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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
209/373

(大乱)12

 ベティ様はほんの一瞬だけ表情を歪められた。

けれど、それをイヴ様に向けられる事はなかった、

ポール細川子爵から目を離されると、

女性騎士から差し出されたハンカチを受け取り、

作り笑顔でイヴ様の涙にあてられた。

「ねえイヴ、お母さまの仕事はもう少しかかるの。

全部終わらせないと、皆が困るの」

 イヴ様は何の疑問も抱かず、尋ねられた。

「みんながこまるの」

「そうです、皆が困るの。

後ろのポールも、王宮の皆も。

だからもう少し、ダンタルニャン佐藤子爵の屋敷で待っててくださいね。

・・・。

良い子にして待ってるのですよ。

わかりましたか」

 イヴ様のつぶらな瞳が俺に向けられた。

「にゃ~ん、いいですか」

「はい、もちろんですとも」


 ベティ様は愛娘を先の侍女に預けられた。

「頼みますね」

「お任せくださいませ」

 ベティ様は直ちに騎乗なされた。

手綱を取り、俺を見下ろされた。

表情は冷静沈着そのもの。

「ダンタルニャン佐藤子爵、もう少しお願いするわね」

「はい、お任せください」

 ベティ様の視線がカトリーヌ明石大尉に向けられた。

「カトリーヌ、頼りにしてるわよ」

「はい、お任せください」

 ベティ様は改めて愛娘を預ける者達を見渡された。

侍女三人。

女性騎士四人。

そして、その後ろを見て、はてと首を傾げられた。


 俺は説明した。

「後ろの者達は私の仲間です。

幼年学校や元国軍尉官の者達です。

イヴ様の遊び相手と警護をしています」

「そうなの・・・」

「一人は京極公爵家の長女、シェリル。

そしてその守役のボニー。

商家の娘が三人。

キャロル、マーリン、モニカ。

元国軍尉官がシンシア、ルース、シビル」

 何故かベティ様の目色が変わった。

遠くを見る様な・・・。

「国軍のシンシアにルース、そしてシビル・・・。

どこかで聞いた覚えがあるわね」

 カトリーヌ明石大尉が応じた。

「国軍でならしたお三方です」

 何をしでかしたんだろう、あの三人。

公式に爵位を与えられているから、問題はないと思うけど、

初耳、詳しく知りたい。


 ベティ様は深く頷くと、三人に視線を転じた。

「シンシア、ルース、シビル、お顔を見せてくださいな」

 三人が顔を上げた。

ちょっと堅い。

ベティ様がそんな三人を繁々と見た。

納得したかの様な表情。

「退役していたのですね。

イヴを頼みましたよ」

「承知いたしました」三人が声を揃えた。

 ベティ様が尋ねられた。

「京極家の者は」

 即座にシェリルが応じた。

「これに」

「貴方のお名前は」

「シェリル京極です」

「面をお上げなさい」

「はい」まん丸な顔を強張らせた。

 ベティ様が柔らかい笑みを浮かべられた。

「確かに京極家の血ね。

・・・。

いいわ、イヴをお願いね」

「承知いたしました」

 ベティ様は終わらない。

「守役の者、面をお上げなさい」

「はい」

「名は」

「ボニーと申します」顔も身体も固い。

「シェリル共々、イヴを頼みますよ」

「お任せ下さい」


 ベティ様は残った三人も見逃さない。

「商家の娘の三人、面を上げなさい」

 カチンコチンの塊が恐る恐る顔を上げた。

「はっ、はい」

「ひっ、はい」

「ふぇっ、はい」

 ベティ様が頭をかかれた。

「怖がらせましたね。

大丈夫ですよ。

取って食べたりしませんから。

・・・。

名前を聞かせてくださいね」

「商家の娘でキャロルと申します」

「同じく、マーリンと申します」

「同じく、モニカと申します」

 ベティ様は玩具でも見つけたかの様な顔で頷かれた。

「キャロル、マーリン、モニカですね。

分かりました。

それでは三人もイヴをよろしくお願いしますよ」

「はい」

「はっ、はい」

「お任せください」


 ベティ様が俺を見た。

「警護の兵が必要でしょう」

「ご配慮には感謝いたします。

ですが、不要です」

「足りるのですか」

「指揮系統の乱れの元になりかねません。

屋敷内は今のままで」

 ベティ様が呆れた様に言う。

「分かったわ。

でも貴方、本当に子供なの」

「はい」

「ん・・・、いいわ、屋敷の内は任せる。

けれど、外を巡回する兵は必要ね。

不定期で近衛分隊を貴族街に向かわせるわ」

「承知しました」

 ベティ様は即座に馬の首を叩かれた。

「行くわよ」

 馬が返事代わりに嘶いた。

「ヒッヒ~ン」パカパカと足を進めた。

 女性騎士達が押し包む様にして周囲を固めた。


 侍女に抱きかかえられたイヴ様が見送る。

「おかあさま」

 カトリーヌ明石大尉がその脇に立つ。

けれど何も言わない。

気安い言葉はかけられないのだろう。

俺も何も言えない。

片膝ついたままの姿勢で王妃様を見送った。

俺に何が出来るのだろう。

・・・。

・・・。

ただ守るしかないのだろう。

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[一言] 面白いです。 続き楽しみにしてます!!
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