(営巣地)3
俺は長老に言い返せない。
正しいかどうかは知らないが、理屈は分かる。
それがこの森の常識なのだろう。
だからと言ってワイバーンの営巣地を見逃すのも、なんだかなあ・・・。
長老が反論せぬ俺をジッと見た。
『我等にとってはワイバーンよりも人間の方が質が悪い。
荒地や草原を見つけると、勝手に開拓して村にする。
森や林を見ると、当然とばかりに切り開き道を通す。
こんなに迷惑な連中は魔人か人間の二種だけだ』
えっ、魔人・・・、魔人っているの。
寓話の中の魔人は知っているけど・・・。
それは置いといて、俺はワイバーンに国都が襲われた事を説明し、
『半分ほどを討伐しましたが、肝心のワイバーンキングを逃しました。
このまま終わるとは思えません。
必ずや機を見て、再び国都を襲うでしょう。
それを阻止する為に俺達は来ました。
何と言われようと営巣地を攻撃します』目的を話した。
『プー、攻撃、攻撃プー』鼻息の荒いハッピー。
『私も攻撃に参加するわ』アリスは言い切った。
長老は腕を組んで溜息をついた。
少し考えてから俺を見た。
『そちらの事情は分かった。
しかし困ったものだ。
落とし所が分からぬ』
俺も困った。
妖精の里と敵対関係になりたい訳じゃない。
妥協点を探ろう。
『営巣地を残せば良いのですね』
『そうじゃ、できるか』
であれば、できる。
『ワイバーンキングとクイーンは討伐しても良いですね』
『キングとクイーンはどうなっても構わん。
肝心なのは営巣地じゃ』
『分かりました、何とかしましょう』
俺はアリスとハッピーに伝えた。
『湖の上にキングとクイーンを誘い出して討伐するよ。
その2翼は俺が相手する。
二人には2翼に加勢しようとするワイバーンの討伐を任せる。
それで良いかい』
『私にもキングかクイーン、どちらか1翼を回してよ』
『ピー、キング、クイーン、どちらかピー』
二人の意気込みが分かった。
断れない。
『できるのかい』
『任せて』
『ポー、任せて、任せてポー』
『二人でクイーンを討伐してよ』
俺は光学迷彩を解いた。
風魔法ではなく重力魔法の飛行スキルで湖上に向かった。
手頃な辺りでホバリングし、【ツインの複合弓】を取り出した。
前回は風魔法に対抗する為、魔水晶の光魔法を選択した。
今回はそれと比較する為、魔卵の重力魔法を選択した。
矢は同じく鉄矢。
EPの数値は・・・、光魔法は15だったが、
遠距離なので重力魔法は20からのスタートにした。
ワイバーンクイーンは営巣地上空にいた。
配下2翼を従えて旋回を続けていた。
遮る物がない湖上なので、一度だけ俺に視線を向けて来た。
でも小さいと侮ったのか、フンとばかりに視線を元に戻した。
好都合。
俺は配下2翼を狙うことにした。
脳内モニターでズームアップ。
手前のは右目、奥のは頭部。
続け様に射た。
光より速度は落ちるが、ワイバーンが纏う風魔法には影響されない。
狙い通りのコースを二本の矢が飛ぶ。
2翼は全く気付かない。
鉄矢が右目に深々と刺さった個体は身体を傾けて落下。
頭部に突き刺さった個体も同じ。
悲鳴一つ上げずに落下する2翼をクイーンは不思議そうに見送り、
やおら周囲を警戒するように見回し、そして、最後に俺に目に留めた。
探るように睨む。
俺はクイーンを挑発することにした。
水魔法、ウォータボール・水弾を放った。
距離はあるが狙い通り着弾・・・。
やはり、クイーンが纏う風魔法で弾かれた。
クイーンが怒りの咆哮。
旋回を止めた。
俺に正対した。
再び咆哮。
全速力で飛んで来た。
釣れた。
針はなくても大物を釣り上げた。
俺は動かない。
クイーンはとてもご立腹の様子。
まっしぐら。
周囲に気を配る余裕はなさそう。
高々度にはエビスゼロとエビス一号が待機していた。
当然、アリスとハッピーが機上していた。
『行くよ、ハッピー』
『パー、アリスん、降下、降下パー』
瞬時に加速し、急降下した。
エビスゼロは機体にアリスの妖精魔法を纏わせ、
エビス一号はハッピーのダンジョンスライム魔法を纏わせ、
錬金魔法で造られた機体を更に魔法で強化していた。
エビスゼロはクイーンの右の翼に狙いをつけた。
エビス一号は左の翼に狙いをつけた。
太い胴体よりも弱いだろうと二人で考えたのだ。
クイーンが気付いた時には終わっていた。
両翼に穴を開けられ、その痛みの声を上げた。
湖上をその悲鳴が渡って行く。
俺は自分が造り上げた機体が心配になった。
『機体に異常は・・・。
先端は潰れてない、大丈夫』
『ないない、大丈夫』
『プー、仕留める、仕留めるプー』
二機は湖面すれすれで反転、クイーンの頭部に突っ込んで行く。
無謀にも突っ込むかと思いきや、違った。
それぞれが得意の魔法を放った。
アリスは右から妖精魔法の風槍・ウィンドスピア。
ハッピーは左からダンジョンスライム魔法の水歯車・ウォータギア。
息の合った攻撃魔法が叩き込まれた。
弾けるクイーンの頭部。
HPがゼロになったのを俺は探知と鑑定で確認した。
このままにしては置けない。
もったいない、もったいない。
湖面に落下して行くクイーンの傍に転移した。
虚空の空きスペースにクイーンを収納した。
『ダン、どうかしら、私達の仕事は』
『ピー、仕事、仕事ピー』
綺麗な頭部が欲しかったが、それは言わない。
『満点だよ』
『だよねー』
『プー、満点、満点』
喜びも束の間、主役の登場だ。
営巣地からクイーンよりも強力な魔力が湧いた。
それが上空に舞い上がった。
ワイバーンキング。
ホバリングして俺達を視認、睨み付けた来た。
遅れて配下が付き従う。
8翼。
それぞれが咆哮した。
かなりお怒りのようだ。




