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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(王宮の地下)4

 傭兵団『夜烏』三十五名は最後の扉に向けて足を速めた。

団長自らが【携行灯】を掲げて先頭に立っているので士気は高い。

「見えてきたぞ」

 前方に階段。

階段を上った先には扉。

団長はさらに足を速めた。

階段を軽快に駆け上がった。

重厚そうな扉の前に立った。

押した。

ビクともしない。

団員に向けて言う。

「契約スキル持ち、こっちへ来い」

 

 魔法使いの衣装に拘りを持つ団員が階段を駆け上がった。

帽子、飾り一つない武骨な杖、フード付きの長いローブ。

団長を押し退ける様にして扉の前に立った。

「お任せを」

 自信たっぷりの声で扉に左手を翳した。

スキルを起動した。

「術式が施されています」団長に報告した。

「解けるんだろうな」

「古い術式ですね。

・・・。

これなら解けます。

ちょっと時間は喰います」

 そう言いながら右手も動かした。

左手で扉の術式を確認し、右手でその術式に上書きをする。

実に古典的な手口。

でも効果はある。

 扉の一角が光を放った。

「解けました」普通に報告した。

彼にとっては当然のことなのだろう。


 団長が背後を振り向いた。

「行くぞ、静かに、素早くだ」

 返事代わりに団員達がそれぞれ得意の武器を手にした。

長剣を抜く者、斧を担ぐもの、短槍を構える者、

薙刀を振り回して確認する者。

 団長は【携行灯】を消した。

辺りが暗闇に包まれた。

団長の片手が扉に伸びた。

そっと力を入れた。

扉が音もなく力を入れた分だけスッと動いた。

先も暗闇。

灯りも人の気配もない。

 団長は安堵した。

ここまで全てが思い通りに進んでいた。

これよりは仕上げだ。

慎重かつ大胆に。

 扉を全面開放した。

【携行灯】の灯りをつけた。

貯蔵庫を見回した。

棚が乱雑に並んでいた。

床に積み上げられた物もある。

ここは秘密になっているので整理整頓する人間は置かないのだろう、

そう思った。


 団長の左右を団員達が追い越して行く。

足音を立てず、ススッと棚と棚の間を縫って進む。

と、前方で声が上がった。

「放て」命令。

 団長は踏み出した足を止めた。

誰の声だ、何が起きた、それを判断するより先に攻撃された。

三方より攻撃魔法が放たれた。

風魔法のウィンドボール。

水魔法のウォータボール。

土魔法のアースボール。

 棚の陰からそれらが放たれた。

的確に先を行く団員達に当たった。

上がる悲鳴。

次々に倒された。


 団長は即座に理解した。

伏兵だ。

野戦ではよくあること。

珍しくもない。

【携行灯】を消した。

貯蔵庫が暗闇に包まれた。

 事前に漏れていたのか、それはない。

攻撃の数から判断するに、あまりも少ない。

右往左往する事態ではない。

偶発的に露見したのだろう。

これなら乗り切れる。

「こちらも魔法で反撃しろ」

 攻撃魔法のスキル持ちが二名。

微力な者が三名。


 こちらが反撃する前に敵の声が上がった。

「魔法攻撃止め、蹴倒せ」

 途端、ドドンドン、バタンバッタン。

棚と言う棚が蹴倒される音が室内に響いた。

再び悲鳴、そして怒号。

団員達が狼狽している。

野戦であれば逃げ場もあるが、ここは狭くて暗い闇の中。

棚が倒されて足場も悪い。

立て直す手立てがない。

 またもや敵の声が上がった。

「同士討ちせぬように、ゆっくり前進せよ。

『夜烏』を捕獲し、鳥籠で飼うぞ」


 団長も狼狽した。

正体まで露見した。

これでは失敗して逃走しても生き延びる術はない。

口封じの為に敵を殲滅するしかない。

「こちらもゆっくり前進しろ。

敵を殲滅するぞ」

 どちらが立てたかは分からないが、ザザッザザと摺り足で進む足音。

ブスッと突き刺さる音。

バサッと斬られる音。

カキーンと討ち合う音。

短い悲鳴。

「誰だ」と誰何する声。

閉じられた空間なので、恐怖感が増して行く。


 敵の馴染みの声。

「【携行灯】を点けろ」

 三か所で一斉に灯りが点けられた。

それがこちらに向けられた。

逆光になって眩しい。

一瞬、目を逸らした。

 敵が速攻に転じた。

ドドンと床を蹴って、こちらに突進して来た。

障害物を飛び越えて、的確に槍を突き出す。

近衛軍の制服。

僅か五名だが、手練れ揃い。

しかも連携するから始末に困る。

 団長は臍を噛んだ。

貯蔵庫に入った瞬間から敵の術中にはまっていた。

暗闇からの攻撃魔法。

予想すらしない棚の蹴倒し。

【携行灯】の逆光。

こうまで完璧にしてやられるとは。

それでも諦めない。

最後には数が物を言う。

半数ほどが死傷か、棚の下敷きで身動きがとれないが、

それでも残りは両足で立っている。

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