔法系の治癒に特化していた。
そういう宮司も火の魔法は発動できても、
スキル獲得にまでは至っていない。
それに比べるとカールの、「MP45、水の魔法☆」は異質である。
50以下のMPでスキル持ちということは、魔法学園卒業ではなく、
個人的に学びながら魔素量を増やし、
MPを効率的に発動できる方法を身に付け、ということだろう。
いわゆる、「先天的な魔法使い」というより、
「後天的な魔法使い」と呼ぶ方が相応しいかも知れない。
あるいは、「野良の魔法使い」か。
国都の幼年学校を卒業した、とも聞いていた。
元は国軍の大尉、退職してCランクの冒険者、今は事務員。
願ってもない経験豊富な人材が現れた。
視線の先、遠くの木陰に隠れている派手な鳥を見つけた。
それも二羽。
思わず笑みが溢れた。
カールはケイトを宥め、ダンタルニャンの性格を聞いていた。
「私を置き去りにするけど、意地悪じゃないからね。
私を疲れさせたくないみたいなの。
守り役だからといって、そこまでする必要はないよって。
優しいのよ」
「どうして、そうまでして山の中を走り回っているんだ」
「冒険者の基本は足腰だって言ってるわ」
「冒険者・・・。
村長から聞いていたが、本気だったんだ」
「そうよ。本気も本気。
人に仕えるより冒険者になって旅をしたい、それが口癖よ。
今も子供だけど、小さな頃から言っているわ」
背後で草を踏み潰す小さな足音がした。
カールは直ぐに振り返り、短剣の柄に手を伸ばした。
隣でケイトも身構えた。
木立の向こうの藪から声がした。
「俺だよ、俺」
藪の脇からダンタルニャンが姿を現した。
左右の手に極楽鳥を下げ、ゆっくり歩み寄って来た。
美しい長羽で身を包む見目麗しい鳥だ。
長い羽がダンタルニャンの足首まで垂れ下がっていた。
思わずケイトが声を漏らした。
「綺麗・・・。
どうしたの、それ」
この辺りでは滅多に見掛けない渡り鳥だ。
「途中の枝に止まっていたから、狩ってきた。
羽を欲しがっていただろう」二羽をケイトに差し出す。
「私が貰って良いの」顔を綻ばせた。
「いつもいつも面倒かけてるから、そのお詫び。
遠慮せずに貰ってよ」
カールはケイトが受け取った二羽を見て、思わず首を捻った。
矢で射た疵がない。
血も流していない。
それ以前にダンタルニャンは弓を所持していない。
疑問が顔に出たのだろう。
ダンタルニャンが言う。
「これだよ、これ」腰の袋から何かを取り出して、放り投げた。
カールは親指より少し大きめの小石を受け取った。
加工して磨いた形跡があった。
「礫打ちか」
カールの言葉にダンタルニャンが頷いた。
カールは呆れながら、極楽鳥に視線を戻した。
確かに二羽の喉の羽毛に乱れがあった。
極楽鳥の価値はその美しい羽にある。
その美しい羽を損ねないように喉を狙ったのだろう。
どのくらい離れていたのかは知らないが、この細い喉を・・・。
腕に自信があっても、狙って当てられるものではない。
それも二羽・・・。
アンソニー佐藤は息子とカールの様子をそれとなく見ていた。
思いの外、上手くいっていた。
息子は山に入っても以前よりも早く戻ってきて、
カールの指導を従順に受けていた。
それにケイトが連れ立っているのは計算外ではあったが、
咎めなかった。
そもそもが守り役なので、見て見ぬふりをした。
十日もした頃、カールを呼び出した。
「調子はどうだね」
「ご覧になっているように、何の問題もありません」
「組み稽古もやっているようだが」
稽古では十才以下の子供の組み稽古は禁止していた。
子供は熱中すると我を忘れ、乱暴になるからだ。
「すみません。
私の判断で、組み稽古を入れました」
「任せたから、それは良い。
それでどうなんだ、腕前は」
「ダンタルニャン様は子供とは思えません。
熱くはなりますが、根っ子のところは冷静です。
私より大人な気がします」
アンソニーは苦笑いを浮かべた。
「そうなのか。
・・・。
そう言えば、怒ったところを見たことがないな」
「どうやら猫を被っていられるようですね」
「猫を・・・」
「本気になると相手を怪我させる、と思われ、
組み稽古は口にされないのでしょう」
「そこまでの腕前か・・・」首を捻った。
「攻める早さでは村一番ではないでしょうか。
私でも受け止めるので手一杯です。
あれに大人の力でも備われば、私でも受け止められません」
アンソニーは思わず机に両手を置いた。
「お主が手を抜いている、と見ていたが、本気だったのか」
「ええ、才能があります。
私なら幼年学校を卒業したら冒険者ではなく、騎士学校を勧めます」
「騎士学校か、入学試験は厳しいと聞いているが」
「確かに厳しいですが、ダンタルニャン様がこのまま真っ直ぐ育てば、
何の問題もないでしょう」




