(王宮の地下)5
ブルーノ足利は冷静に現状を分析した。
策は全て効果があった。
敵の戦力の半分近くを削いだ。
対して、こちらは無傷。
ただ、全員が疲弊している。
攻撃魔法の素人三名はMP不足で、ヘロヘロ。
魔道具【携行灯】を持つので手一杯。
近衛兵五名はHPスカスカにも拘わらず、気丈に槍を構えている。
構えているが、形だけ。
MPやHPを回復させるポーションはあったのだが、使い切ってしまった。
これ以上、戦線は維持できない。
相手方の団長を探した。
奥にいる奴がそれだろう。
怒りに顔を染め、こちらを睨んでいる。
それでも一人で突出して来る気配はない。
感情を露わにしても、頭は冷静なタイプだ。
そいつが指示を下した。
「近衛兵相手に無謀に突っ込むな。
交替しながら攻めろ。
そうすれば相手は疲れる」
ブルーノは一つの策を思い付いた。
団長を挑発した。
「一番後ろで涼しい顔で命令してるのが傭兵団の団長か。
気楽に言ってるな。
うちの近衛兵は一騎当千だ。
鍛えているから回復も早いぞ。
・・・。
相手が疲れるのを待つ女々しい戦いよりも、もっと面白いのがある。
簡単だ。
俺とお前で勝負を決める。
どうだ、やるか、それとも怖いか」
ブルーノは魔道具【携行灯】の逆光から前に進み出た。
腰の長剣を抜き、肩に担いだ。
予想通り、背後から侍従長が声を張り上げた。
「陛下、お止め下さい」悲痛な叫び。
女官二名も声を上げた。
当然、近衛兵達もだ。
口々に言う。
「こんな輩の相手は、なさらないで下さい。
お手が汚れます。
我らが排除しますので、なにとぞお下がりください」
ブルーノの挑発に団長が乗った。
「ほう、これはこれは陛下。
お初にお目にかかります」馬鹿にするように頭を下げてみせた。
「気にするな。
誰もお主を咎めはせん。
・・・。
どうした、怖いか、私が」
団長は答え代わりに近衛兵達に視線を向けた。
ブルーノはその意味を汲み取った。
「お前達、邪魔にならぬように一ヵ所に下がっていろ」
近衛兵達は互いの顔を見遣った。
「しかし」
「しかしも案山子もない。
これは命令だ。
それとも私が奴に劣っているとでも申すのか」
団長があからさまに言う。
「その通りなんじゃ、ございませんか」
ブルーノは重ねて強く言う。
「命令には従え」
近衛兵達は渋々、後方へ引き下がった。
それを見てブルーノは団長に言う。
「こちらの準備は整った。
そちらはどうする」
団長は声を張り上げた。
「賞金首が前に出てくれて嬉しくて涙が出る。
こちらも下がらせよう。
全員後方へ下がれ。
陛下は俺がやる」
団員達は異を唱えない。
即座に後方へ引き下がり、安堵したかのように肩の力を抜いた。
入り替わる様に団長が前に進み出た。
腰の長剣を抜くとブルーノを睨み付けた。
「これも仕事なんだ、恨まないでくれよ」
ブルーノは内心で笑った。
挑発が効いている。
これで時間を稼げる。
稼いで皆の疲れを取る。
セコイがこれも生き残る為、戦神も許してくれるだろう。
団長が長剣を二三度振り回し、問うてきた。
「アンタ、人を斬ったことはないんだろう」
「ない、それが」
「怖くないのか」
「誰が、お主が怖いとでも」
団長が高らかに笑う。
「ファッファッハ。
アンタ、失礼、陛下、アンタ馬鹿か」
「気にするな。
その前に教えてくれ。
私の首は幾らする」
団長は表情を改めた。
「ほう、怖くないようだな。
声に震えがない、いい根性だ。
うちの団に入れば副官にはなれるな。
・・・。
根性に免じて教えてやろう。
首と引き換えに西国のシルクロードの貿易都市を一つ貰える」
西域諸国との通商路は確実なものではない。
季節の折々の砂嵐で毎度毎度、潰される。
安全なのは、点々と文字通りに点在するオアシス都市のみ。
交易するにはオアシス都市からオアシス都市を辿る必要がある。
その都市から都市を結ぶ定からぬ通商路は無数あり、
季節によって、あるいは嵐によって変更される。
それらが総称してシルクロードと呼ばれている。
「我が国に属しているオアシス都市は一つ。
琉球。
あそこは貴族が領有している。
貰うのは無理筋だろう」
団長が表情を緩めた。
「ほう、まだ知らぬのか」
「なにを」
「新たに見つかった、いや、新たに築かれたオアシス都市の話だ」
「泉が、水源が見つかったのか」
「本当に知らぬようだな。
冥土の土産に教えてやろう。
琉球オアシスと台湾オアシスの間、中間点で地下水が噴出したそうだ。
今、琉球オアシス側が管理している。
それを俺達が貰い受ける」
ブルーノは呆れてしまった。
あやふやな話だ。
「都市基盤は出来ているのか」
「まだ手つかずだが、琉球側の部隊が駐留しているから問題はない」
「大ありだろう。
外壁だけでも莫大な金を喰う」
「俺達が領有権を得たら、話を商人ギルドに持ってゆく。
共同経営、六四なら商人ギルドも金を出すはずだ。
どこに問題が」
「商人ギルドが四か」
「当然だろう。
こっちは命を張ってんだ」
「台湾側はどうする」
「先に見付けたのは、こっちだ」
ブルーノは団長を観察した。
奴から先程までの殺気が消えている。
今は夢想の境地、ある意味、残念な思考をしている。
長い傭兵生活から抜け出したくて、
今回の仕事を請け負ったに違いない。
☆☆☆
さむい、さむい。
みなさん、大丈夫ですか。
私は子供時分、18才までですが、
雪が降ったのは一回だけです。
泥んこの雪ダルマを初めて作りました。
そんな南国生まれなので、寒さに弱い、弱い。
死ぬくらい弱いのですよ、ですよ。
はぁー。




