表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
200/373

(大乱)3

 俺は屋敷の内庭で寛いでいた。

鯉が放たれた池に面した四阿のベンチに腰を下ろし、

濃いミルクティが注がれたカップを片手に、ほっと一息ついた。

俺の膝の上のイヴ様もカップを片手に、ほっと一息ついた。

 朝一番にイヴ様に隠れん坊の鬼に指名され、やっと今、

解放されたばかり。

汗、汗、汗。

子供の相手がこんなに疲れるとは・・・、父や母、いや違う。

村の我が家のメイド達に大感謝だ。


 俺は空になったカップをテーブルに戻した。

竹籠のビスケットを二本指で摘まむ。

イヴ様も俺を真似た。

背筋を伸ばし、さらに手を伸ばしてカップを戻し、

ビスケットを二本指で無理して摘まむ。

摘まんだ。

口に運ぼうとして落とした。

俺の膝に。

怒った。

「うきゃー、にゃ~ん」

「うん、これを食べるかい」

 俺は摘まんだビスケットを彼女の口に持っていった。

ところが彼女は口を開けない。

俺を無視し、竹籠のビスケットに再度挑もうと手を伸ばした。

その様子を彼女付の侍女三名が微笑ましそうに見守っていた。


 遠く、遥か高々度に微かな魔波を感じ取った。

それが高速で国都上空に急接近して来た。

近付くに従い、何者か分かった。

識別し易い魔波。

エビスゼロとエビス一号だ。

 屋敷の真上で二機が停止した。

人目に触れぬ高々度だ。

アリスの第一声、念話が届いた。

『ダン、何時の間に子供を作ったの』

『パー、子供、子供ピー』ハッピーは相変わらずだ。

 姦しい二人に事情を説明した。

かくかくしかじかと。

『そういう訳なんだけど、二人の用事は済んだのかい』

『粗方ね。

それでお土産を持ち帰ったわ』

『お土産、怖いな』

『怖くないわよ。

部屋にいるから、子守が終わったら戻ってきなさい。

お土産を見せてあげる。

たぶん、喜ぶと思うけど』

 高々度にいた二機が姿を消した。

転移。

俺の自室に転移したに違いない。


 俺は侍女達にハンドサインを送った。

急用ができた、イヴ様の子守終了と。

それを見て、侍女の一人が前に出て来た。

「イヴ様、そろそろお昼寝の時間です」

「もうなの」

「ええ、よく寝ませんと、大きくなれませんよ」

「わかったの」

 イヴ様は不承不承ながら、俺の膝の上で立ち上がった。

それを俺は文字通りにお姫様抱っこ、そのまま侍女に手渡しした。

「にゃん、またね」


 俺は三階の自室に戻った。

ベッドの上でアリスとハッピーが結界を敷いて、何やら騒いでいた。

楽しそうで何より。

俺に気付いたアリスがベッドに手招きした。

『これを見なさいよ』

 収納庫から二つ取り出した。

見るからにダンジョンコアの小型版。

本体が母体なら、これは子供。

幼年学校に設置してある型と同じだ。

『子供コアだよね。

それも二つ、どうしたんだい』

『頼んだら産んでくれたのよ』

『頼んだらね・・・』

『一つは私が使うわ。

ペリローズの森と繋ぎたいの。

常時接続にすれば、妖精狩りに遭うこともなくなるわ』

『それで』

『オープンする予定だったダンジョンを妖精専用にするの。

そこで軟弱になった妖精達を鍛える』

『軟弱になったね・・・、あの長老様は』

『あれはもう老害ね。

話すだけ無駄だわ』


 アリスが長々と説明した。

『私達は森の生態系を正常な形で維持する役目があるの。

例えば今回のワイバーン騒ぎ。

あれが出来する前にワイバーンを間引くのが役目なのよ。

適切な数、間引いていればキングもクイーンも生まれなかったわ。

ところが老害にそれは出来なかった。

・・・。

まあ、老害一人の責任じゃないわ。

森の妖精自体の力が弱まっているのよね。

結構な数の妖精が森から抜け出しているみたいだから、

仕方ないのかもしれないわ』

 抜け出した妖精の一人がそう言うのだから説得力が半端ない。

『で、どうするの』

『妖精個々の技量が落ちているみたいだから、国都観光を餌に、

ダンジョンで鍛えるのよ。

そうすれば妖精の戦力がアップするし、

森から抜け出る奴も少なくなると思うのよね』

『話は分かった。

アリスに任せるよ、長老も含めてね。

それでもう一つは』

 子供コアは二つあった。

一つの行く先はペリローズの森と決まった。

長老が許可すればだが・・・。


 アリスが得意げに言う。

『もう一つはダンにあげるわ。

木曽に行く機会があれば、そちらに設置しなさいよ』

『いいのかい』

『いいのよ。

私の心は広いのよ、感謝なさい。

・・・。

ところでだけど、困ってるみたいね。

私とハッピーで手伝ってあげましょうか』

 ハッピーが参戦して来た。

『ポー、手伝う、手伝わせてプー』

『人間の騒ぎにかい』

『そうよ、王女様を助けたいのでしょう』

『ピー、イヴ様、イヴプー』


 俺は考えた末に断った。

『たぶん、助けが無駄になるから関わらない方がいい』

『無駄になるの・・・』

『僕を含め、人間は愚かだから、どうにもならない。

戦死者の上に戦死者を重ねた末に平和になるのなら良い。

けれど、新たに生まれた連中が、新たな争いの種を育み、

新たな火蓋を切って落とす。

これを永遠に繰り返す。

それが人間という永久機関。

種の違う妖精が関わる必要はないよ』

『なんとなく分かるわ。

でも、ダン、貴方も人間でしょう。

どうするの、関わるんでしょう』

『僕の手の届く範囲で』

『手の届く範囲・・・』

『眷属に似た者という意味だよ。

家族、友人、家臣、領民、それに頼って来る者。

・・・。

僕の手は小さいから、その他大勢までは抱えきれない』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ