(ギター)8
先祖返り、という言葉が気になった。
もしかすると、そうなのかも知れない。
ダンマスとの戦いの後遺症、と考えていたが、
先祖返りの方が、しっくりきた。
連綿と伝わってきた遺伝子の中の眠っていた箇所が、
ダンマスとの戦いで強引に揺り起こされ、
覚醒し、頭髪に現れたのかも知れない。
でも、頭髪だけの覚醒って・・・。
どうなんだろう、ありがたいのか。
夕食もそこそこに俺はベッドに潜り込んだ。
心身共に疲れていたので、直ぐに寝入った。
「カンカンカン、カンカンカン」
どのくらい眠っていたのかは分からない。
突然、警報音が鳴り響いた。
頭の中で警報音。
俺が目覚めると同時に脳内モニターが起動した。
就寝前に探知☆スキルと鑑定☆スキルを設定しておいた。
夜中に屋敷に接近して来る不審者の発見と、
自分の身体の異常を知らせる機能、
その二つを連携して働かせていた。
原因はそれか・・・。
モニターに文字が現れた。
「HP・EPともに回復中です。
HP(222)残量、195。
EP(222)残量、190。
人間の体内に蓄積できるのは、共に200までです。
超過分は虚空の空きスペースに蓄積出来ます。
超過分を虚空の空きスペースに蓄積します。
これより虚空への回路を開きます」
超便利な虚空。
スキルを得た際の事を思い返した。
「憑依スキルは人間には使用不可能です。消去します」との報告。
あの時は俺に可否を問わなかった。
不要だからと勝手に消去した。
今回も可否を問わない。
可能だからと勝手に推し進める。
だったら起こすなよ、勝手に作業してくれよ、と言いたい。
モニターが知らないうちに超グレードアップしていた。
俺の利益を判断し、作業し、進展具合を報告してくれる。
ここまで便利な機能は、まるで「AI、人工知能」だ。
でも、まさかね。
とにかく二十四時間働いてくれる何かに感謝、感謝。
心穏やかに過ごすには、警報音に工夫する必要がありそうだ。
今度は癒してくれるオルゴール音にでもしよう。
俺を無視して新たな文字が走って行く。
「回路を連結します」
「連結終了。HP蓄積します」
「設置終了。EP蓄積します」
「設置終了。虚空を確認して下さい」
作業が終了したらしい。
モニターが勝手に消えた。
俺は慌ててモニターを再稼働させ、自分のステータスを確認した。
「名前、ダンタルニャン佐藤。
種別、人間。
年齢、九才。
性別、雄。
住所、足利国尾張地方戸倉村住人。
職業、なし。
ランク、B。
HP(222)残量、199。
EP(222)残量、195。
スキル、光学迷彩☆☆、探知☆、鑑定☆。
ユニークスキル、無双☆☆☆☆☆(ダンジョン内限定)、
ダンジョンマスター☆、虚空☆」
虚空☆のアプリをクリックした。
「HP蓄積スペース。EP蓄積スペース。ギタースペース」三項目あった。
はて・・・、ギター・・・。
上半身を起こして虚空スキルを起動した。
収納スペースはHPやEPと同じ222。
空きスペースが多い。219。
使用中2は蓄積スペース。
そしてギタースペース。
ギターをイメージすると膝の上に現れた。
アコースティックギター。
スティール弦。六弦。
ピックは付いていない。
前世のギターにそっくり。
それも市販品ではなく、名のある職人手作りの逸品・・・、そう見えた。
これは倒したダンジョンマスターの遺品なのだろうか。
それ以外は考えられないのだけど。
だとしたら奴も俺と同じなのか・・・。
だとしても、俺には何も付いていなかった。
スキルも加護も、ギターのような前世の逸品も。
あー、差別だ。
爪弾いてみたいけど、ここでは駄目だ。
暫く寝かせるしかない。
朝一番、母に抱き寄せられ、
髪の毛をぐちゃぐちゃに揉みほぐされた。
「綺麗な髪の毛。
ここまでの白銀は初めてよ。
それに艶もある。
他の銀髪が霞んでしまうわね。
嫉妬されるわね。
なんて羨ましいの」
祖母も揉みほぐしに加わった。
「この手触り。
なんて良いの。
サラサラ。
このまま伸ばしなさい。
毛筆にするから、長く伸ばすのよ。いいわね」笑顔で俺を脅す。
「お祖母様、こんなに艶があったら墨を弾きませんか」母が疑問顔。
「そうね。
・・・。
そうだわ。私の家宝にするわ」
「それじゃぁ、私も一本」
約束させられた。