(営巣地)5
俺は眷属の二人を探した。
二人は右方でワイバーン3翼と戦っていた。
当初は8翼であったはず。
彼等の下の湖面を見た。
その湖面、何やら奇妙に一部が歪んでいる。
どうやら水棲の魔物が活動している気配。
落下したワイバーンを引きずり込んでいるのだろう。
ハッピーの機体が1翼の片翼を突き破った。
その個体は必死に足掻いて飛行を続けようとした。
片翼をフル回転。
風魔法を駆使するも耐え切れずに高度を下げて行く。
待ち切れぬのか、湖面から水棲の魔物が姿を現した。
たっ、タコッ・・・。
でかい禿げ頭。
大きな目をギョロリ。
湖面に12本の足を浮かべた。
ほんとうに蛸だ。
噂に聞くオクトバスソールに違いない。
蛸の種から枝分かれした水棲の魔物。
大きな河や湖に棲む魔物でランクはA。
まさか本物とご対面とは、今日は蛸飯かな。
そのオクトバスソールが12本の足で湖面を蹴り、空中に飛び上がった。
数本の足をワイバーンに絡ませた。
抵抗するワイバーン。
オクトバースソールの全長は足まで含めると約5メートル。
対するワイバーンは約8メートル。
大きさも体重もワイバーンが勝っていた。
純粋な数字だけの戦いだとワイバーンに軍配が上がる。
ところがそれを覆すものがオクトバスソールにあった。
足の吸盤だ。
その吸盤でワイバーンに喰らい付いて離れない。
ついには12本の足でワイバーンを完璧に捕えた。
両翼の動きを封じた。
そのまま重力に任せて落下。
ドブ~ンとも、ドボ~ンとも聞こえる水音。
長い悲鳴を上げるワイバーン。
引きずり込まれる様にしてズブズブと姿を消して行く。
湖面に新たなオクバスソールが姿を現した。
キョロキョロと上を見上げた。
空腹のようで、次を期待している様子。
残った2翼に動揺が走った。
エビス二機が前門の虎なら、下には後門の狼。
2翼は煮え切らぬ動きをしつつ、未練がましい視線も巡らし、
ついには逃走に踏み切った。
営巣地方向に逃げる。
追おうとした二機を俺は止めた。
『もういいよ。
これ以上は弱い者いじめだよ』
『それもそうね』アリスは余裕ある返事。
『ペー、しかたない、しかたないっペー』ハッピーも。
俺は戻って来た二機を念入りに鑑定した。
ワイバーンとの連戦だっが、破損どころか剥がれも歪みも一つとてない。
凄い。
これを造り上げた奴を褒めてやりたい。
メイド・バイ・俺。
『ねえダン、クイーンとキングの魔卵をどうするの』
『中身を調べてからだよ』
魔卵には種類がある。
多いのは、魔素がゆで卵のような物。
少ないのは、魔素が液卵のような物。
同じく、魔素が砂状になって詰まった物。
そのまま使えるのは、ゆで卵化した魔卵。
魔水晶に施している付与を魔卵に同じように施すと、
魔水晶を上回る力を発揮する。
下二つの液卵や砂状の物は、調剤や鍛冶の際に添加すると、
これまた抜群の効果を発揮する。
『エビスに搭載するのよ』アリス。
『プー、僕のも、僕のも』ハッピー。
クイーンとキングの魔卵を調べてもいないのに、
搭載するのが決まってしまった。
アリスは妖精だから脳味噌の容量自体が小さい、加えて脳筋。
ハッピーは脳味噌があるのかどうかすらも不明。
こんな二人に説明するのは不毛。
暇な折にダンジョンでクイーンとキングのデーターを収集し、
それからどうするのかを考えよう。
妖精の里の妖精達が群れなして飛んで来た。
先頭は長老。
速さが他とは一段も二段も違う。
風を切って俺の傍に飛来した。
『ありがとう。
約束を守ってくれたわね』
『はい、約束ですから』
『人間にしては律儀な奴、褒めてとらす。
何か欲しい物はないか、あれば褒美としてとらすぞ』
『褒美というより、うちで保護している妖精達はどうしますか』
『里の掟を破り、結界から出て、欲深い人間に騙された者達じゃな』
『そうです。
保護しています』
『今は自由なのじゃろう』
『はい。
ダンジョンで休養しています』
長老は仲間達を振り返り、ちょっと考えた。
『そうじゃな・・・、好きにさせるしかないな。
帰って来るも良し、帰ってこないも良し。
力尽くで引き取っても、心根は治らぬじゃろう。
またいつか里を飛び出す。
そなたには悪いが、面倒をみてやってくれ、頼む』
俺の代わりにアリスが応じた。
『頼まれた』
『ピー、頼まれた、頼まれたピー』
長老は二人に苦笑い。
『頼んだぞ』
俺は転移、転移で国都に戻った。
傍にアリスとハッピーはいない。
二人はダンジョンに寄ると言うので途中で別れ、今は俺一人。
幼年学校の遥か高々度から見下ろした。
街は復旧でてんやわんや。
瓦礫の撤去、ワイバーンの解体等、大勢が立ち働いていた。
俺は光学迷彩のまま、人気がないのを確認し、
学校から少し離れた公園に風魔法で降り立った。
学校のローブに着替えて、公園を出た。
遠回りに学校へ向かった。
道々、街の様子を見聞きしながら、歩を進めた。
「討伐されたワイバーンが落ちて来て、家が圧し潰された」
「ワイバーンのブレスで屋根瓦が吹き飛ばされた」
「連弩の鉄矢が壁に突き刺さった」
「カタパルトで飛ばされた石が落ちて来て、頭に当たって死んだってよ」
色々と耳にしながら街角を曲がった。
そこで意外な人物達と鉢合わせした。
パティ毛利とアシュリー吉良、二人の女の子とその従者達。
二人はクラスは違うけど同じ一年のクラス委員だ。
委員の集まりで顔を合わせるだけで、それほど親しくはない。
どちらかと言うと、吉良には嫌われている、きらだけに。
俺は丁寧に挨拶した。
「こんにちは。
昨夜は大変でしたね。
お屋敷に被害はなかったのですか」
パティが愛想良く応じた。
「私の屋敷は被害に遭わずに済みました。
そちらは如何でした」
「うちの屋敷も被害に遭わずに済みました。
ただ、ワイバーンが落ちて来ましてね。
大きい奴が。
うちの上で力尽きたのでしょう。
感心なことに、お行儀良く何も壊さず、庭先に落ちてくれました。
今頃は解体されて、お肉になっている頃でしょう」
とても児童とは思えぬ他人行儀な言葉の遣り取り。




