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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
181/373

(襲来)9

 鉄矢が額に突き刺さったと言うのに、即死には至らなかった。

ワイバーンは落下する途中、翼を広げ、飛行体勢に戻ろうと足掻いた。

足掻きに足掻いた。

無駄だった。

そのまま真下の建物の屋根に頭から突っ込んだ。

鈍い衝突音。

貴族邸の最上階の一角を壊し、身動きしなくなった。

 探知と鑑定で調べた。

生体反応が消えていた。

これでEP数値の正解が見えた。

ちょっと足りなかった。

一射にEP15を充てよう。

MP換算すると、たぶん、30から40だろう。

 

 あっ、あれは・・・。

ワイバーンが一角を壊した建物から、わらわらと人々が飛び出して来た。

顔見知りのお貴族様当人もいた。

顔色が悪い。

ワイバーンに襲われたとでも勘違いしているのだろう。

 でも、まあ、いいか。

俺がそのワイバーンを討伐したんだけど、

誰も見てないから内緒にしとこう。

所有権も主張しない。

お貴族様に譲りましょう。

例え本館そのものが壊れたとしても、

ワイバーンから魔卵を取り出し、それを売れば釣り合うはず。

さらに解体すれば部位も高価で売れる。

最終的には大幅な黒字。

問題解決だね、たぶん・・・。

さぁ、次のワイバーンは何処・・・。


 2翼目が仲間が討伐された事に気付いた。

怒ったかのような仕草をし、右から接近して来た。

俺を獲物として視認する目付き。

かえって好都合。

射程300に入った奴の額を射た。

 これまた躱せる訳がない。

命中、矢羽まで完全に、めり込んだ。

スイッチが切れたかのように、力を失うワイバーン。

悪足掻き一つもせずに貴族街の路上に落下した。


 3翼目は左から襲って来た。

これを、飛んで火にいるワイバーンとでも言うのだろうか。

射程300、まだまだ、200、まだまだ、100を切った。

顔が大きい、大きい、怖い、怖い。

速度を落とさない所を見ると、俺を屋根から弾き飛ばすつもりのようだ。

ワイバーン君、さて、思い通りに行くかな。

 最接近、50。

射た。

命中、額から貫通し、後頭部から鉄矢が飛び出した。

へえー、やったね、俺。

 感心している場合ではない。

風魔法、風魔法。

風魔法で奴を捉え、屋敷に被害が出ない様に落下させないと。

 捉えた。

制御して馬場の、ど真ん中に下ろした。

商品が痛まぬように、そっと下ろした。

すると下から歓声とも悲鳴ともつかぬ声が上がった。

敷地内でワイバーンに備えていた兵士達だろう。


 南区画に向かって来たのは4翼だから残りは1翼。

はて、いないな。

探知と鑑定で探した。

あっ、いたいた。

少し離れた場所で騎兵隊と戦っていた。

ワイバーンは旗色が悪い。

直に討伐されるだろう。

 国都全体を調べてみた。

予想通り、ワイバーンは数を減らしていた。

どうやら、こちらに向かって来る個体はなさそうだ。

 外の魔物達はどうなんだろう。

驚いた事に一匹もいない。

遺骸が残して、全て姿を消していた。

ワイバーンの威圧が消えたので、通常モードに戻り、

それぞれの営巣地に引き揚げたのだろう。


「新たなスキルを獲得しました。雷魔法☆」脳内モニターに文字。

 やったね俺。

「新たなスキルを獲得しました。

雷魔法の広域攻撃魔法、サンダープリズン」


 風魔法で屋根から飛び下り、部屋に戻った。

バーティ仲間達は部屋の片隅に集まり、お茶していた。

緊張感が欠片もなかった。

真っ先に俺に気付いたシンシアが口を開いた。

「外の様子はどうなってるの」

「話は後で。

それよりも外に出よう」

「どうしたの」

「ワイバーンの1翼が家の馬場に落ちた」

「落ちた・・・」

「誰かが討伐したみたい」

「誰かが・・・」

 皆の目が俺に問うていた。

アンタ、なにしたのって。

えっ、内緒、説明するのが面倒臭い。


 俺は仲間達に加え、一階にいた執事のダンカン達を引き連れ、

馬場に急いだ。

外はまだ暗いが、要所には篝火が焚かれているので、転ぶことはない。

 途中、上空を警戒している兵士達が俺達に気付いて、

直立不動の敬礼をした。

面映ゆい。

まだ子爵様に慣れない。

それでも歩きながら答礼した。

「ごくろうさん」

 こちらに駆けて来る足音。

急いているようだ。

暗がりから兵士が飛び出して来た。

俺に気付いて急ブレーキ。

「報告します。

馬場にワイバーンが落ちました。

調べたところ、誰かに討伐されたようで、死んでいました」

 誰かって、俺なんだけど、それは言わない。

すると、背中を仲間の誰かが突っつく。

アンタじゃないのと言わんばかりの強さ。

振り返らない、振り返らない。

俺が相手するのは目の前の兵士だけ。

「分かった、案内して」


 馬場ではワイバーンを取り囲むように、盛大に篝火が焚かれていた。

主役はワイバーン。

それを見て仲間のキャロル達、女児が悲鳴を上げた。

「イヤー」

「キャー」

「コワイ」騒ぐけど足は止めない。

 少しだけ年上のシェリルは違った。

「すっ、凄いわね。

本当に死んでるの」守り役・ボニーの手を引きながら歩み寄る。

 大人のシンシア達は元国軍士官だけあり、平然と歩み寄り、

手を伸ばして外皮の手触りを確かめた。

「死んでも、染み込んだ魔力は抜けないのね」

「良い防具になるわね」

「私ならフード付きの長いローブと手袋、あとブーツかな」

 空を飛ぶワイバーンには恐怖するが、こうなると、ただの原材料。

どうやって解体するのかな。

ワイバーンとは初対面なので分からない。

そんな俺の前に小隊長のウィリアムが来た。

村時代からの仲なので気安い。

「このワイバーン、如何いたしますか」

「如何とは」

「討伐者が所有権を主張なされると、少々、面倒なことに」

「討伐者が主張するにして、その根拠となるものが有るのかい。

見たところ、槍も矢も刺さってないようだけど」

「そうなんですよ。

それで扱いに困っています」

「腐る前に解体するしかないだろう」

「・・・それもそうですよね。

それでは解体します」

「聞くけど、ワイバーン解体の経験は」

 ウィリアムが笑みを漏らした。

「魔物で慣れてます。

ワイバーンはちょっと大きいだけです。

任せて下さい」

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