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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
198/373

(大乱)1

 南門に近づいたところで先行していた二名の女性騎士が足を止めた。

何事か話し合うと、一名が建物沿いをスルスルと進み、

警戒しながら角を曲がって消えた。

俺達は合流して、何が起きたのか理解した。

前方から剣戟の音と怒号が聞こえて来た。

どうやら門付近で戦闘が起きている様子。

残った女性騎士が言う。

「しばらく待機します」


 女性騎士が偵察して戻って来た。 

彼女はカトリーヌ明石、近衛軍での階級は大尉。

今現在、王女イヴの供周りの女性騎士と侍女、計六名を率いている。

その彼女が険しい表情で俺に言う。

「門は開かれていませんが、詰め所で戦闘が行われています。

近衛の制服を着た者達が二つに割れて戦っています」

 俺は子供だか、爵位は子爵。

そして王妃から直にイヴを託された立場。

そこを鑑みて俺に説明しているのだろう。

「つまり、敵の手が伸びていたと」

「事前の示し合わせで、あの門を開き、

加勢を呼び入れるのではないかと思われます」

「門外に敵の手勢が控えていると考えた方がいいですね」

「はい。

敵も加勢を分散配備する余裕はないでしょう。

他の門に回ります」


 俺達は遠回りにはなるが、東門を目指すことにした。

イヴが心配そうに俺を見上げた。

「なにかあった、のでしゅか」

「悪い奴がいました。

見つからぬ様に走りますよ」

「にゃんに、まかせましゅ」


 カトリーヌ明石大尉が明言した通り、東門では何事も起きていなかった。

俺達を門衛の任に就いている騎士三名が敬礼で出迎えた。

それに気付いた詰め所から数名が飛び出して来た。

彼等も何事か出来していると肌身に感じているのだろう。

醸し出す空気が芳しくない。

詰め所の責任者らしき中尉が代表して問う。

「これは大尉殿、何やら騒がしい様ですが、

何か起きているのでしょうか」


 カトリーヌ明石大尉は手短に状況を説明した。

ただ、俺の説明は省いた。

誰がいつ何時、敵に回るか分からない状況なので、

避難先は明かさないのだろう。

「そういう訳なので、王女様を外に一時避難させます」

「我々は如何いたしましょう」

「他の門と情報を共有し、門を拠点にして陛下や王妃様を助けなさい。

余裕があるのなら味方を募るのも良いわね」

「了解しました」


 俺達は東門から外に出た。

目の前は外郭東区画の貴族街。

至って平穏無事な空気に包まれていた。

俺達が連れ立って歩くのを見ても誰一人怪訝な顔をしない。

カトリーヌ大尉が俺を振り返った。

「子爵殿、疲れてないか。

疲れたら代わってもいいと思うが・・・」

「大丈夫です。

身体強化しているので」

「ずっとしているが、魔力が切れないか」

「屋敷までは切れません。

御心配なく」


 イヴ様が俺を見上げた。

「にゃん、わたしおもい」

「重くないですよ」

「そう、かたぐるま」挙動不審気に左右をキョロキョロ。

「外は始めてですか」

「そう、はじめて」

「分かりました」


 俺はイヴ様を肩車した。

するとはしゃぐ、はしゃぐ。

俺の頭をペチペチ叩いて大喜び。

王宮を抜け出る際は空気を読んで静かにしていたのだろう。

それがここにきて、一気に爆発した。

「にゃん、あれなに」

「屋台というものです」

 貴族街と平民街の境目に屋台が軒を連ねていた。

「やたい、おいしそうなにおい、あれはなに」

「肉を焼いています」

「あのくろいのは」

「あれを肉につけて焼き上げます」

「よごすの」

「いいえ、あれで美味しくします」


 連れ立つ俺達を見て、平民の群れが左右に割れた。

前後に近衛の騎士がいるので、何事かと警戒している様子。

それも知らず、イヴ様が俺の髪を掴み、強く引っ張った。

「にゃん、あれは」

 クレープを食べながら歩いている数人の女児とすれ違った。

「クレープですね」

「おいしの」

「美味しいですよ」

「あるいて、たべていいの」

「道路にはテーブルがありませんから、ここでは正しい食べ方ですよ」

「わたしも」

 聞こえている筈のカトリーヌ明石大尉は何も言わない。

よく見ると、肩が微かに震えていた。

侍女の一人からは小さな笑い声。


 俺はクレープの屋台で足を止めた。

行列ができていた。

二人で後ろに並んだ。

他の皆は周囲の警戒。

イヴ様に聞かれた。

「どうしたの」

「並んで買うんです」

「ならぶの、どうして」

「美味しい物には皆が集まるんです。

それで喧嘩にならぬ様に、こうして順番に並ぶんです」

「そう、ありみたいね」

「蟻を知っているんですか」

「にわにいっぱい、あるいてる」

 イヴ様の遊ぶ庭園で蟻が闊歩、ありふれているのが想像できた。

「美味しそうな匂いがするでしょう」

「はい」

「もう少し我慢しましょうね」俺は母親か。


 俺はクレープを人数分買って、皆に行き渡らせた。

カトリーヌ明石大尉が生真面目な顔で言う。

「私達は勤務中です」

「でも、嫌いじゃないでしょう」

「まあ、嫌いじゃないかな」

「休みの日はこうして買っているんでしょう」

「・・・そうだな」

「かとりーぬ、ずるい」イヴ様が抗議した。

「すみません」頭を下げるカトリーヌ。

「つぎは、わたしも」

「それは・・・」

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