(襲来)7
俺は魔導師達の範囲攻撃魔法の凄さに驚いた。
20翼ほどを撃墜。
予想外の攻撃力を目の当たりにした。
これならワイバーンを討伐できるのではないかと期待した。
と、それも束の間、身体の芯から凍えた。
殺意混じりの物凄い魔力を感じた。
目の当たりにしているワイバーンとは桁違いだ。
それは俺の探知と鑑定の外から来た。
精度を荒くして広範囲を把握していたつもりが、埒外に脅威がいた。
気付いた時には遅かった。
1翼が遥か高々度から急降下して来た。
体長は15メートルほど。
翼を広げれば30メートルほど。
他のワイバーンとは一線を画した個体。
明らかにワイバーンキング、Sランクだ。
『きっ、来たわね』警戒するアリス。
『プー、怖いプー、』動揺するハッピー。
「新たなスキルを獲得しました」脳内モニターに文字。
続けて羅列された。
「ボール系、カッター系、アロー系、ソード系、スピア系、
漏れなく獲得しました」
「新たなスキルを獲得しました。氷魔法☆」
「シールド系も漏れなく獲得しました」
「七つの範囲攻撃魔法を獲得しました」
「ファイアストーム、ウォータストーム、アースストーム、ウィンドストーム、
ダークストーム、ライトストーム、アイスストーム」
魔法の修業は水魔法を主体にしていて、他は疎かにしてきた。
そのせいで行使できる魔法は偏り傾向にあった。
それが、それが、全て、一挙に、見ていただけで獲得できた。
ワイバーン様、ある意味、ありがとう。
「名前、ダンタルニャン佐藤。
種別、人間。
年齢、十才。
性別、雄。
住所、足利国尾張地方戸倉村生まれ、国都在住、美濃地方木曽。
職業、子爵、木曽の領主、冒険者、幼年学校生徒、アリスの名付け親、ハッピーの名付け親、山城ダンジョンのマスター。
ランク、B。
HP(333)残量、290。
EP(333)残量、205。
スキル、弓士☆☆。
ユニークスキル、ダンジョンマスター☆☆、虚空☆☆、魔女魔法☆☆、
無双☆☆☆☆☆(ダンジョン内限定)。
加護、神竜の加護」
「光学迷彩☆☆☆、探知☆☆、鑑定☆☆、水魔法☆☆、火魔法☆☆、
光魔法☆☆、土魔法☆☆、風魔法☆☆、闇魔法☆☆、錬金魔法☆☆、
身体強化☆☆、透視☆☆、契約魔法☆☆、時空☆、重力☆、
氷魔法☆」
王宮区画の魔導師達も脅威の接近に気付いた。
即座に対抗措置をとった。
半数が直ちに攻撃魔法を放った。
初級魔法のボール系。
ただし、初級でもランクが違うので、集束された威力は半端ではない。
ファイアボール、ウォータボール、アースボール、ウィンドボール等々。
残った半数は防御魔法。
それぞれが得意のシールドを持ち寄るように、巧みに重ねて行く。
アイスシールド、ライトシールド、ウォータシールド、ウィンドシールド等々。
日頃の訓練の賜物だろう。
強固なシールドが組み上がった。
ワイバーンキングが下から来る攻撃魔法を視認した。
双眼を鋭くした。
攻撃には攻撃、ブレスウィンドストームを放った。
それでもって敵の複数の攻撃を相殺、瞬時に打ち消した。
降下速度を落とさず、そのままシールドに体当たり。
一枚、二枚、三枚と破壊し、高い建物に当たる寸前で急反転。
再び、高々度に舞い上がった。
そして、国都上空にて旋回を開始した。
全てのワイバーンが高々度に舞い上がり、
ワイバーンキングの旋回に付き従う。
星空の下、不気味な旋回を続けられた。
国都に住む誰もが不安に苛まれた。
防衛する将兵も、貴族も、街中の平民も、スラムの住人も。
星空を見上げ、ワイバーンの群れが、このまま立ち去るのを願った。
でも、願いは叶わない。
先頭のワイバーンキングが旋回から急降下に転じたのだ。
狙う先は王宮区画。
それに群れが付き従う。
近衛軍が応じた。
射程に入るや真っ先にカタパルトが唸りを上げた。
投石でもってワイバーンキングの鼻先を潰そうと狙った。
弓、弩、連弩は厚い外皮を避け、目を狙う。
魔法使い達も狙いは同じ。
魔導師達は一人を除き、全員が防衛に徹した。
王宮区画全体にシールドを張り付けた。
それが破られたら魔導師の最頂点に立つ大魔導師の出番。
持ちうる力を振り絞り、全力で反撃する。
ワイバーンの力の根源は風魔法にある。
人のように呪文を唱えるのではない。
呼吸するように自然に持って生まれたもの。
理解しないでも、翼を広げれば風魔法の補助で空を軽やかに飛び、
ブレスで敵を攻撃できる。
ワイバーンキングのブレスウィンドストーム。
全てを薙ぎ払う凶器そのものの暴風に風刃や風槍が入り混じり、
王宮区画を襲った。
幾重にも張り付けられたシールドを次々に打ち破って行く。
ブレスを終えると、まるで爆撃機のように余裕の反転、
高々度に舞い上がった。
それで終わりではない。
後続の群れがいた。
残ったシールドを破壊せんと、ブレスウィンドストーム攻撃。
Sランクに比べると格段に落ちるが、それでもAランクのブレス、
破壊力は十分。
5翼目で全てのシールドを攻略した。
こうなると、後はワイバーンの時間。
王宮区画で鐘が乱打された。
総員退避、直ちに屋内に退避せよと告げた。
ワイバーンと戦っている近衛軍の将兵も含まれていた。
一兵卒から将校、魔法使い、魔導師匠、司令官までが、
それまで扱っていた武器を置き去りにして従った。
例外が一人いた。
近衛軍の司令官と同待遇の大魔導師だ。
彼のみが屋上に残ることを許されたと言うか、最後の切り札であった。
彼はこうなると想定して準備万端整えていた。
後は発動するのみ。
総員退避したかどうかの確認もせず、
ワイバーンの後続が接近するのも構わず、呪文を詠唱した。
正しい文言、正しい発音、正しい息継ぎを心掛けた。
夜空に魔法陣が描かれて行く。
誇るかのように光り輝くそれは広域攻撃魔法の魔法陣。
完成するや、その証か、いきなりの暴風、続けて雷鳴、そして落雷。
国都上空で爆発するかのような雷鳴が無数、連続して轟いた。
間髪入れずに落雷がこれまた無数、連続して落ちた。
ワイバーンの群れが無事でいられる訳がない。
落雷を受けると身体が真っ二つになる。
彼等に対抗する術はない。
逃走を図り、方向も定めず闇雲に飛ぶも、逃れられない。
ワイバーンも凄惨な有様だが、王宮区画も目が当てられない。
建物が落雷で破壊されるか、
落下するワイバーンの重みで圧し潰されるか、
いずれにしても最悪の結果を招いていた。
綺麗事で言えば、王宮区画を捨てて外郭を守ると・・・。




