(営巣地)1
俺は探知で二人の居場所を探した。
大胆にも王宮区画が見下ろせる高々度にいた。
暇人でもなければ、そこまで調べる魔法使いはいないだろう。
俺は公園の中の死角に移動した。
鬱蒼とした木立が遮蔽物になっていた。
悪党ファッションに着替えた。
続いて光体を身に纏い、光学迷彩、身体強化。
風魔法で高々度へ向かった。
この高さなら魔波の痕跡は辿れない。
本気が出せる。
重力魔法で二人の傍に飛んだ。
エビスゼロとエビス一号が仲良く並んでいた。
『お待たせわね』
『ポー、急ぐ、急ぐっポー』
『せっかくだから、下の様子を見るよ』
被害が甚大なのは王宮区画であった。
ほとんどの建物の上層階が壊れていた。
大きな原因は二つ。
雷魔法による落雷、そして墜落したワイバーンの圧し潰し。
外郭区画も被害を受けていた。
その多くはワイバーンのウィンドスピアによるもの。
穴が開けられた建物がそれだ。
それでも被害総額にすれば王宮区画の一割にも達しないだろう。
酷い状況なのは外堀も負けてはいない。
溺死している魔物が水面全体を覆っていた。
このままでは疫病の発生源になる。
早急に取り除く必要があるだろう。
人命が多く失われたのは王都の外。
軍駐屯地、各種ギルドや商人の施設。
魔物の混成群により西北東にあるのは全て壊滅していた。
辛うじて原型を留めているのは南側の施設のみ。
被災地では魔法が飛び交っていた。
大勢の魔法使いが駆り出され、瓦礫の撤去、ワイバーンの移動、
建物の修復に努めていた。
風魔法で撤去や移動。
土魔法で修復。
それでも人手は足りない。
それを補っているのが魔道具。
あちこちの現場で風魔法や土魔法に特化した魔道具がフル稼働し、
国都復旧の一端を担っていた。
王宮区画の四つの門は閉じられているのに外郭の門は全て開放され、
何事もなかったかのように大勢の旅人やキャラバンが出入りしていた。
昨夜は緊急事態であったが、夜が明けたら一転して平常運転。
あれほどの被害を受けたと言うのに、実に逞しい。
これは政務を司る者の意地なのかも知れない。
焦れた様にアリスが言う。
『そろそろ行くわよ』
『分かった』
『プー、転移、転移プー』
エビス一号が真っ直ぐ北へ転移。
ズームアップで追跡。
随分と遠いが、何も遮る物がないので視界は良好。
『卑怯者』アリスの叫び。
エビスゼロとエビス一号が先を競って転移する。
それを追う俺。
気付くと山城を過ぎ、丹波か丹後か、あるいは若狭か、
知らぬ景色の上空にいた。
稲穂の海を見下ろした。
風に揺れる黄金色の波。
見下ろしていると今にも波音が聞こえそう。
『何してんの、急ぐわよ』アリスに注意された。
予想通り北の国境を越え、
北域諸国との境となる山岳地帯上空に達した。
ここは奥行きの深い山岳が連なっている上に、
多種多様の魔物が棲みついているので、
どこの国も領有権を主張しないし、できない。
過去に主張した国があった。
すると他の国々に街道を造れ、宿場を置け等々と要求された。
領有権を主張した手前、できませんとは言えない。
着手した。
結果、激甚な被害を受けた。
山に入った大勢の工夫や護衛の軍が魔物の餌になってしまった。
加え、勢い余って山岳から押し出して来た魔物の群れに、
最寄りの街も潰された。
それ以来、領有権を主張する国はない。
お陰で足利国は対外的には安泰でいられた。
下に大きな河が見えた。
水量が多く、ゆったり流れている。
西へ流れているところから、たぶん、九州方向へ流れて行くのだろう。
アリスが言う。
『この河に沿って上るわよ』
『河の名前は』
『大きな河よ』
『ペー、大きな河、大きな河』
ここへ来るまで空で遭遇したのは、ただの鳥ばかり。
ところが、この辺りから少し違ってきた。
如何にも空飛ぶ魔物と言える奴らが増えて来た。
鳥系の魔物、昆虫系の魔物、判断に苦しむ魔物。
何れも羽か翼の持ち主。
奴らは俺達を見つけると襲って来た。
見つかるのは転移したエビスゼロとエビス一号だ。
幸いは俺は光学迷彩なので、気付かれもしない。
でもエビス系は転移し終える度に姿が露わになるので、見つかる。
生憎、俺達は暇ではないし、無用な争いは好まない。
逃げる様に転移、否、先を急いで転移した。
大きな河の先に一際高い山が見えてきた。
その中腹には雲が漂っていた。
『あの山の裾に湖があるの。
その湖の周辺が営巣地よ』
急に暴力的な魔力を感じた。
まだ湖は見えないが、
その辺りと思える樹海から魔力の塊が飛び上がって来た。
ズームアップ。
大型のワイバーン。
姿形がキングに似ていた。
俺達は次の転移を思い止まった。
ハッピーが悲鳴を上げた。
『パー、ピー、クイーン、クイーンプー』
『魔波からするとワイバーンクイーン』アリス。
『このまま転移するとクイーンと衝突しそうだ。
取り敢えず下に降りて姿を隠そう』
ワイバーンクイーンは探知で俺達の接近に気付いた訳ではなさそう。
小さく旋回しながら周辺を警戒する。
おそらく勘働きだろう。
伐採されていない樹海だが、魔物の往来があるので、
所謂、獣道というものが無数、無軌道に走っていた。
その一つに降り立った。
『エビスだと見つかる、光体で向かおう』
二人は渋々、エビスを収納し、俺の光体に入って来た。
『一人だと寂しいの、しようがないわね』
『ペー、寂しいんだ、寂しいんだ』
二人とも俺の肩に腰を下ろした。
アリスが右肩に乗ったので、ハッピーは左肩。
全く遠慮と言うものを知らない。
ワイバーンクイーンの勘を警戒し、獣道を走った。
これなら気付いても、四つ足の魔物と勘違いするだろう。
途中でその四つ足の魔物に遭遇するが、
こちらは光学迷彩を施しているので、全く気付かれない。
ジャンプしてクリア。
『プー、ジャンプ、ジャンプップー』
血を流すことなく、湖へ向かった。




